スーパーで買う卵は、殻の表面にさまざまな微生物が付着していることがあります。そのため洗浄・消毒の工程が用いられることがありますが、消毒液の濃度によっては卵の内部を守る「卵殻膜」という薄い膜にダメージを与える可能性も考えられます。今回紹介する研究は、バングラデシュで消費されている鶏卵とアヒル卵を対象に、卵に含まれる微量元素(ミネラルなど)の状態を調べるとともに、次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)による洗浄が微生物の除去と卵殻膜の構造にどのような影響を与えるかを検討したものです。

研究でわかったこと

研究チームは、卵黄・卵白・全卵のそれぞれについて、機器中性子放射化分析(INAA)や原子吸光分光法(AAS)という手法を用いて15種類の元素を測定しました。その結果、多くの元素は許容される最大濃度を下回っていましたが、一部の全卵試料では鉛(Pb)とクロム(Cr)が許容基準を超えていたと報告されています。

ただし、これらの値をもとに推定摂取量(EDI)やターゲットハザード指数(THQ)、ハザード指数(HI)、発がんリスクの指標(TCR)といった曝露リスクの指標を算出したところ、成人・小児のいずれにおいても許容範囲内にとどまっていたとされています。また、主成分分析(PCA)や階層クラスター分析(HCA)といった多変量解析により、卵の部位や種(鶏卵・アヒル卵)によって元素の分布パターンや関係性に違いが見られたことも示されています。

さらに研究チームは、0〜200ppmの濃度でNaOCl処理を行った卵を用いて、微生物の減少効果と卵殻膜への構造的影響を評価しました。その結果、NaOCl処理によって細菌・真菌の総量が有意に減少し、150ppmおよび200ppmでは培養可能な微生物の数が検出限界(10 CFU/g)を下回ったと報告されています。一方で、中程度の濃度のNaOClは微生物学的な安全性を高めるのに効果的であったものの、より高い濃度では卵殻膜に酸化的な変化や構造の劣化が生じたことも示されています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究は、バングラデシュで消費される鶏卵・アヒル卵という特定の対象について得られた結果であり、要旨からは調査対象の詳細な規模や地域の広がりまでは明らかではありません。また、今回の結果はあくまで一つの研究によるものであり、卵の種類や産地、保存状態などが異なれば結果が変わる可能性も考えられます。研究結果を鵜呑みにせず、今後さらに研究が積み重ねられていく中で検証されていくべき知見として捉えるとよいでしょう。

なお、この研究で言及されているNaOClによる洗浄処理は、家庭での卵の取り扱いを直接推奨するものではなく、あくまで研究として濃度ごとの効果と影響を比較検討したものである点にも留意が必要です。

まとめ

今回紹介した研究では、鶏卵・アヒル卵に含まれる微量元素の状況を確認したうえで、一部の元素が許容基準を超える例があったものの、摂取量に基づくリスク指標は許容範囲内であったことが示されました。また、次亜塩素酸ナトリウムによる洗浄は、適切な濃度であれば微生物の除去に効果的である一方、濃度が高くなると卵殻膜の構造に影響を及ぼす可能性があることが示唆されています。今後、卵の衛生管理や品質保持のあり方を考えるうえで、参考になる知見の一つといえそうです。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:次亜塩素酸ナトリウム洗浄が鶏卵・アヒル卵の卵殻膜の完全性、微生物除染、および微量元素関連の食事リスクに与える影響(バイオロジカル・トレース・エレメント・リサーチ・2026年08月)