減塩は現代の食生活で重要な課題とされていますが、「減塩」と表示された食品は「味が物足りないのでは」という先入観を招きやすく、消費者に選ばれにくいという壁があります。健康にいいはずの食品が、おいしさへの期待値を下げてしまうことで、かえって手に取られない――この研究は、そうした健康と美味しさのジレンマを、商品パッケージの説明表現(ラベルの言葉づかい)を変えることで和らげられないかを検証したものです。
「減塩」と言わずに素材の味を伝えるという発想
研究チームは、「減塩」を前面に打ち出す代わりに、素材そのものが持つ自然な味わいを強調する商品説明文を作成し、その効果を検証しました。背景には、商品の説明表現(ディスクリプティブ・ラベリング)がどのように消費者の意味づけを形づくるかという研究や、原材料の産地や特徴を訴求する「素材ブランディング」、健康志向という消費者心理に関する既存の知見があります。これらを踏まえ、研究チームは「素材の自然な味わいを強調する表現は、健康さとおいしさの間にあるとされがちなトレードオフ(一方を取れば他方を犠牲にするという感覚)を和らげるのではないか」という考え方を提示しています。800人を対象にした比較調査でわかったこと
この考え方を確かめるため、20歳から60歳までの日本人消費者800人を対象にランダム化比較試験が行われました。参加者は、「減塩」を明示したラベルと、素材の味わいに焦点を当てた説明ラベルのいずれかを見せられ、食品に対する評価を比較されています。
結果として、素材の味わいを強調したラベルは、「減塩」を明示したラベルに比べて、感じられるおいしさ(知覚的なおいしさ)と購入したい気持ち(購入意向)を有意に高めたと報告されています。一方で、その食品が健康的だと感じられる度合い(知覚的な健康さ)自体は、ラベルの違いによって変わらなかったとされています。つまり、健康さのイメージを損なうことなく、おいしさの印象だけを引き上げられた形です。さらにこの効果は、健康志向の強い消費者ほど顕著だったとされ、研究チームはこれを「健康志向の消費者ほど、健康を意識した食品を評価する際に心理的な葛藤(ジレンマ)を抱えやすいことを示唆している」と解釈しています。
この研究をどう読むか
この研究は、日本の食品大手・味の素に所属する研究者を含むチームによって行われ、日本人消費者を対象とした調査に基づいています。健康表示のあり方を考えるうえで、日本の消費者の受け止め方を踏まえた知見という点は、国内の読者にとって身近な意味を持つといえるでしょう。研究チームは、こうした「概念に基づく説明ラベル」が、文化に根ざした味の語り方を通じて健康にまつわる意味づけを再構成しうると位置づけており、食品表示や公衆衛生のコミュニケーションにおいて、健康メッセージを消費者の感覚的・文化的な期待とすり合わせることの重要性を示すものとしています。ただし、これは1回の調査に基づく一つの研究であり、扱われた食品カテゴリーや表現の種類には限りがあるため、あらゆる食品や表示に同じ効果が当てはまるとは限らない点には注意が必要です。
まとめ
「減塩」と正面から謳うよりも、素材そのものの味わいを伝える説明の方が、おいしさへの期待や購入意欲を高める可能性がある、というのがこの研究の示すところです。健康的だという印象を下げずに済んだという点も注目されますが、あくまで一つの調査結果であり、今後さらなる検証が待たれる分野といえます。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Wakako Yoshimura, Takumi Kato. Reframing Health Through Taste. フード・スタディーズ・アン・インターディシプリナリー・ジャーナル (2026). DOI: 10.18848/2160-1933/cgp/a248. 原著ライセンス: cc-by-nc-nd.