この研究は、タイの研究機関の研究論文です。

掲載誌:LWT

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

ジャガイモの加工では大量の皮が出ます。皮は剥き方によって元のイモの重さの約15〜40%を占めるとされ、食物繊維やでんぷん、たんぱく質、ポリフェノール類を含みます。しかし現在は主に家畜飼料やエネルギー源に回されており、食品素材としてはあまり活用されていません。

その理由の一つとして、著者らは皮の細胞壁が硬く複雑な構造を持つことを挙げています。繊維とポリフェノール類が強く結びついているため、有用な成分が働きにくいと考えられています。そこで研究チームは、アルカリ性の条件で過酸化水素を作用させる「アルカリ性過酸化水素(AHP)処理」に注目しました。過酸化水素は水と酸素に分解されるため有害な残留物が出にくく、食品向けに適している点も紹介されています。この研究の目的は、AHP処理がジャガイモの皮の成分、食物繊維、さまざまな機能的な性質をどう変えるかを調べることです。

何を調べたか

研究チームは、タイのポテトチップス工場から出たジャガイモの皮を乾燥させて粉末にしました。この粉末を、過酸化水素の量が異なる3条件(2、3、4 g/100 g)で、穏やかなアルカリ性のもと90℃で3時間処理しました。そして処理していない皮の粉末と比べながら、さまざまな点を調べています。

成分については、でんぷん、食物繊維、リグニン(植物を硬くする成分)などを測定しました。構造については、電子顕微鏡で表面を観察しました。性質としては、粉のかさ密度、水への溶けやすさ、水や油を保持する力を測りました。さらに、ポリフェノール類の量、抗酸化力、細菌の増殖を抑える働き、ブドウ糖を吸着する力、でんぷんを分解する酵素の働きを抑える力についても、試験管内の実験で評価しました。

主な結果

処理によって、でんぷんは100 gあたり28.1 gから12.0〜16.9 gに減りました。一方、総食物繊維は39.7 gから45.7〜49.8 gに増え、酸に溶けないリグニンも6.9 gから21.2〜26.5 gへと増えました。著者らはこれらの増加について、でんぷんなどが失われたことで残った成分の割合が相対的に高まったためと説明しています。リグニンについては、処理中にできたリグニンに似た物質が測定値に含まれ、実際より多く見積もられている可能性にも触れています。処理後に回収できた量は、過酸化水素が多いほど減りました。

電子顕微鏡で見ると、未処理の皮は表面が緻密でなめらかでした。処理後は過酸化水素の量が多いほど表面の崩れや細かな断片化が進み、最も多い条件で変化が最も大きくなりました。粉のかさ密度は下がり、水への溶けやすさは高まりました。水を吸って膨らむ力は低下しましたが、水を保持する力と油を保持する力はほぼ変わりませんでした。

個々のポリフェノール類は処理によって減り、主成分のクロロゲン酸も大きく減少しました。ところが、総ポリフェノール量として測った値は1 gあたり2.2 mgから2.9〜3.3 mgに増えました。著者らは、この測定法がポリフェノール以外の還元性の物質にも反応するため、処理で生じた酸化物などが値に寄与している可能性を指摘しています。抗酸化力の試験では、ラジカルを半分消去するのに必要な試料の量が3.53 mgから2.15〜2.81 mgに減り、処理後のほうが少ない量で効果を示しました。

細菌への作用では、処理した試料は、セレウス菌と黄色ブドウ球菌に対して未処理の皮より強い増殖抑制を示しました。セレウス菌は、どの処理試料でも試験した最も低い濃度で増殖が完全に抑えられました。アシネトバクター・ルオフィに対する抑制も向上しました。一方、大腸菌とチフス菌には抑制が見られませんでした。

ブドウ糖の吸着量は、ブドウ糖濃度が高いほど増えました。最も吸着量が多かったのは過酸化水素2 g/100 gで処理した試料で、50 mmol/Lの条件で1 gあたり0.77 mmolでした。でんぷんを分解する酵素α-アミラーゼを抑える働きは処理後も保たれ、3 g/100 gで処理した試料では未処理よりわずかに高くなりました。

研究が示すこと

この研究は、AHP処理によってジャガイモの皮の構造と成分が大きく変わることを示しました。でんぷんが減り表面が崩れて多孔質になる一方で、水や油を保持する力などの性質は保たれ、抗酸化力や一部の細菌への抑制作用は試験管内の実験で高まったと報告されています。著者らはこれらの結果から、加工の副産物であるジャガイモの皮を、機能性を持つ繊維豊富な食品素材として活用できる可能性を示しています。

著者:Wascharin Udchumpisai(Division of Biochemical Technology, School of Bioresources and Technology, King Mongkut’s University of Technology Thonburi (Bang Khun Thian Campus), Bangkok 10150, Thailand)、Nialmas Samuela(Division of Biochemical Technology, School of Bioresources and Technology, King Mongkut’s University of Technology Thonburi (Bang Khun Thian Campus), Bangkok 10150, Thailand)、Karsidete Teeranitayatarn(Morena Solutions Co., Ltd., Nonthaburi 11120, Thailand)、Natawadee Teeranitayatarn(Morena Solutions Co., Ltd., Nonthaburi 11120, Thailand)、Veraporn Teeranitayatarn(Morena Solutions Co., Ltd., Nonthaburi 11120, Thailand)、Tippawun Saardngoen(Morena Solutions Co., Ltd., Nonthaburi 11120, Thailand)、Punnanee Sumpavapol(Program of Food Science and Technology, Faculty of Agro-Industry, Prince of Songkla University, Hat Yai, Songkhla 90110, Thailand)、Vilai Rungsardthong(Department of Agro-Industrial, Food, and Environmental Technology, Faculty of Applied Science, Food and Agro-Industrial Research Center, King Mongkut’s University of Technology North Bangkok, Bangkok 10800, Thailand)、Yuree Wandee(Division of Biochemical Technology, School of Bioresources and Technology, King Mongkut’s University of Technology Thonburi (Bang Khun Thian Campus), Bangkok 10150, Thailand)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Wascharin Udchumpisai, Nialmas Samuela, Karsidete Teeranitayatarn, et al. Alkaline Hydrogen Peroxide Modification Enhances Structural and Biofunctional Properties of Potato Peel for Bioactive Fiber Valorization. LWT 2026-10-01. DOI: 10.1016/j.lwt.2026.120053. 原著ライセンス:CC BY.