著者の所属・活動拠点の国は、カナダです。
掲載誌:Journal of Pulmonology and Respiratory Research
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
なぜ南アジアの食事に注目するのか
ぜんそくは、気道に炎症が起きて狭くなり、せきや息苦しさなどの症状が出る慢性の呼吸器疾患です。現在、根本的に治す方法はありませんが、適切な対処や危険因子を避けることで症状をコントロールできます。
著者らによると、南アジアではぜんそくの負担が特に大きくなっています。論文が引用する推計では、2021年の南アジアのぜんそく患者数は約3901万人で、世界の地域の中で最も負担が大きく、そのうちインドだけで3205万人を超えるとされています。また、カナダのような移民受け入れ国でも同様の傾向がみられ、2010年のオンタリオ州では南アジア系住民のぜんそく有病率が約12.1%で、一般の人々より速いペースで増えていたと紹介されています。
食事は、本人が変えることのできる生活要因の一つです。しかし、食事とぜんそくの関係を調べた研究の多くは欧米型の食事を対象としており、南アジアの食事についてはまだ十分に検討されていません。この論文は新たな実験や調査を行った研究ではなく、既存の研究を整理した論考です。著者らは、南アジアの食事パターンが、文化的になじみがあり、なおかつ変えることのできる要因として、ぜんそくの予防や管理にどのような役割を果たしうるかを示すことを目的としています。
食事のパターンと気道の炎症
著者らはまず、個々の栄養素を単独で見るよりも、食事全体のパターンが気道の炎症やぜんそくのリスクに関わっていることを示す研究を紹介しています。ぜんそくの背景には、体内で生じる「活性酸素」が過剰になって炎症を引き起こす「酸化ストレス」があると考えられています。果物や野菜に含まれる抗酸化物質は、この状態を和らげる可能性があります。実際に、果物や野菜を多く食べることは、ぜんそくに伴う「ゼーゼー」という呼吸音(喘鳴)やアレルギー反応の起こりにくさと関連していたと報告されています。
一方、脂肪が多く食物繊維が少ない食事は、気道の炎症の悪化と関連していました。砂糖を多く含む飲み物や精製された穀物の多い食事は、成人になってから発症するぜんそくとの関連が報告されています。また、加工肉を多く食べることは、成人のぜんそくコントロールの悪化と関連していたとされています。これに対して、豆類などの植物性たんぱく源に含まれる食物繊維は、腸内で発酵して作られる物質を通じて、気道の炎症を抑える可能性があると論文は述べています。
伝統的な食事と近代化した食事
南アジアの伝統的な食事は地域によってさまざまです。カレー、米、ロティやナンといった平たいパン、レンズ豆などの豆類や魚が主な料理で、宗教や文化的な理由から菜食も広く見られます。さらに、ターメリック、ショウガ、クミン、コリアンダー、ニンニク、唐辛子などの香辛料を多く使うことも特徴です。
著者らは、こうした伝統的な食事の要素が、ぜんそくに対して保護的に働く可能性があると整理しています。果物や野菜に含まれるビタミンやカロテノイド、ダールやひよこ豆などの豆類に含まれる食物繊維、全粒粉(アタ)などの全粒穀物は、いずれも気道の炎症の抑制やぜんそくのリスク低下との関連が報告されています。ターメリックの色素であるクルクミンについては、ぜんそく患者にカプセルで投与したところ、1秒間に吐き出せる息の量(呼吸機能の指標)が改善したという研究が紹介されています。また、英国で南アジア系の子どもを対象とした研究を系統的にまとめたレビューでは、伝統的なアジアの食事が気道の過敏さと逆の関連を示していたと報告されています。
しかし、都市化やグローバル化、移住先の文化への適応によって、南アジアの食事は大きく変わってきました。精製穀物、血糖値を上げやすい炭水化物、砂糖入り飲料、加工食品が増え、食物繊維の摂取が減っています。論文では、ギーなどの飽和脂肪を多くとることが特定のタイプの気道の炎症と関連していることや、漬物、揚げ菓子、包装されたインスタント食品に多い塩分が気道の過敏さの増大と関連していることも挙げられています。さらに、欧米に住む南アジア系の人々に多いビタミンD不足が、ぜんそくのリスクやコントロール不良と関連していることにも触れています。
この論考が伝えること
著者らは、伝統的な食事がもつ保護的な可能性が、食の近代化によって弱まっているかもしれないと指摘しています。そのうえで、南アジア系の人々のぜんそく対策では、栄養を文化に合った形で変えられる要因として考えることを提案しています。具体的には、診療の場で簡単な食事の聞き取りや食事日記を取り入れること、精製穀物をミレット、ラギ、バジュラといった伝統的な高繊維の穀物に置き換えるなど食文化を大きく変えずにできる工夫をすること、ぜんそくが悪化しやすい人への栄養相談を行うことなどが挙げられています。
論文で紹介されている知見の多くは、食事とぜんそくの「関連」を示すものであり、著者らも保護効果の「可能性」として述べています。この論考は、ぜんそくの負担が大きい南アジア系の人々にとって、なじみのある伝統的な食事を見直すことが、薬による標準的な治療を補う身近な視点になりうることを示しています。
著者:Swathi Anphalagan(School of Medicine, Toronto Metropolitan University, Brampton, ON, Canada)、Shurabi Anphalagan(School of Medicine, Toronto Metropolitan University, Brampton, ON, Canada)、Swetha Suthananthan(Department of Psychology, University of Toronto, Toronto, ON, Canada)、Vinthiya Sriharan(Faculty of Science, Toronto Metropolitan University, Toronto, ON, Canada)、Nirosshan Thiruchelvam(School of Medicine, Toronto Metropolitan University, Brampton, ON, Canada | Respirology and Critical Care Medicine, Scarborough Health Network, Scarborough, ON, Canada | Temerty Faculty of Medicine, University of Toronto, Toronto, ON, Canada)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Swathi Anphalagan, Shurabi Anphalagan, Swetha Suthananthan, et al. From Plate to Airways: Dietary Influences on Asthma in South Asian Populations. Journal of Pulmonology and Respiratory Research 2026-10-09. DOI: 10.29328/journal.jprr.1001079. 原著ライセンス:CC BY.