日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。
焼酎や清酒づくりでは、蒸した米のデンプンを麹の酵素や添加した酵素で糖に分解し、それをアルコール発酵させます。この分解のされやすさ(酵素消化性)が高いほど原料が効率よく糖化されると考えられていますが、実は同じ「米」といっても品種によってデンプンの構造は異なり、それが消化されやすさにどう影響するのかはこれまで十分に整理されていませんでした。広島大学大学院統合生命科学研究科と独立行政法人酒類総合研究所(National Research Institute of Brewing)の研究グループは、米のデンプンがつくられる際に働く遺伝子の違いに注目し、蒸米の構造と分解されやすさの関係を調べました。
この研究は広島大学大学院統合生命科学研究科および酒類総合研究所に所属する著者らによって進められており、日本主導の研究といえます。筆頭著者のLin-Jie Lee氏をはじめ、共著者の多くが広島大学大学院統合生命科学研究科に所属し、酒類総合研究所の研究者も名を連ねています。また、研究対象そのものが焼酎・清酒という日本の伝統的な酒造りであり、この点でも日本と深く関わる研究です。
米のデンプンをつくる遺伝子の違いに着目
研究チームは、デンプンの生合成に関わる遺伝子の型が異なる4種類の米(Alk/Wxa、alk/Wxa、alk/Wxb、alk/wxという遺伝子型の組み合わせ)を用意し、これらを蒸した米について、市販の酵素、焼酎用の麹(焼酎麹)、清酒用の麹(清酒麹)という3つの条件下での分解されやすさ(酵素消化性)を比較しました。あわせて、示差走査熱量測定(DSC)という方法でデンプンの結晶構造や糊化(加熱によってデンプンの構造がほどける現象)の起こりやすさも調べています。
研究でわかったこと
実際に焼酎麹・清酒麹による消化試験を行ったところ、Alk/Wxaという遺伝子型の米は、alk/Wxbという遺伝子型の米に比べて消化されにくいことが示されました。さらに4種類の遺伝子型すべてを比較すると、消化されやすさは「alk/wx>alk/Wxb>alk/Wxa>Alk/Wxa」という順になることが、市販酵素・焼酎麹・清酒麹のいずれの条件でも共通して見られたと報告されています。
また、清酒づくりの条件下で蒸米を置いた際に起こる「老化(β化、デンプンが再び硬くなる現象)」の進みやすさについても調べたところ、その順序は消化されやすさとはちょうど逆で、「alk/wx<alk/Wxb<alk/Wxa<Alk/Wxa」となったとされています。つまり消化されにくい品種ほど、老化も進みやすい傾向がうかがえます。
消化されやすさとデンプンの構造の関係も分析されました。デンプンを構成するアミロペクチンという成分のうち鎖の短い部分の割合が高いほど消化されやすく、逆にアミロース(デンプンのもう一つの主成分)の含有量が多いほど消化されにくいという、正・負それぞれの相関が見られたと報告されています。さらにDSC分析からは、結晶化度が高く糊化温度も高いAlkという遺伝子型の米では、結晶構造をもつアミロペクチンが蒸すことによる加熱だけでは完全に糊化しきらず、これが消化されにくさの一因になっていると考察されています。
これらの結果から研究チームは、デンプン生合成に関わる遺伝子型(Alk/Wxの組み合わせ)がアミロペクチンの鎖長構成やアミロース含有量に影響を与え、それが焼酎・清酒製造時における蒸米の酵素消化性の違いを生み出している、と結論づけています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
本研究は、特定の遺伝子型を持つ4種類の米を用いた実験室レベルでの比較であり、実際の醸造現場でのすべての条件や、他の品種・栽培条件における再現性まで確認したものではありません。あくまで一つの研究であり、米の遺伝子型と酒造適性との関係について結論が確定したわけではない点に留意が必要です。研究チーム自身も、今回得られた知見は焼酎・清酒醸造に適した米品種の選抜や育種を検討するための基礎的な手がかりとして位置づけています。
まとめ
今回の研究では、米のデンプン生合成に関わる遺伝子型の違いが、アミロペクチンの鎖長構成やアミロース含有量を通じて、焼酎・清酒製造時の蒸米の酵素分解されやすさや老化のしやすさに関係している可能性が示されました。日本の伝統的な酒造りを支える米という原料について、遺伝子レベルの違いが醸造特性にどうつながるのかを考えるうえで、one of the基礎的な手がかりを提供する研究といえます。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Lin-Jie Lee, Yuki Sato, Midori JOYO, et al. Rice Genotype Related to Starch Biosynthesis: Effects on Rice Starch Structure and Enzymatic Digestibility during Shochu and Sake Production. 応用糖質科学 (2026). DOI: 10.5458/jag.7303101. 原著ライセンス: cc-by-nc.