この研究は、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Clinical Phytoscience

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

著者らは、さまざまな植物由来の抽出物がもつ「抗増殖作用」、すなわち細胞の分裂や増殖を抑えるはたらきについて、これまでに発表された科学文献を整理することを目的としました。抗増殖作用とは、細胞が数を増やす過程を遅らせたり止めたりする性質を指し、がん細胞を対象とした研究で注目されてきた観点です。

論文は、薬草や植物を薬として用いる慣習が5000年以上前から記録されていること、また開発途上国や後発開発途上国では人口の約90%が何らかの病気の治療に薬用植物を頼っているとの報告を出発点としています。そのうえで著者らは、どの植物抽出物にどのような抗増殖作用が報告されているのか、分離された化学成分がどのような仕組みで作用すると考えられているのかを明らかにしようとしました。

何をどう調べたか

著者らは新たな実験を行うのではなく、既存の研究報告を集めて整理する文献レビューという方法をとりました。情報源としてGoogle Scholar、Scopus、PubMed、Science Directを用い、農業・園芸で扱われる種の一般名とラテン語名、抗増殖作用、細胞分裂、薬用植物とハーブ、細胞分裂(ミトーシス)、天然物、フラボノイドといった語で検索しています。

対象としたのは1991年から2026年3月までに公表された文献で、無作為化対照実験、総説、分析的な研究や観察報告が含まれます。選別は題名、要旨、全文の三段階で行い、重複した研究や検索の対象範囲に当てはまらないものは除外されたと述べられています。

報告された主な内容

著者らは、抗増殖作用が報告されている化学成分として、β-シトステロール、α-アミリン、メチルガレート、アガチスフラボン、フラボピリドールなど多数を挙げています。個々の報告例としては、Macaranga属から分離されたプレニル化フラボノイドであるブロウソフラボノールFが、HER2-RAS-MEK-ERK経路の調節を介して大腸がんで抗血管新生作用と抗腫瘍作用を示したというZhuらの報告、ベンゼンスルホンアミド誘導体がMRC-5、HEPG-2、MCF-7の各細胞に対して高い抗増殖活性を示したというFadalyらの報告が紹介されています。ここで示されているのは、実験室の細胞や動物を用いた研究で観察された作用であり、人での治療効果を示したものではありません。

また、植物フラボノイドのイソリキリチゲニンは下垂体の組織片において細胞系列を変えずに抗増殖的にはたらき、p21の発現を誘導して細胞の停止やアポトーシス(細胞が自ら整然と死ぬ仕組み)につながる可能性があると報告されています。オレアノール酸については、抗Thy1腎炎モデルのラットでIL-17/ERK/AKT経路を介してメサンギウム細胞の増殖と炎症反応を抑えうるとの報告が引かれています。

植物そのものに関する報告も広範に集められています。Hosseinpourらは、カミツレ(Matricaria chamomilla)の含水アルコール抽出物が出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeに対して顕著な抗増殖作用を示し、3000 µg/mlの濃度で酵母の生育が明らかに低下し、細胞の生存率が48%まで下がったと報告しています。Omoruyiらは、ヒガンバナ科のBoophone haemanthiodes、Amaryllis belladonna、Crossyne flavaの抽出物がグリオブラストーマ(脳腫瘍の一種)の細胞に選択的に細胞毒性を誘導したと報告しました。Tauchenらは、エチオピアの薬用植物であるRumex nepalensisとDodonaea angustifoliaの抽出物が、正常細胞への毒性が小さいまま高い抗増殖活性を示したと述べています。このほか、ペルー、インド、マレーシアやシンガポール、タイ、ジンバブエ、ガーナ、中国など各地の伝統医療で用いられる植物について、報告されている活性が地域ごとに整理されています。

著者らは結論として、世界で最も売れている薬の3分の1以上が天然物に由来しており、天然物は薬理作用の多様さと構造の多様性から新薬の開発・合成の重要な源であると述べています。そして、多くの薬用植物やハーブが抗増殖活性を示すことは、それらがん細胞の分裂と成長を抑えうることの裏づけであり、これらの植物に含まれるテルペノイドやフラボノイドといった二次代謝産物がアポトーシスや細胞周期の停止を引き起こしうると整理しています。作用の道筋としては、細胞分裂(ミトーシス)の仕組みを妨げる、がん細胞にアポトーシスを引き起こす、細胞周期の正常な進行を止めて増殖を防ぐ、といった経路が挙げられています。

この整理が示すもの

この論文が伝えているのは、世界各地の伝統医療で使われてきた植物について、細胞や動物を用いた抗増殖作用の報告が広く蓄積されているという状況です。著者らはそれらを成分と植物の両面から見渡せる形にまとめ、どの成分がどの経路に関わると報告されているかを示しました。

同時に、ここで紹介されているのはあくまで各研究で観察された作用の報告であり、著者ら自身も新たな抗がん薬の候補となりうる「有望な可能性」という位置づけで述べています。伝統的な知識と実験室での観察を結びつけて整理しておくことが、天然物を手がかりに薬の成り立ちを探る研究の土台になる、という点がこのレビューの意味だと読み取れます。

著者:Mohamad Hesam Shahrajabian(https://ror.org/0313jb750 grid.410727.7 0000 0001 0526 1937 National Key Laboratory of Agricultural Microbiology, Biotechnology Research Institute Chinese Academy of Agricultural Sciences 100086 Beijing China)、Wenli Sun(https://ror.org/0313jb750 grid.410727.7 0000 0001 0526 1937 National Key Laboratory of Agricultural Microbiology, Biotechnology Research Institute Chinese Academy of Agricultural Sciences 100086 Beijing China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Mohamad Hesam Shahrajabian, Wenli Sun. Anti-proliferative effects of medicinal plants, evaluation of biocompatibility, and properties of various natural extracts. Clinical Phytoscience 2026-09-30. DOI: 10.1186/s40816-026-00442-4. 原著ライセンス:CC BY.