掲載誌:FSA research and evidence.
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
評価の目的と対象
この評価書は、英国食品基準庁(FSA)とスコットランド食品基準庁(FSS)が、新しい食品添加物「糖脂質(AM-1)」の認可申請について安全性を検討した結果をまとめたものです。申請はドイツの企業から、食品添加物の認可手続きを定めた規則に基づいて提出されました。
AM-1は、食用キノコの一種であるダクリオピナクス・スパチュラリア(Dacryopinax spathularia)の特定の菌株「MUCL 53181」を発酵させて作られます。糖と脂肪酸が結びついた「糖脂質」と呼ばれる物質が似た構造で何種類も混ざったもので、乾燥重量の93%以上を糖脂質が占めます。微生物の増殖を抑える働きがあるため、飲料の保存料としての使用が提案されており、想定される使用量は通常で1リットルあたり10ミリグラム、最大で50ミリグラムです。
評価にあたっては、添加物などを扱う合同専門家グループ(AEJEG)に加え、食品の微生物学的安全性に関する諮問委員会(ACMSF)と、化学物質の毒性に関する委員会(COT)の意見も考慮されました。
製造工程・不純物・安定性の確認
製造では、ブドウ糖を栄養源にキノコの菌を培養したのち、精密なろ過(精密ろ過)で菌の細胞を取り除き、糖脂質を沈殿させて精製し、加熱殺菌と乾燥を経て粉末にします。評価書によると、生きた菌の数の測定や顕微鏡観察でも製品中に菌の細胞は見つからず、専門家グループは製造工程に懸念はないと判断しました。
不純物については、重金属や微生物の上限値が規格に定められているほか、カビ毒(マイコトキシン)は検出されず、医療上問題となるような抗生物質も見つからなかったと報告されています。
安定性の試験では、密閉容器に入れた乾燥粉末は20℃と40℃で少なくとも3年間、成分の変化が見られませんでした。一方、水に溶かした状態では、糖に付いている小さな酸の部分(アシル基)が時間とともに外れる「脱アシル化」が起こり、温度が高いほど進みやすいことが示されました。110種類の市販飲料で3か月保存した試験でも、酸性度の強い飲料ほど脱アシル化が進みやすい傾向がありましたが、糖脂質の骨格そのものが分解されることは確認されなかったとされています。申請者は、脱アシル化した糖脂質も、効力はやや弱まるものの抗菌作用を保つと説明しています。
腸内細菌への影響と安全性の結論
専門家グループは、脱アシル化した後も抗菌作用が残る物質を、AM-1入りの飲料を通じて長期間少量ずつ摂取し続けることについて懸念を示し、この懸念はCOTとACMSFにも支持されました。これを受けて、ラットに1日あたり体重1キログラムにつき最大1000ミリグラムを90日間口から投与し、ふんや盲腸の内容物を調べた試験が追加で提出されました。FSAとFSSは、この量でも腸内細菌の構成に生物学的に意味のある変化は見られなかったと結論づけています。
全体として両機関は、菌株MUCL 53181を使って作られたAM-1について、毒性、遺伝子への悪影響(遺伝毒性)、腸内細菌への影響のいずれにも懸念はないと判断しました。そのうえで、90日間のラット試験に基づき、悪影響が見られなかった最大量である「無毒性量(NOAEL)」を体重1キログラムあたり1日1000ミリグラムとしました。これを、動物と人の違いや個人差などを考慮した安全の幅(不確実係数)300で割り、人が毎日一生摂り続けても健康への悪影響がないと考えられる量である「許容一日摂取量(ADI)」を体重1キログラムあたり1日3.3ミリグラムと定めています。
評価が示すこと
この評価は、キノコの発酵から得られる新しい飲料用保存料について、成分や製造工程、保存中の変化、腸内細菌への影響まで含めて確認した結果、安全上の懸念は見いだされなかったことを示しています。あわせて評価書は、この結論があくまで特定の菌株MUCL 53181で製造されたAM-1に当てはまるものだと明確にしており、食品添加物の安全性が原料や製法と結びつけて判断されていることもうかがえます。
原著論文の著者・所属:Food Standards Agency、Food Standards Scotland
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Food Standards Agency, Food Standards Scotland. Safety Assessment on AM-1 Glycolipids Used as a New Food Additive (RP1457). FSA research and evidence. 2026-10-20. DOI: 10.46756/001c.172055. 原著ライセンス:CC BY.