「水素水」や水素を含むサプリメントは、抗酸化作用や抗炎症作用が期待され、健康への影響がこれまでにも研究されてきました。ただし、健康な人の睡眠の質に対する効果を調べたデータはこれまでほとんどなかったといいます。さらに、同じものを摂取しても効果の出方には個人差があることが多く、その一因として腸内細菌の違いが関係しているのではないか、という視点はあまり検討されてきませんでした。今回紹介する研究は、水素を含むゼリーを使って、この2つの疑問(睡眠への影響、そして腸内細菌との関係)に取り組んだものです。
研究でわかったこと
研究チームは、睡眠の質があまりよくないと感じている健康な成人44人を対象に、ランダム化二重盲検プラセボ対照試験を行いました。参加者は「水素を含むゼリー」を摂取するグループと、見た目や味が同じ「プラセボ(偽物)ゼリー」を摂取するグループに無作為に分けられ、本人にも研究者にもどちらを摂取しているかわからない形で試験が実施されました。
睡眠に関する複数の指標(OSA-MAという睡眠評価票、視覚的評価尺度であるVAS、ピッツバーグ睡眠質問票であるPSQI、不安の指標であるSTAIなど)の変化を比較したところ、全体としては水素ゼリー群とプラセボ群のあいだに統計学的に有意な差は見られなかったと報告されています。
ただし、ここからが本研究の注目点です。参加者を「睡眠の質に関するVASスコアの変化量」で分けてみると、水素ゼリーを摂取したグループでは、腸内細菌叢の全体的な構成(β多様性)に明確な偏り(クラスター)が見られたのに対し、プラセボ群ではそうした偏りは見られませんでした。さらに詳しく調べると、このクラスターの違いには、Bacteroidesなど「水素を作り出す腸内細菌(水素産生菌)」の存在比率の差が関わっていることが示されました。
統計モデル(線形混合効果モデル)による解析でも、「摂取したもの(水素かプラセボか)」と「水素産生菌の量」の組み合わせが、睡眠の質や精神的ストレスに関するVASスコアに影響を与えることが示され、もともと水素産生菌が少ない人ほど、水素ゼリー摂取による改善がより大きい傾向にあったと報告されています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
この研究は、あくまで44人という限られた人数を対象にした探索的な試験であり、結論が確定したものではありません。全体としては水素ゼリーとプラセボのあいだに有意差が出なかった、という点も踏まえておく必要があります。今回見つかった「腸内細菌の違いによって反応が変わるかもしれない」という関係は、あくまで一つの仮説として提示されたものであり、著者ら自身も、より大規模な研究で確認する必要があると述べています。将来的には、腸内細菌の状態に応じて対象者を分けたうえで水素摂取の効果を調べる、といった研究デザインにつながる可能性がある、という位置づけの報告です。
まとめ
今回紹介した研究では、水素を含むゼリーが睡眠の質全体を改善するという明確な結果は得られませんでした。しかし、もともと腸内に水素を作る細菌が少ない人ほど、水素サプリメントの摂取によって睡眠の質やストレスの指標に改善がみられる傾向があるという、興味深い可能性が示唆されています。腸内細菌という「その人ごとの体内環境」が、同じサプリメントへの反応の違いを生み出しているかもしれない、という視点を与えてくれる一つの研究として捉えるとよさそうです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:水素産生微生物の個体差が水素サプリメント摂取による睡眠の質への反応に及ぼす影響:ランダム化二重盲検プラセボ対照並行群間試験(サイエンティフィック・リポーツ・2026年07月)