発酵ソーセージは中国で広く食べられている伝統食品ですが、自然発酵に頼る製法では腐敗菌や病原菌に汚染されるリスクがあり、品質や安全性の面で課題があるとされています。こうした背景から、天然由来の添加物を使って微生物のバランスや風味を改善できないかが研究のテーマとなっています。今回紹介する研究では、クロモジ(Litsea cubeba)の精油(LCEO)を発酵ソーセージに加えたときに、微生物群集の構成や揮発性香気成分(VFCs)がどのように変化するかが、複数の解析手法を組み合わせて調べられました。

どのように調べたのか

研究チームは、16S/ITSアンプリコン配列解析という手法で細菌や真菌の種類と割合を調べるとともに、HS-SPME-GC-MS(固相マイクロ抽出とガスクロマトグラフィー質量分析を組み合わせた手法)によって揮発性の香気成分を分析しました。あわせて、官能評価によって人が実際に感じる匂いや総合的な評価も比較されています。

研究でわかったこと

解析の結果、LCEOを加えることで微生物群集が大きく変化したことが報告されています。具体的には、Lactobacillus(乳酸菌の一種)の相対的な割合が4.65%から76.22%へと大きく増加し、Debaryomyces(酵母の一種)も11.95%から22.35%に増加しました。一方で、Staphylococcusは47.01%から4.55%へ、Aspergillusは37.28%から17.09%へと減少したとされています。

香気成分については、合計695種類の揮発性化合物が同定され、その中でもテルペノイド類と炭化水素類が最も多く検出されました。差分解析では、LCEOの添加によってエチルエステル類やアルデヒド類といった香りに関わる成分の相対量が増加したことが示されています。特に、デカン酸エチルやノナン酸メチルといったフルーティーな香りに関連する化合物は、匂いの感じやすさの指標(オーダー活性値)が1を超えており、香りへの寄与が大きいと考えられています。

さらに、こうしたフルーティーなエステル類の増加は、官能評価における匂いのスコアの有意な向上(p<0.05)につながったと報告されています。評価者はLCEO添加ソーセージに対して、フルーティーでフレッシュな香りを一貫して感じ取り、対照群と比べて総合的な評価も高くなったとされています。相関解析では、LactobacillusやDebaryomycesと、香りに寄与する主要なエステル類との間に強い正の関連があることも示されました。

この研究の位置づけと読むうえでの注意

この研究は、クロモジ精油が発酵ソーセージにおける微生物リスクの低減と風味の改善の両方に役立つ可能性を示唆するものであり、天然の食品添加物としての応用が期待できると論文では述べられています。ただし、これは一つの研究であり、報告された効果が今後あらゆる条件で再現される、あるいは断定的な結論として確立されたわけではない点には留意が必要です。なお、著者らは中国・四川省や宜賓市の教育・研究機関に所属しており、この研究における日本の研究機関の関与や日本の食品・食習慣への言及は、提供された情報の中には見当たりませんでした。

まとめ

本研究は、クロモジ精油を発酵ソーセージに添加することで、Lactobacillusなど有用とされる微生物が増える一方、StaphylococcusやAspergillusといった微生物が減少し、あわせてフルーティーな香気成分が増加して官能評価も向上したことを報告しています。発酵食品における天然由来添加物の活用可能性を示す知見の一つといえるでしょう。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:クロモジ精油が発酵ソーセージの風味に与える影響のマルチオミクス解析(ファーメンテーション・2026年07月)