ヨーグルトやサプリメントに含まれる「プロバイオティクス」と呼ばれる生きた微生物は、腸内環境への働きかけが期待されて食品や医薬品に広く使われています。ところがこれらの微生物は熱や酸、乾燥といった外的なストレスに弱く、加工や保存の過程で生存率が大きく下がってしまうことが課題とされてきました。今回紹介する研究では、この弱点を補うために、微生物を何層にもわたって保護する「層状コーティング」という手法が検討されています。

研究の対象となったのは、プロバイオティクスの一種であるBacillus coagulansという菌です。研究チームは、この菌をまず電界噴霧という技術でナノ粒子状に加工し、その表面を「ニオソーム」と呼ばれる微小なカプセルと、「カゼイン(乳タンパク質)/アラビアガム」という2種類の成分を組み合わせた複合体で幾重にも覆う、という工程を試みました。複合体づくりでは、まず超音波による前処理を行い、続いてマイクロ波処理(150W、350W、550Wの3段階)を加えるという手順が採られています。

研究でわかったこと

まず、マイクロ波処理の出力を比較したところ、350Wで処理した複合体においてFTIR(赤外分光法)による分析で「糖化」の度合いが最も高くなり、また熱に対する強さの指標となる変性温度も最も高い136.75±1.57℃を示したと報告されています。これは、350Wという条件が複合体の安定性を高めるうえで有利に働いた可能性を示すものです。

ニオソームの作製に関しても検討が行われ、Span 20とTween 80という2種類の乳化剤を用いたもののうち、Span 20を使ったニオソームで菌をカプセルに閉じ込める効率(封入効率)が最も高くなったとされています。さらに、電界噴霧に用いるカゼイン/アラビアガム溶液(プロバイオティクス入りのナノニオソームを含む)は、力を加えると粘度が下がる「せん断減粘性」という性質を示し、また弾性的な性質(G′)が粘性的な性質(G″)を上回るという、構造がしっかりした溶液であることを示す結果も得られています。

電界噴霧を行った後の生存率については、15%のカゼイン/アラビアガムとSpan 20系ナノニオソームを組み合わせた条件が最も高く、97.85±1.64%であったと報告されています。また、電子顕微鏡(TEM)による観察では、菌の表面がコーティングされた構造になっていることが確認されたとされています。総合すると、Span 20とカゼイン/アラビアガム複合体を組み合わせた電界噴霧プロバイオティクスナノニオソームが、最も高い生存率を示したとまとめられています。

この研究の位置づけと読むうえでの注意

この研究は、常温で行える電界噴霧という手法を用いて、Bacillus coagulansとそのナノカプセルに多層コーティングを施すことが、食品や医薬品におけるプロバイオティクスの安定性や利用可能性を高める大きな可能性を持つと位置づけています。ただし、これは実験室レベルでの検討結果であり、一つの研究として示された知見です。今回の要旨には、ヒトが実際に摂取した場合の効果や、製品として市場に出た際の実用性についての記述はなく、あくまで素材・製法レベルでの評価にとどまる点には留意が必要です。

また、報告されている数値(生存率や変性温度など)はこの研究の実験条件下で得られたものであり、条件が変われば結果も変わりうる点、そして今回の紹介はあくまで要旨に基づくものである点も踏まえて読んでいただければと思います。

まとめ

プロバイオティクスは体に良い働きが期待される一方で、環境の変化に弱いという弱点を抱えています。今回紹介した研究では、ニオソームとカゼイン/アラビアガムを組み合わせた層状コーティングと電界噴霧技術を用いることで、Bacillus coagulansの生存率を高められる可能性が示されたとされています。プロバイオティクスをより安定した形で食品や医薬品に活用するための一つのアプローチとして、今後の展開が注目されます。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:ニオソームとカゼイン/アラビアガム複合体による超音波・マイクロ波支援相互作用を用いた電界噴霧Bacillus coagulansの層状コーティング(サイエンティフィック・リポーツ・2026年07月)