著者の所属・活動拠点の国は、オーストラリアです。
掲載誌:Agriculture and Human Values
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:広がった運動が抱える課題
パーマカルチャーは、自然の模様や生き物どうしの関係をまねて土地を設計し、地域で必要な食料・繊維・エネルギーを得ようとする農と暮らしの考え方です。1970年代にオーストラリアのタスマニアで、ビル・モリソンとデビッド・ホルムグレンが「永続する農業」という意味でこの言葉を生み出しました。化学肥料や農薬など外部からの投入に頼る工業型農業とは異なる道を示す、アグロエコロジー(生態学の原理を農業の設計と管理に生かす考え方で、科学・実践・社会運動の三つの面を持つ)の運動の一つとされています。
パーマカルチャーは世界に広がりましたが、その一方で「多様な人々を十分に受け入れていない」「グローバル・ノース(欧米を中心とする豊かな国々)の運動になっている」という批判も受けてきました。この論文で著者らは、こうした批判をさまざまな視点から整理し、パーマカルチャーの利点と課題、そして解決の道筋を考えることを目的としています。
どのように論じたか:「南の理論」という視点
著者らは、社会学者レイウィン・コネルが提唱した「南の理論(サザン・セオリー)」を議論の軸に据えました。これは、主流の学問が欧州や北米の視点から世界を描いてきたことを問い直し、グローバル・サウスや周縁に置かれてきた人々の知識と歴史に価値を認める考え方です。あわせて、植民地支配のもとで軽んじられてきた知のあり方を見直す「知の脱植民地化」と、人間社会を生態系の網の一部として捉える「生態学的な全体論」も補助的な枠組みとして用いています。
論文は既存の研究や論者の主張を幅広く検討する論考で、筆頭著者がオーストラリア・クイーンズランド州南東部のボランティア団体や、パーマカルチャー設計の認定講座に参加して得た観察も議論に添えられています。
浮かび上がった批判と応答の道筋
論文が紹介する先行研究では、45か国を対象とした調査で女性の参加は半数以上(53%)に達した一方、参加者の96%が白人だったと報告されています。また、創始者たちは東南アジアや中米、タスマニアのアボリジナルの人々の伝統農業から着想を得たと述べていたにもかかわらず、現在の実践ではそうした伝統的・先住民の知識が正式に認められておらず、「北の発明」として語られがちだという指摘があります。さらに、学ぶための講座が高額で、長く主に欧州系の人々によって教えられてきたことも、参加の壁として挙げられています。
著者らは、背景として「緑の革命」にも触れています。収量を大きく伸ばした一方で、化学物質に頼る農業を途上国に持ち込み、数千年続いた伝統的な食料システムを輸出向けの単一栽培へ置き換え、南北の格差を生んだと多くの論者が論じてきたものです。
そのうえで論文は、パーマカルチャー自身の倫理と原則の中に応答の手がかりがあると論じます。たとえばフィリピンの実践者サラ・ケブラティンは、その土地の生態系の固有性を認め、そこを守ってきた人々の同意を求め、土地に根づいた伝統的な生態学的知識を尊重するという「原則ゼロ」を提案しました。「公正な分配」という倫理に沿って余剰を生かし、周縁のコミュニティに無償で講座を提供することや、中南米の「農民から農民へ」の運動のような学び合いの場づくり、土地を持たない人も参加できるコミュニティガーデン、女性たちのギルドなども具体的な方向性として紹介されています。インドでは、パーマカルチャー運動が地域の特色を取り込み、南の社会運動らしい性格を持つようになったという研究も挙げられています。
この論考が示すもの
著者らは、南の理論や脱植民地化の考え方、社会と生態系を一体として見る視点を組み合わせることで、パーマカルチャーをより全体的に理解できると結論づけています。これらの視点は、倫理と原則に基づく柔軟な設計思想の大切さを裏づけると同時に、運動に向けられた批判に応えるための実践的な示唆も与えるといいます。南の理論はアグロエコロジーにも広く当てはまる枠組みであり、北と南の対話を進めることが、より公平で世界に開かれた農の知識づくりにつながる。論文はそう示しています。
原著論文の著者・所属:Anuradha Alahakoon(Ecosystem Management, School of Environmental and Rural Science, University of New England, Armidale, NSW, 2351, Australia)、Bertram Jenkins(School of Humanities, Arts and Social Sciences, University of New England, Armidale, NSW, 2351, Australia)、Rhiannon Smith(Ecosystem Management, School of Environmental and Rural Science, University of New England, Armidale, NSW, 2351, Australia)、Nick Reid(Ecosystem Management, School of Environmental and Rural Science, University of New England, Armidale, NSW, 2351, Australia)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Anuradha Alahakoon, Bertram Jenkins, Rhiannon Smith, et al. The permaculture movement and the global south: towards a democratised agroecological knowledge project. Agriculture and Human Values 2026-08-06. DOI: 10.1007/s10460-026-10945-y. 原著ライセンス:CC BY.