この研究は、トルコの研究機関の研究論文です。
掲載誌:International Journal of Food Science & Technology
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
捨てられる殻を包装材料に変えるという目的
ヘーゼルナッツの実を取り出したあとに残る固い殻は、これまで主に燃料や繊維板の原料として扱われてきました。研究チームによると、ヘーゼルナッツの世界的な主産地であるトルコでは年間およそ35万トンの殻が生じると見積もられています。この殻はリグノセルロース、つまり植物の細胞壁をつくるセルロース・ヘミセルロース・リグニンという三つの成分に富んでおり、殻の組成はリグニン35〜40%、ヘミセルロース30%、セルロース25%と報告されています。
研究チームが取り組んだのは、この殻からアルカリ処理で繊維を取り出し、それを生分解性のフィルムに混ぜ込む「充填材(フィラー)」として使えるかどうかを調べることでした。土台となる素材にはキトサンを選んでいます。キトサンはカニやエビの殻などに含まれるキチンから得られる生体高分子で、生分解性と抗菌性を備え、フィルムを形づくれる点が利点とされます。一方で湿気に弱く、もろくなりやすいという課題も知られており、論文ではそこを天然繊維で補えるかが論点として挙げられています。
研究の狙いは二つに整理されています。一つは、繊維の収量とセルロース含量を高めるアルカリ抽出条件を統計的手法で最適化すること。もう一つは、未処理の殻粉末と抽出した繊維のそれぞれをキトサンフィルムに加えたとき、機械的性質・熱的性質・バリア性・光学的性質・構造・抗菌性がどう変わるかを評価することです。
抽出条件の最適化と、フィルムの作り方
抽出には水酸化ナトリウム(アルカリ)水溶液を用い、濃度(1〜12%)、温度(30〜100℃)、処理時間(30〜120分)という三つの条件を変えて試験しています。条件の組み合わせは、少ない実験回数で傾向をつかむための実験計画法(ボックス・ベンケン計画と応答曲面法)に沿って決められました。
結果には、収量とセルロース純度が逆方向に動くという対比が現れています。繊維の収量は61.44〜85.31%の範囲で、最も高かったのはアルカリ濃度1%・30℃・75分という穏やかな条件でした。これに対してセルロース濃度が最も高くなったのは、濃度12%・100℃・120分という厳しい条件で、抽出後に最大49.09%まで上がり、未処理の殻より高い値でした。研究チームはこれを、穏やかな条件では非セルロース成分があまり除かれないため全体の量は残るがセルロースの割合は低く、厳しい条件ではリグニンやヘミセルロースがよく溶け出して残った分の純度が上がる一方で全体量は減る、という差として説明しています。
両方の応答を考え合わせた最適条件は、1%の水酸化ナトリウム、100℃、30分と算出されました。この条件で実際に抽出したところ、収量80.6±1.6%、セルロース43.9±0.2%が得られ、予測値と統計的に同じ範囲に収まったと報告されています。この条件で得た繊維をEF(抽出繊維)、未処理の殻粉末をUF(未処理繊維)と呼び、いずれも125マイクロメートル未満の粒子にしたうえで、キトサンに対して1%、5%、10%、20%の割合で加えたフィルムを作製しました。可塑剤としてグリセロールを加え、溶液をトレーに流して乾燥させる方法でフィルムにしています。
フィルムの性質にみられた変化
繊維を多く加えるほどフィルムは厚くなり、同時に不透明さ(オパシティ)が増して光の透過率は下がりました。これは、透明なキトサンの中に粒子が入ることで光が散乱されるためと説明されています。色についても、繊維量が増えるほど明るさを表すL*値が下がって暗くなり、a*値とb*値は上がりました。研究チームはこれを殻粉末そのものの色が移ったものとみています。こうした遮光性は、光に弱い食品の包装という文脈で意味を持ちうる特徴として位置づけられています。
水蒸気の通しやすさ(水蒸気透過度)については、繊維の濃度が上がるとわずかに増える傾向が見られ、明確に低下したのは1%のEFを加えたフィルムでした。水を吸って膨らむ度合い(膨潤度)は、繊維の種類や量を変えても統計的な差が認められず、キトサン自体の親水性のほうが効いているのではないかと考察されています。
赤外分光(FTIR)と電子顕微鏡による観察は、加える量によって繊維とキトサンのなじみ方が違うことを示しました。1%という低い配合では表面が滑らかで塊が見えず、繊維とキトサンの間の結合を示すシグナルも強く出ています。一方、20%まで増やすと繊維が塊になっている様子が観察され、そのぶん繊維とキトサンが接する面積が減って結合が弱まり、機械的性質の悪化につながったと解釈されています。熱に対する安定性は1%のEFを加えたときに向上しました。また、キトサンフィルムがもともと持つ抗菌性が、黄色ブドウ球菌と大腸菌を用いた試験で確認されています。
この研究が示したこと
この研究は、廃棄物として扱われてきたヘーゼルナッツの殻から、条件を選んで繊維を取り出せること、そしてその繊維がキトサンフィルムの性質を変えうることを示しました。同時に浮かび上がったのは、「たくさん混ぜればよい」わけではないという点です。厚みや不透明さのように加えるほど大きくなる変化がある一方で、熱安定性や水蒸気の遮断性が改善したのは1%という低い配合に限られており、多く入れれば繊維が塊になって逆効果になることが構造の観察からも裏づけられました。
農業廃棄物を素材として循環させる取り組みにおいて、原料ごとに抽出条件を見極め、配合量を適切に選ぶことが性能を左右する——研究チームの報告は、その具体的な一例を提示しています。
著者:Merve Şahin(Department of Food Engineering, Institute of Graduate Studies, Hitit University , 19030 Corum ,)、Ece Söğüt(Department of Food Engineering, Faculty of Engineering, Suleyman Demirel University , 32200 Isparta ,)、Hülya Çakmak(Department of Food Engineering, Faculty of Engineering, Hitit University , 19030 Corum ,)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Merve Şahin, Ece Söğüt, Hülya Çakmak. Lignocellulosic fibre extraction from hazelnut shells and utilization of the extracted fibre as filler in chitosan-based biodegradable packaging films. International Journal of Food Science & Technology 2026-09-09. DOI: 10.1093/ijfood/vvag200. 原著ライセンス:CC BY.