この研究は、トルコの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Journal of Food Science

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的と背景

ケフィアは、乳酸菌や酢酸菌、酵母が共生してつくる発酵飲料です。そのうち「ウォーターケフィア」は、牛乳ではなく砂糖水や果汁など植物由来の糖液で発酵させるタイプを指します。研究チームは、牛乳のタンパク質にアレルギーがある人や乳糖不耐の人、菜食を選ぶ人の関心が高まっていることを背景に、乳を使わない発酵飲料の新しい素材を探りました。

着目したのはヘーゼルナッツです。とくに、油を搾ったあとに残る「ヘーゼルナッツケーキ(搾油粕)」は、タンパク質や炭水化物を多く含む栄養価の高い副産物であり、付加価値のある製品への転換が期待されると論文は述べています。一方で、木の実は代表的な食物アレルギーの原因でもあります。発酵は酵素によるタンパク質の分解などを通じて、食品の栄養や風味を損なわずにアレルギー性を下げうる生物学的な方法として注目されており、ピーナッツやカシューナッツを使った飲料では発酵によるアレルギー性の低下が報告されていると紹介されています。

そこで著者らは、ヘーゼルナッツケーキから作った飲料をウォーターケフィアの発酵基質として使えるかどうかを調べ、さらに砂糖(ショ糖)をどれだけ加えるかによって、微生物の増え方、理化学的性質、粘りなどの流動特性、抗酸化に関わる成分、香気成分、そしてアレルギー性がどう変わるかを検討しました。

調べ方

ヘーゼルナッツケーキを細かく粉砕して水に分散させ(ナッツと水の比は10%)、高圧ホモジナイザーで粒子を細かくして飲料を作りました。この飲料は酸性度の指標であるpHが6.48、固形分9.51%、タンパク質4.29%などの組成だったと報告されています。

発酵は二段階で行われました。まずケフィア粒を5%の砂糖水で25℃・24時間活性化させ、続いて、砂糖を加えないヘーゼルナッツ飲料(対照)と、ショ糖を2.5%、5%、7.5%加えた飲料それぞれに活性化したケフィア粒を5%加えて、25℃で72時間発酵させました。

発酵後の試料について、乳酸菌(ラクトバチルス、ラクトコッカス)・酢酸菌・酵母の菌数、pHや固形分・色といった理化学的性質、保水力と冷蔵10日間の分離の起こりやすさ、硬さ、粘度などの流動特性、総ポリフェノール量と抗酸化活性、香気成分(GC–MSによる相対的な比較)、そしてELISA法によるヘーゼルナッツタンパク質への免疫反応性(アレルギー性の指標)が測定されました。発酵は同条件で3回独立して行われています。

主な報告結果

微生物は、砂糖を加えるほどよく増えました。ラクトバチルス(乳酸菌の一群)は対照が最も少なく、7.5%の砂糖を加えた試料で最も多く、6.58〜8.36 log cfu/mLの範囲でした。ラクトコッカスは対照で5.63 log cfu/mL、砂糖を加えた試料では5.85〜7.09 log cfu/mLで、中〜高濃度の添加で有意に増加しました。酢酸菌は5.95〜7.81 log cfu/mL、酵母は対照の5.54 log cfu/mLから、添加量に応じて6.49、6.66、7.81 log cfu/mLへと増えています。著者らは、ヘーゼルナッツ由来の栄養分と砂糖の組み合わせが微生物の増殖に適した環境をつくったと説明しています。

理化学的性質では、発酵後の総固形分は8.86〜14.27%で、砂糖を加えた試料の方が高くなりました。pHは対照の4.54から、7.5%添加の4.32までと、砂糖が多いほど低くなりました。論文は、pHを4.6より低く保つことがボツリヌス菌の増殖リスク低減の観点で重要とされる点に触れ、今回の試料はいずれもこの範囲に収まったと述べています。灰分と脂質には試料間で有意な差はなく、色については砂糖添加で明るさを示すL*値がやや下がりました。著者らはこの色の変化を、砂糖そのものの直接的な影響というより、発酵中の微生物代謝や生化学的な反応によるものと考えており、メイラード反応の関与は測定していないため確認された経路ではなく可能性として提示しています。

組織や口当たりに関わる性質も砂糖の量で変わりました。保水力は30.54〜38.79%で、対照の33.21%に対して5%添加で38.79%まで上がる一方、それより多く加えると下がりました。冷蔵10日後の水分離は対照が最も多い21%、5%添加が最も少ない15.16%でした。硬さは対照の0.215 Nに対し、砂糖添加で最大28%増の0.275 Nとなっています。流動特性はすべての試料で、かき混ぜる速さ(ずり速度)が上がると粘度が下がる「ずり減粘(シアシニング)」を示し、これは牛乳ケフィアなどにもみられる非ニュートン流体の挙動です。ずり速度50 1/sでの粘度は0.021〜0.034 Pa·sで、砂糖添加により有意に上昇しました。総ポリフェノール量は11.26〜15.15 mg GAE/100 mLの範囲と報告されています。

この研究が示すこと

この研究は、搾油後に残るヘーゼルナッツケーキから作った飲料が、ウォーターケフィアの発酵基質として実際に機能し、乳酸菌・酢酸菌・酵母がいずれも十分に増えて、安全性の目安とされるpHの低下も得られることを示しました。加える砂糖の量は、微生物の増え方だけでなく、保水力や硬さ、粘度、貯蔵中の分離しやすさにも影響し、保水力や分離の少なさという点では5%の添加が最も良好でした。

乳を使わない発酵飲料を求める人に向けた選択肢を広げると同時に、これまで十分に活用されてこなかった搾油副産物を食品素材として生かす道筋を、著者らは具体的なデータとともに描いています。

著者:Latife Betül Gül(Department of Food Engineering, Faculty of Engineering Ondokuz Mayis University Samsun Türkiye)、Abdullah Akgün(Department of Food Engineering, Faculty of Engineering Trakya University Edirne Türkiye)、Osman Gül(Department of Food Engineering, Faculty of Engineering and Architecture Kastamonu University Kastamonu Türkiye)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Latife Betül Gül, Abdullah Akgün, Osman Gül. Potential Use of Hazelnut Beverage in Water Kefir Fermentation: Effects of Sugar Addition on Physicochemical, Microbiological, Rheological, Bioactive, Volatile, and Allergenic Properties. Journal of Food Science 2026-08-31. DOI: 10.1111/1750-3841.71432. 原著ライセンス:CC BY.