この研究は、中国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Foods (Basel, Switzerland)
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC
捨てられてきた殻を包装材料に
果物や野菜を加工すると、皮や殻といった副産物が大量に生まれます。従来これらは焼却や埋め立てで処分されてきましたが、研究チームによれば、こうした副産物には食物繊維やポリフェノールなど価値のある成分が豊富に含まれており、機能性のある食品包装フィルムの材料として使える可能性があります。
著者らが着目したのは、水生作物であるヒシ(Trapa bispinosa Roxb.)の殻です。論文の説明では、ヒシの世界の年間生産量は200万トンを超え、殻は果実の生重量の約20%を占めます。殻にはリグノセルロース(植物の細胞壁をつくる繊維成分)と、抗酸化・抗菌の働きをもつポリフェノールが多く含まれています。しかし、これまでのヒシ利用研究は食べられる果肉部分、とくにデンプンの活用に集中しており、殻を包装材の原料として調べた例はほとんどありませんでした。
そこで研究チームは、色の異なる3品種(緑・赤・黒)のヒシの殻を粉末にし、キトサン(カニやエビの殻などに含まれるキチンから作られる多糖で、膜をつくりやすい性質をもつ)に混ぜてフィルムを作製しました。成分を抽出する手間を省き、粉末をそのまま混ぜ込むこの方法は、製造工程を簡単にし、コストを下げられると論文は述べています。著者らによれば、こうしてできたフィルムの構造・機能・豚肉の保存効果を品種間で体系的に比較したのは、本研究が初めてです。
品種によって殻の性質が大きく違った
まず殻粉そのものの成分を調べたところ、品種による差、とくに粗繊維の量の差が大きいことが報告されました。黒いヒシの殻粉は粗繊維が39.46%に達し、緑(17.41%)や赤(21.03%)を大きく上回りました。著者らはこれを、黒いヒシが完全に成熟した段階にあたり、殻が十分に木質化して表面に硬い層ができるためだと説明しています。電子顕微鏡で見ると、緑と赤の殻粉は薄い板状でしたが、黒の殻粉はかたまり状で、粉砕しにくい硬さを反映していました。
一方、ポリフェノールとアントシアニンの総量は赤の殻粉が最も多く、次に緑、黒と続きました。緑の殻粉はクロロフィル(葉緑素)の総量が最も多く、殻の緑色のもとになっています。
これらの粉末をキトサンに20%加えてフィルムにすると、いくつかの性質がそろって変わりました。無色だったキトサンフィルムは茶色がかった色になり、光の透過率が下がりました。粉末の粒が光を散乱させ、含まれる色素やリグニンが光を吸収するためで、著者らはこの強い遮光性が光による食品の劣化を抑えるのに役立つと述べています。厚みは0.077mmから0.111〜0.128mmに増え、引張強度は22.28MPaから23.55〜24.71MPaへわずかに上がりました。ただし伸びやすさ(破断伸び率)は41.95%から9.17〜10.64%へ大きく低下し、フィルムはもろくなりました。論文はこの点を、高速加工や熱シールでの破断リスクにつながる実用上の課題として明示しています。水分率・水溶性・膨潤率は下がりましたが、水蒸気透過度は上がりました。
抗酸化・抗菌の働きと豚肉の保存試験
殻粉を加えたフィルムは、キトサンだけのフィルムより高い抗酸化活性を示しました。DPPH法での値は緑・赤・黒の順に35.76、34.67、33.52μmol TE/g、ABTS法では47.43、46.01、45.86μmol TE/gと報告されています。抗菌性についても、サルモネラ(グラム陰性)と黄色ブドウ球菌(グラム陽性)の両方に対して、殻粉入りフィルムはキトサンフィルムを上回りました。なかでも緑の殻粉を使ったフィルムが最も強い抗菌活性を示し、著者らはクロロフィル量が最も多く、ポリフェノール量も他と同程度だったためと考えています。
実際の食品での効果を確かめるため、ひき肉にした豚肉をフィルムで包み、4℃で12日間保存する試験が行われました。包まないひき肉は4日目に中国の国家標準に基づく鮮度の基準を外れ、色も暗くなりました。キトサンフィルムで包むと品質低下が遅くなり、殻粉入りフィルムはさらに良い結果を示して、日持ちは6日まで延びました。品種間では緑、赤、黒の順に効果が高く、これはフィルムの抗酸化・抗菌活性の順序と一致していました。
この研究が示すこと
この研究は、利用されずにきたヒシの殻をそのまま粉にして混ぜるだけで、遮光性と抗酸化・抗菌性をもつ包装フィルムが作れることを示しました。同時に、同じ「ヒシの殻」でも品種と成熟度によって繊維量や粒の形が違い、それがフィルムの構造や性能の差に直結することを明らかにしています。原料として何を選ぶかが仕上がりを左右する、という視点を与える結果です。
著者らは課題も残したままにせず、破断伸び率の低下と水蒸気透過度の上昇を、実用化に向けて改善すべき点として挙げています。
著者:Liao T(College of Food Science and Engineering, Yangzhou University, Yangzhou 225127, China.)、Ahmad B(College of Food Science and Engineering, Yangzhou University, Yangzhou 225127, China.)、Wu Y(College of Food Science and Engineering, Yangzhou University, Yangzhou 225127, China.)、Yong H(College of Food Science and Engineering, Yangzhou University, Yangzhou 225127, China.)、Kan J(College of Food Science and Engineering, Yangzhou University, Yangzhou 225127, China.)、Liu J(College of Food Science and Engineering, Yangzhou University, Yangzhou 225127, China.)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Liao T, Ahmad B, Wu Y, et al. Comparison of the Structural Characteristics and Functional Performances of Chitosan-Based Active Packaging Films Loaded with Three Varieties of Water Chestnut (<i>Trapa bispinosa</i> Roxb.) Shell Powder. Foods (Basel, Switzerland) 2026-09-20. DOI: 10.3390/foods15183339. 原著ライセンス:CC BY.