日本関連:この研究は海外機関を中心とする国際共同研究で、日本の研究機関に所属する共著者が参加しています。
掲載誌:Industrial Crops and Products
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
マレーシアは世界有数のパーム油生産国であり、その裏側で膨大な量の副産物が生じています。著者らによれば、同国のパーム油関連の廃棄物は年間8000万トンを超えるとされます。その一つがアブラヤシの幹(オイルパーム・トランク、OPT)です。アブラヤシは20〜25年ほどで生産のさかりを過ぎるため伐採・植え替えが行われ、その際に大量の幹が発生します。幹はセルロース・ヘミセルロース・リグニンといった木質を構成する成分(リグノセルロース)を多く含みますが、十分に活用されずに残っている資源だと論文は説明しています。
一方で、マレーシアのキノコ栽培で伝統的に使われてきたゴムノキのおがくず(ラバーウッド・ソーダスト、RWS)は入手が難しくなりつつあります。ゴム園がアブラヤシなどへ転換された結果、ゴムの作付面積は1990年の180万ヘクタールから2023年には114万ヘクタールへと36.7%減少したと報告されています。そこで研究チームは、薬用キノコとして知られる霊芝(マンネンタケ、Ganoderma lucidum)の栽培培地として、古いアブラヤシ幹の繊維がゴムノキおがくずの代わりになりうるかを検討しました。著者らは、OPT繊維を霊芝栽培の培地として評価した報告はこれが初めてだと述べています。
何をどう調べたか
研究チームはまず、OPT繊維とゴムノキおがくずそのものの性質を比べました。水分、pH、デンプンや糖の量、リグニンやセルロースなどの構成成分、炭素と窒素の比(C:N比)、ミネラル、そしてヒ素・鉛・カドミウム・水銀といった重金属を測定しています。その結果、OPT繊維はデンプンと糖を多く含み、pHはやや酸性で、ヘミセルロースの割合が高く、カリウムが多いといった特徴が示されました。重金属はいずれの材料でも検出されないか痕跡程度で、基準値を下回っていたと報告されています。
次に、OPT繊維の配合比を変えた5種類の培地を用意しました。対照区はゴムノキおがくず100%、そこからOPTを25%・50%・75%・100%と置き換えたもの(配合Dが100%OPT)です。いずれにも米ぬかと炭酸カルシウムを加え、水分は65%前後、pHは栽培に適した範囲に揃えたうえで、各配合12袋ずつを同じ条件で培養しました。菌糸が培地を覆う速さ、原基(ピンヘッド)が現れるまでの日数、初収穫までの日数、そして2回の発生(フラッシュ)分の収量と生物学的効率(BE、培地の乾燥重量に対してどれだけの子実体が得られたかの割合)を記録しています。収穫した子実体については、炭水化物やタンパク質などの成分分析に加え、エタノールなどで抽出した成分について総フェノール量、総トリテルペノイド量、抗酸化に関わる作用を調べました。
報告された主な結果
論文によれば、最も良い成績を示したのはOPT繊維100%の配合Dでした。収量は培地1キログラムあたり30.40±7.42グラム、生物学的効率は15.20±3.88%で、他の配合を有意に上回ったと報告されています。子実体も大きくなり、原基の形成は平均4.42日、初収穫までは42.5日と、対照区(それぞれ7.67日、57.25日)より早くなりました。ただし菌糸の伸びる速さや一房あたりの子実体の数には、配合による有意な差はみられなかったとしています。
子実体の成分では、配合Dで炭水化物19.0%、タンパク質10.9%、粗繊維16.3%、そしてカリウム量が高い値を示しました。エタノール抽出物では総フェノール量が220.66±10.52 mg GAE/g、総トリテルペノイド量が450.33±0.96 mg UAE/g抽出物と高く、抗酸化に関わる試験でもEC50(効果が半分に達する濃度で、値が小さいほど少量で働くことを示す指標)が66.83±0.41〜240.63±1.95 μg/mLの範囲だったと報告されています。
著者ら自身は、今回得られた収量と生物学的効率は、これまでに報告されている一部の値より低いとも述べています。その理由として、補助栄養が米ぬかのみだったこと、収穫を2回の発生までに限ったこと、比較的控えめな栽培条件を採ったことを挙げ、栄養補助や水分・通気の条件、収穫回数の最適化が生産性を高めるうえで必要かもしれないとしています。なお、OPT繊維が優れていた理由として著者らが挙げているのは、繊維質で隙間の多い構造が通気と保水のバランスを取りやすいこと、ヘミセルロースやデンプンが分解されやすく菌が早く使える炭素源になること、C:N比が菌の代謝に適した範囲にあったことなどで、これらは測定結果にもとづく解釈として示されています。
この研究が示すこと
この研究は、処分に困る農業廃棄物として扱われてきたアブラヤシの古い幹が、霊芝の栽培培地として実際に機能しうることを実験で示したものです。しかも、入手が難しくなりつつあるゴムノキおがくずの代替として使えるという意味で、廃棄物の問題と資材不足の問題の両方に同時に関わってきます。
著者らは、OPT繊維が環境負荷の小さい実行可能な代替培地であり、農業廃棄物に価値を与える有効な方策になりうると結論づけています。
著者:Ragu Vinishaa(School of Biological Sciences, Universiti Sains Malaysia, Gelugor, Penang, Malaysia)、Kheng Leong Ooi(Agro-Biotechnology Institute, National Institutes of Biotechnology Malaysia, Jalan Bioteknologi, Serdang, Selangor, 43400, Malaysia)、Ayaka Uke(Biological Resources and Post-Harvest Division, Japan International Research Center for Agricultural Sciences (JIRCAS), 1-1 Ohwashi, Tsukuba, Ibaraki, 305-8686, Japan)、Akihiko Kosugi(Biological Resources and Post-Harvest Division, Japan International Research Center for Agricultural Sciences (JIRCAS), 1-1 Ohwashi, Tsukuba, Ibaraki, 305-8686, Japan)、Kumar Sudesh(Agro-Biotechnology Institute, National Institutes of Biotechnology Malaysia, Jalan Bioteknologi, Serdang, Selangor, 43400, Malaysia)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ragu Vinishaa, Kheng Leong Ooi, Ayaka Uke, et al. Old oil palm trunk fibres: A viable alternative for Ganoderma lucidum (Curtis) P. Karst cultivation. Industrial Crops and Products 2026-08-26. DOI: 10.1016/j.indcrop.2026.124201. 原著ライセンス:CC BY.