著者の所属・活動拠点の国は、クロアチア、ロシア、イラン、セルビアです。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

加熱に頼らずに果汁の品質を保つために

果汁の安全性と保存性を確保する標準的な方法は加熱殺菌(パスチャライゼーション)です。ただし熱をかけると、栄養や風味、色に関わる成分が損なわれることがあります。果汁が褐色に変わる褐変や、糖が分解してできるヒドロキシメチルフルフラール(HMF)という化合物の生成も起こりやすくなります。そこで、熱を使わない処理技術を組み合わせ、一つひとつを穏やかな条件で使う「ハードル技術」という考え方が注目されています。

イチゴの赤い色のもとは、アントシアニンと呼ばれる水に溶ける色素です。アントシアニンは酸素や温度、光などの影響で分解しやすいため、処理と保存のあいだにどれだけ残せるかが、加熱しないイチゴ果汁を開発するうえで重要な品質の目安になります。

研究チームは以前、パルス電場(PEF)処理の後に高出力超音波(HPU)処理を行う順序で、イチゴ果汁への影響を調べていました。今回の研究では同じ技術、処理時間、測定項目のまま順序を逆にし、超音波の後にパルス電場をかけています。処理の順番が色素の保持や色、物理化学的な性質に影響するのかを確かめることと、この順序での最適な処理条件を見つけることが目的です。

どのように調べたか

高出力超音波は、液体中に微小な気泡を発生させます。気泡がつぶれるときの強い力で、果汁に残る植物の細胞構造が壊れます。パルス電場は、ごく短い高電圧のパルスによって細胞膜に穴を開ける技術です。どちらも細胞内の成分を果汁中に放出させます。著者らは、この働きが色素を取り出しやすくする一方で、放出された色素を酸素などにさらし、その後の分解を早める可能性もあると説明しています。

実験では、低温圧搾したイチゴ果汁に超音波を2.5分、5分、7.5分のいずれかの時間当てました。続いて、電場強度30 kV/cm・100 Hzのパルス電場を1.5分、3分、4.5分のいずれかの時間かけています。処理した果汁は、処理直後と4℃で7日間保存した後に分析しました。比較のため、処理をしていない果汁も同じ条件で保存しています。

測定したのは、アントシアニン量、色(明るさ、赤み、黄み、色の鮮やかさ、未処理果汁との色の差など)、電気伝導度、褐変の程度を示す褐変指数、溶存酸素、HMFです。結果の解析にはケモメトリクスを用いました。これは多数の測定値をまとめて統計的に分析する手法で、試料どうしの似かたの分類や、処理時間から品質を予測するモデルによる最適条件の探索を行っています。

主な結果

保存は測定したすべての項目に有意な影響を与えました。7日間の保存で電気伝導度、褐変指数、色の差は大きくなりました。一方で、アントシアニン、溶存酸素、HMFの値は低下しています。

処理の組み合わせを比べると、最も穏やかな条件である超音波2.5分とパルス電場の組み合わせで、アントシアニンが最も多く残りました(100 mLあたり19.48 mg)。電気伝導度、褐変指数、HMFも最も低い値でした。処理を強くするほど品質の劣化が進むことも報告されています。多数の測定値をまとめた分類でも、処理直後の試料のうち穏やかな処理(超音波2.5分とパルス電場1.5〜3分)を受けたものが、未処理の新鮮な果汁に最も近いグループに入りました。

未処理の果汁と比べて処理した果汁で主に違いが見られたのは、電気伝導度と一部の色の指標です。電気伝導度が高くなったのは、細胞が壊れてイオンなどが果汁中に出てきたためと著者らは説明しています。アントシアニン量、褐変指数、HMF、溶存酸素については、未処理の果汁との統計的に有意な差は認められませんでした。また、未処理の果汁は7日間保存しても全体として新鮮な状態に近く、冷蔵での短期保存による劣化は限られていました。

予測モデルを使った最適化では、アントシアニンを最も多く残す条件は「超音波2.5分+パルス電場1.5分、保存なし」で、予測値は100 mLあたり20.07 mgでした。HMFを最も低く抑える条件は「超音波3.5分+パルス電場1.5分」で、予測値は1 Lあたり4.29 mgでした。さらに著者らは以前の研究結果と比較し、超音波を先に当てる今回の順序では、逆の順序よりも穏やかな条件で高い電気伝導度に達したと述べています。著者らはこれを、気泡による作用が電場処理より先に起こることで生じる相乗的な効果と考えています。

研究が示すこと

この研究は、超音波とパルス電場を短時間ずつ組み合わせる穏やかな処理が、イチゴ果汁の色素や品質を新鮮な果汁に近い状態に保つうえで有効な選択肢になりうることを示しています。処理を強めるほど品質が損なわれやすいという結果は、加熱しない処理でも条件を抑えることが大切だと示しています。なお、今回評価した保存期間は7日間です。著者らは、より長く保存した場合に穏やかな処理がさらに有利になるかどうかは、この研究の範囲では確かめられていないとしています。

原著論文の著者・所属:Anica Bebek Markovinović(Faculty of Food Technology and Biotechnology, University of Zagreb, Pierottijeva 6, 10000 Zagreb, Croatia)、Višnja Stulić(Faculty of Food Technology and Biotechnology, University of Zagreb, Pierottijeva 6, 10000 Zagreb, Croatia)、Predrag Putnik(Department of Food Technology, University North, Trg Dr. Žarka Dolinara 1, 48000 Koprivnica, Croatia)、Tibor Janči(Faculty of Food Technology and Biotechnology, University of Zagreb, Pierottijeva 6, 10000 Zagreb, Croatia)、Zoran Herceg(Faculty of Food Technology and Biotechnology, University of Zagreb, Pierottijeva 6, 10000 Zagreb, Croatia)、Amin Mousavi Khaneghah(Faculty of Biotechnologies (BioTech), ITMO University, 9 Lomonosova Street, 191002 Saint Petersburg, Russia; Halal Research Center of IRI, Iran Food and Drug Administration, Ministry of Health and Medical Education, Tehran 1415845371, Iran)、Branimir Pavlić(Faculty of Technology, University of Novi Sad, Bul. Cara Lazara 1, 21000 Novi Sad, Serbia)、Danijela Bursać Kovačević(Faculty of Food Technology and Biotechnology, University of Zagreb, Pierottijeva 6, 10000 Zagreb, Croatia)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Anica Bebek Markovinović, Višnja Stulić, Predrag Putnik, et al. Processing of Strawberry Juice Using High-Power Ultra-Sound (HPU) and Pulsed Electric Field (PEF): Synergistic Effects on Quality, Color and Anthocyanins Revealed by Chemometrics. Foods 2026-10-01. DOI: 10.3390/foods15193519. 原著ライセンス:CC BY.