著者の所属・活動拠点の国は、バングラデシュ、スリランカ、パキスタン、ネパール、インドです。

掲載誌:Journal of Health Population and Nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:政策・市場・消費者をまとめて見る

砂糖を加えた清涼飲料などの「加糖飲料」は、肥満や2型糖尿病、心血管疾患といった非感染性疾患(生活習慣に関わる慢性の病気)と関連する食事上のリスク要因とされています。著者らによると、世界の加糖飲料の消費は2050年までにさらに増えると予測され、その伸びは南アジアで最も大きいと見込まれています。

南アジアの国々は、加糖飲料への課税や表示ルールなどの対策を進めてきました。しかし論文は、取り組みが国ごとにばらばらで、政策がどれだけ効いているか、企業がルールを守っているか、消費者がどう受け止めているかについての証拠が乏しいと指摘しています。例えばスリランカでは、飲料の75%が表示制度の外側にある非公式な市場で流通しているという報告が、ネパールでは青少年の84.1%が加糖飲料の健康知識を持ちながら行動の変化につながっていないという報告が紹介されています。

これまでの研究は、法規制、包装がルールを守っているか、消費者の反応を別々に扱うことが多く、地域全体で一つの枠組みにまとめた研究はなかったといいます。本論文は、この三つの側面を統合して調べ、南アジアに合った栄養プロファイリング(食品を栄養成分の基準で分類する仕組み)と、容器の正面に示す栄養表示(前面表示)の制度づくりに役立つ証拠を集めるための研究計画(プロトコル)です。結果の報告ではなく、これから行う調査の設計を示したものです。

何をどう調べるのか:三つの段階

研究には南アジアの5か国が参加します。バングラデシュ、ネパール、パキスタンが実際にデータを集める実施国、インドとスリランカが専門知識や政策の知見を提供する知識パートナー国です。期間は2025年1月から2027年6月までとされています。研究は、量的な調査と質的な調査を組み合わせ、三つの段階を順に積み上げる設計になっています。

第1段階では、各国の加糖飲料の栄養プロファイリングや表示に関する政策・法律・規制を、2014年1月から2025年1月までの文書を対象に体系的に洗い出します。それらを世界保健機関(WHO)の勧告や汎米保健機構(PAHO)の栄養プロファイルモデルなどの国際基準と比べ、どこが一致し、どこが不足しているかを示す「政策ギャップ表」を作ります。

第2段階では、店頭で売られている加糖飲料の包装を調べます。たばこの箱を監視する研究で使われてきた手法を応用し、選んだ店舗で、銘柄・味・容量・デザインなどが異なる商品をすべて1点ずつ購入して記録します。南アジアで広く飲まれている伝統的な甘い飲み物や甘い乳飲料は、一般的な定義では加糖飲料から外れがちなため、本研究ではこれらも対象に含めるとしています。

集めた包装は二つの指標で評価されます。一つは「遵守指数」で、表示や健康強調表示、販売促進の制限、原材料の明示などについて国のルールをどれだけ守っているかを示し、点数が高いほど遵守度が高いことを表します。もう一つは「包装リスクスコア」で、誤解を招く健康表示、不十分な警告、子ども向けの宣伝、栄養情報より目立つブランド表示、糖分の量などから、包装が消費者を誤解させたり不健康な摂取を促したりする度合いを示します。どちらも0から100の尺度にそろえられます。

同じ段階で消費者調査も行います。バングラデシュとネパールでは世帯を対象に、パキスタンでは学校に通う青少年を対象に、加糖飲料を飲む頻度や購入行動、宣伝に触れた経験、健康リスクの認識、表示の理解度などを尋ねます。対象者や抽出方法が国ごとに異なるため、分析は主に国別に行い、国をまたいだ比較は共通の項目の記述的な比較にとどめるとしています。

第3段階では、政策担当者、公衆衛生の実務家、研究者、消費者代表などが参加するワークショップを開き、第1・第2段階の結果をもとに、各国の事情に合った前面表示の試作案を共同で作ります。この過程には、政策の実施を左右する要因を整理する「実施研究のための統合枠組み(CFIR)」が用いられます。パキスタンでは、主な消費層である青少年自身が参加するワークショップから始めます。商業的な影響を抑えるため、参加者の利害関係の開示や、独立した研究者による進行といった対策も組み込まれています。

期待される成果と計画上の限界

著者らが見込む成果は、国ごとの政策の不足を比べられる政策ギャップ表、包装の遵守状況と消費者の行動に関する国別の証拠、そして関係者と共同で設計した表示の試作案です。これらによって地域の証拠を厚くし、政策をめぐる対話を後押しすることが期待されています。

一方で、論文は限界も明記しています。国によって包装調査と消費者調査のどちらを行うかが異なるため、国同士を直接比べることには制約があります。非公式な市場では商品を網羅的に集めにくく、一部の商品の種類が十分に捉えられない可能性もあります。消費者調査は自己申告に頼るため、記憶違いや望ましい答えに寄る偏りが生じ得ます。また、作成した表示の試作案が実際に消費者の理解や行動を変えるかどうかは、この研究では実験的に確かめず、別の研究での評価が必要だとしています。研究の位置づけとしても、加糖飲料の消費を直接減らすことではなく、そのための政策判断に役立つ情報を提供することが目的だと整理されています。

この研究計画が示すこと

この計画の特徴は、法律の中身、店頭の包装の実態、消費者の受け止め方という三つの視点を一つの枠組みで結びつけ、そのうえで現地の関係者と表示のあり方を考える点にあります。著者らは、規制の遵守と消費者が直面する情報環境を同時に評価する二つの指標や、たばこ対策の調査手法を加糖飲料に応用することを、この研究の方法上の貢献として挙げています。

制度を導入するだけでは実際の効果につながらない場合があるという問題意識のもと、政策の意図と現場の実態との隔たりを南アジアの文脈に即して明らかにしようとする試みだといえます。

原著論文の著者・所属:Rumana Huque(ARK Foundation, Dhaka, Bangladesh; Department of Economics, University of Dhaka, Dhaka, 1000, Bangladesh)、S. M. Abdullah(ARK Foundation, Dhaka, Bangladesh; Department of Economics, University of Dhaka, Dhaka, 1000, Bangladesh)、Saran Deb Nath(ARK Foundation, Dhaka, Bangladesh)、Priyanka Jayawardena(Institute of Policy Studies of Sri Lanka, Colombo, Sri Lanka)、Maira Mubashir(Department of Community Health Sciences, Aga Khan University, Karachi, Pakistan)、Sushil Chandra Baral(HERD International, Kathmandu, Nepal)、Ravi Mehrotra(Centre for Health Innovation and Policy Foundation, Noida, Uttar Pradesh, India)、Ghanshyam Gautam(HERD International, Kathmandu, Nepal)、Nisha Arunatilake(Institute of Policy Studies of Sri Lanka, Colombo, Sri Lanka)、Romaina Iqbal(Department of Community Health Sciences, Aga Khan University, Karachi, Pakistan)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Rumana Huque, S. M. Abdullah, Saran Deb Nath, et al. A multi-country mixed-methods protocol to assess and improve sugar-sweetened beverage packaging and labelling policies in South Asia. Journal of Health Population and Nutrition 2026-10-26. DOI: 10.1186/s41043-026-01499-0. 原著ライセンス:CC BY.