この研究は、インドネシアの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Science & Technology Indonesia
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
ノニ(Morinda citrifolia L.)はアカネ科の植物で、論文の著者らによれば、抗菌・抗炎症・抗酸化作用や代謝調節に関わる働きが報告されています。その成分のうちスコポレチンは、ノニの脂質改善作用に関係するとされる主要な指標成分で、コレステロール代謝に関わる酵素の働きを調節することが報告されています。分析の再現性が高いことから、ノニを用いた製剤の品質管理の基準物質としても使われています。
ところがスコポレチンは熱・酸化・光に弱く、製造や保管の途中で壊れやすいという問題があります。乾燥させたノニエキスは湿気を吸いやすく、扱いにくいことも指摘されています。そこで研究チームは、微小な粒子の中に成分を包み込む「マイクロカプセル化」に着目しました。
カプセルの壁材には、アルギン酸ナトリウム(マイナスの電気を帯びた多糖)とキトサン(プラスの電気を帯びた多糖)を組み合わせます。電気的に反対の性質を持つ二つが引き合って結びつく「ポリ電解質複合体」を作り、さらにトリポリリン酸ナトリウム(STPP)を加えてキトサンどうしをイオン結合で架橋し、粒子の構造を補強する設計です。著者らは、ノニエキスにこのアルギン酸‐キトサン‐STPPの三成分壁材を噴霧乾燥で適用した研究はまだ十分に行われておらず、特にキトサン濃度がカプセルの形成や封入性能にどう影響するかは報告されていないと述べています。本研究の目的は、スコポレチンを定量指標として、キトサン濃度がカプセルの物理化学的な性質と封入率に与える影響を評価することでした。
何をどのように調べたか
研究チームはまず、乾燥させたノニ果実の粉末を70%エタノールに浸して成分を抽出しました(マセレーション=加熱せずに溶媒に漬け込む方法)。熱に弱い成分の分解を抑えるためにこの方法が選ばれています。溶媒を入れ替えて3回繰り返し、減圧濃縮と乾燥を経て、粉末750gから234g(収率31.2%)のエキスが得られました。エキスの水分含量は7.58%で、インドネシア生薬局方の基準(10%以下)の範囲内でした。
エキス中のスコポレチン量は、薄層クロマトグラフィー(TLC)とデンシトメトリーを組み合わせた方法で測定しました。この方法はICHのガイドラインに沿って、直線性・精度・正確さ・検出限界などが検証されています。測定されたスコポレチン含量は0.043±0.001%(w/w)で、著者らはこの値が先行報告より約10分の1低く、局方の最低基準(0.38%以上)を満たさなかったと記しています。原料の品質や産地、果実の成熟度、抽出条件の違い、濃縮時の加熱による分解などが理由として考えられるとしています。ただし指標成分は明確な濃度で定量できたため、カプセル化後の残存率を計算する基準値として使われました。
次に、エキス5gを含む溶液を噴霧乾燥(液を霧状にして熱風で瞬時に乾かし粉末にする方法)でカプセル化しました。アルギン酸1%、STPP 0.1%、エキス量は共通とし、キトサン濃度だけを変えた2種類——F1(1%)とF2(2%)——を同一条件(入口温度120〜130℃、出口温度60〜70℃)で処理しています。得られた粉末は、赤外分光法(FTIR、分子間の結合の様子を調べる)、粒子径分布測定、示差走査熱量測定(DSC、熱に対する挙動を調べる)、水分含量、走査型電子顕微鏡(SEM)による形の観察、そして検証済みのTLC‐デンシトメトリーによるスコポレチン定量という6つの方法で比較されました。
報告された主な結果
FTIRの結果から、エキスは水素結合・静電的相互作用・イオン架橋を通じてポリマーのマトリックスに取り込まれていることが確認され、ポリ電解質としての相互作用はF1でより明確に現れたと報告されています。
粒子径の分布では、F1の方が均一でした。累積50%にあたる粒子径(D50)はF1が16.73±0.23μm、F2が33.04±2.60μm、累積90%(D90)はF1が32.99±0.94μmに対しF2は275.20±23.14μmと大きな差があり、いずれも統計的に有意でした。水分含量もF1が3.38±0.20%、F2が4.89±0.16%で、F1の方が低い値でした。DSCではF1がより高い熱的安定性を示しています。
指標成分の封入率(エキス中の量に対して、カプセル中に保持されていたスコポレチンの割合)は、F1が88.37%、F2が72.09%で、F1の方が高く、統計的な差が認められました(p=0.043)。電子顕微鏡の観察では、F1の粒子は互いに分離した状態が保たれていた一方、F2では粒子が密に凝集していました。著者らは、キトサン濃度が高いと供給液の粘度が上がって霧化の効率が下がり、液滴と乾燥粒子が大きくなること、また高濃度ではキトサンとアルギン酸の静電的な相互作用が強まり、乾燥中に粒子同士が結びつきやすくなることが関係している可能性を挙げています。
この研究が示すこと
この結果から著者らは、キトサン濃度がポリ電解質複合体の形成と封入性能を決定的に左右すると結論づけています。壁材の構成要素を増やせば必ず保護性能が上がるわけではなく、むしろ濃度が高すぎると霧化や乾燥の過程で不利に働き、粒子の均一性や指標成分の保持率が落ちるという関係が示されました。
二つの処方のうち、キトサン1%のF1が、粒子径の均一性、熱的安定性、低い水分含量、高い封入率という点で最も良好な物理化学的特性を示したと報告されています。著者らはこれを、安定で規格化されたノニ由来の経口ハーブ製剤を設計するうえでの基礎となる知見として位置づけています。熱に弱い植物成分を扱う製剤設計において、壁材の濃度という一つの変数を体系的に比較することの意味を示した研究といえます。
著者:Mochammad Firmansyah(Master Program of Pharmaceutical Sciences, Faculty of Pharmacy, Airlangga University, Surabaya, East Java, 60115, Indonesia)、Sukardiman(Department of Pharmaceutical Sciences, Faculty of Pharmacy, Airlangga University, Surabaya, East Java, 60115, IndonesiaDepartment of Pharmaceutical Sciences, Faculty of Pharmacy, Airlangga University, Surabaya, East Java, 60115, Indonesia)、Idha Kusumawati(Department of Pharmaceutical Sciences, Faculty of Pharmacy, Airlangga University, Surabaya, East Java, 60115, Indonesia)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Mochammad Firmansyah, Sukardiman, Idha Kusumawati. Physicochemical Characterization of Spray-Dried Morinda citrifolia Extract Microcapsules Using an Alginate-Chitosan-STPP System. Science & Technology Indonesia 2026-09-17. DOI: 10.26554/sti.2026.11.4.1257-1273. 原著ライセンス:CC BY.