この研究は、中国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:ENGINEERING Agriculture
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の背景と目的
マグネシウム(Mg)は植物の生育に欠かせない多量要素で、葉緑素の中心をなす成分であるほか、タンパク質の合成や光合成の電子伝達、酵素のはたらきの調節にも関わっています。ところが著者らによれば、中国の農地では窒素・リン・カリウムの肥料が長年過剰に使われる一方、Mgのような二次要素や微量要素の補給が不十分で、Mgの不足が広がっています。論文が引用する調査では全国の耕地のおよそ63%でMgが不足し、とくに中国南部の酸性土壌地帯で深刻だとされます。高温多雨によってMgが雨水とともに流れ出しやすく、土壌の酸性化がMgやケイ素(Si)、ホウ素(B)の利用しやすさを下げるためです。
サトウキビは広東省をはじめとする南部で主に栽培されていますが、著者らは、この地域でMg不足がサトウキビの収量と品質を制限する大きな要因になっていると述べています。市販のMg肥料には速効性のもの、緩効性のもの、他の養分を組み合わせた複合肥料などがあり、性質も効き方も異なります。そこで研究チームは、化学肥料を減らした条件のもとで3種類のMg肥料を比べ、(1)収量と肥料利用効率、土壌の性質への影響、(2)細菌・真菌の群集の変化と収量・生育形質との関係、(3)微生物のはたらきの違いとその要因を明らかにすることを目的としました。
何をどう調べたか
圃場試験は中国広東省湛江市遂渓県で行われました。亜熱帯モンスーン気候の地域で、試験前の土壌は pH 4.73 の酸性、交換性マグネシウムは33.74 mg·kg⁻¹でした。
設けられた処理は5つです。無施肥の対照区(CK)、地域の慣行施肥から窒素を7%、リン酸を34%、カリを20%減らした「最適化施肥区」(OPT)、そしてOPTにそれぞれ硫酸マグネシウム(OPT+Mg)、ケイ素・マグネシウム肥料(OPT+SiMg)、ホウ素・マグネシウム・亜鉛肥料(OPT+BMgZn)を加えた3処理です。Mg肥料を加えた3処理はいずれも酸化マグネシウム(MgO)換算で年間60 kg·ha⁻¹と同量で、Mgを供給する形態と一緒に入る他の養分だけが異なります。
サトウキビの収穫期に茎と葉を採取して窒素・リン・カリウム・Mgの含有量を測り、区ごとの実収量を記録しました。また、作土層(0〜20 cm)の土壌を採取して pH や有機物、各種の可給態養分(作物が利用しやすい形の養分)、交換性カルシウム・マグネシウムを分析しました。土壌微生物については、DNAを抽出して細菌は16S rRNA遺伝子、真菌はITS領域の塩基配列を読み取り、群集の構成と多様性を評価しています。多様性の指標としては、その場所にどれだけ多くの種類がいるかを推定するChao1指数と、種類の多さと偏りを合わせて示すShannon-Wiener指数が使われました。さらに、配列情報からそれぞれの微生物が担うはたらき(有機物の分解や窒素固定、病原性など)を推定する解析も加えています。
報告された主な結果
著者らの報告では、3種類のMg肥料はいずれも、OPTと比べて2年平均のサトウキビ収量を高めました。増加率はOPT+Mgで6.8%、OPT+SiMgで7.6%、OPT+BMgZnで11.6%で、最も大きかったのはOPT+BMgZnです。糖収量もそれぞれ14.5%、16.5%、17.8%増え、茎の高さは5.6%、7.3%、7.3%高くなりました。一方で、ショ糖含量、茎の太さ、製糖用に収穫できる茎の本数には有意な差はみられませんでした。このことから研究チームは、Mg施肥による増収は主に茎が高くなったことによると考えられると述べています。
肥料利用効率については、OPTと比べてOPT+Mgでカリウム利用効率が、OPT+SiMgでリン利用効率が、OPT+BMgZnではリンとカリウムの両方の利用効率が高まりました。Mgの吸収量は3つのMg施用処理すべてでOPTを有意に上回り、Mg肥料の利用効率はOPT+BMgZnがOPT+Mgより有意に高いという結果でした。土壌では、Mgを施した3処理でOPTに比べて可給態カリウム、交換性カルシウム、交換性マグネシウムが増え、土壌有機物と可給態リンは減りました。pHはわずかに高まったものの、有意な差ではありませんでした。
微生物については、細菌のChao1指数がMg施用でOPTより4.8〜6.9%高まった一方、Shannon-Wiener指数は変わらず、真菌ではChao1・Shannon-Wienerのどちらの指数にも有意な差はありませんでした。属のレベルでは、OPT+BMgZnで植物の生育を助けるとされるBradyrhizobium、Acidothermus、Conexibacterの相対的な割合が増え、Mgを施した3処理すべてで、萎凋病や根腐れを起こす土壌病原菌として知られるFusariumと、Vanrijaの割合が減りました。はたらきの推定では、Mgを施した処理はOPTに比べ、細菌では他の微生物を捕食したり外部寄生したりする機能が増え、真菌では病原性の生活様式(パソトロフ)が減っていました。
相関解析では、収量、茎の高さ、リン・カリウム・Mgの吸収量が交換性マグネシウムおよび可給態カリウムと正の相関を示しました。また細菌の群集構造の変動は可給態カリウムと、真菌の群集構造の変動は可給態ケイ素と、それぞれ有意に相関していたと報告されています。ここでいう相関は、両者が一緒に動く傾向があるという関係であって、どちらが原因かを示すものではありません。
この研究が示すこと
著者らは、収量、養分利用効率、微生物群集の構造とはたらきを総合して、中国南部の酸性赤色土でのサトウキビ栽培において、ホウ素・マグネシウム・亜鉛肥料を組み合わせたOPT+BMgZnが最も適したMg施肥方法だったと結論づけています。
この結果が示すのは、不足している養分をどれだけ補うかだけでなく、どの形で補うかによって作物の反応が変わりうるということです。同じMg量でも一緒に入る養分が異なれば、土壌中の養分バランスや微生物の顔ぶれの変化を通じて、収量や肥料の効き方に差が現れました。Mgのように見過ごされがちな養分への目配りが、施肥全体の効率を考えるうえで一つの手がかりになることを、この試験は具体的な数値とともに示しています。
著者:Qihua Wu(Institute of Nanfan & Seed Industry, Guangdong Academy of Sciences, Guangzhou 510316, China)、Wenling Zhou(Institute of Nanfan & Seed Industry, Guangdong Academy of Sciences, Guangzhou 510316, China)、Benjie LI(Institute of Nanfan & Seed Industry, Guangdong Academy of Sciences, Guangzhou 510316, China)、Churong Liu(Institute of Nanfan & Seed Industry, Guangdong Academy of Sciences, Guangzhou 510316, China)、Junhua Ao(Institute of Nanfan & Seed Industry, Guangdong Academy of Sciences, Guangzhou 510316, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Qihua Wu, Wenling Zhou, Benjie LI, et al. Magnesium-induced changes in soil chemical and microbial properties facilitate improvements in sugarcane yield and fertilizer use efficiency. ENGINEERING Agriculture 2026-09-17. DOI: 10.15302/j-fase-2027714. 原著ライセンス:CC BY.