著者の所属・活動拠点の国は、サウジアラビアです。
掲載誌:Frontiers in Psychology
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
空腹だからではなく、不安やストレスなどの感情に応じて食べることを「感情的摂食」といいます。著者は、腸内細菌と腸、脳の間で交わされる情報が、この食行動を理解する手がかりになるかを検討しました。
従来の心理学的な説明は、ストレス、感情の調整の難しさ、食べることで得られる快感などに注目してきました。しかし著者は、それだけでは、ストレスで食べる量が増える人とそうでない人の違いや、きっかけとなった感情がなくなっても行動が続く理由を十分に説明できないとしています。
何を、どのように調べたか
この論文は、新たに参加者を集めた実験ではなく、心理学、神経科学、微生物学、栄養と精神の健康に関する既存研究を組み合わせた総説です。腸内細菌と脳の情報のやり取りについて、ストレス反応、食べる喜びを感じる仕組み、神経伝達物質、免疫、食欲に関わるホルモン、細菌が作る代謝物の役割を整理しました。食習慣が腸内細菌や炎症、代謝物の産生に及ぼす影響も扱っています。
文献は英語の報告に限られ、あらかじめ定めた手順で網羅的に集める系統的レビューではありません。単独の著者による文献の選択と統合であり、各研究の偏りを評価する手続きや、複数の研究結果を統計的にまとめる分析は行っていません。
主な報告結果
著者は、腸内細菌の構成や働きが、神経、ホルモン、免疫、代謝物を介して、気分、ストレスへの反応、食べ物への強い欲求、食行動に関与する可能性を整理しました。ただし、これらは感情的摂食について確立された仕組みではなく、説明の候補です。根拠の多くは動物実験や細胞などを使った実験、あるいは人のストレス、抑うつ、肥満、食欲全般を調べた研究に由来していました。
感情的摂食そのものを尺度で測り、腸内細菌や炎症との関係を調べた人の研究は少なく、多くは一時点の状態を比べる小規模な観察研究でした。腸内細菌の多様性と食行動の得点との関連は、研究集団によって逆方向に報告されていました。また、炎症の指標と食べることを抑えにくい傾向との関連は、体脂肪の影響を考慮すると大きく弱まったと著者は述べています。
因果関係の向きも決まっていません。腸内細菌の変化が感情的摂食に関わる可能性に加え、感情的摂食によって食事の内容や時間が変わり、その結果として腸内細菌が変化する可能性があります。互いに影響する場合や、慢性的なストレス、体脂肪、共通の食習慣などが両方に関わる場合も考えられ、現在の人のデータでは区別できないとしています。
この報告が示すこと
著者は、感情的摂食を心理面だけでなく、ストレスへの反応、食べる喜び、日常の食事、腸からの信号が関わる現象として捉える枠組みを提示しています。その意義は、行動を変える難しさを本人の責任だけに帰さず理解するための説明にあり、腸内細菌の乱れが原因だと断定したり、それを整えれば治療になると示したりするものではありません。
動物実験も、人の感情的摂食をそのまま再現しているわけではありません。多くは好ましい食べ物を大量に食べるなどの行動を扱い、その前にある感情まで捉えていないためです。著者は、この枠組みを確定した説明ではなく、既存の知見を整理した検証可能な仮説として位置づけています。
原著論文の著者・所属:Saleh A. Alsanie(Department of Basic Health Sciences, College of Applied Medical Sciences, Qassim University; Department of Clinical Nutrition, Qassim University Medical City)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Saleh A. Alsanie. Beyond emotional hunger: exploring the microbiota-gut-brain axis as a proposed mechanistic framework for emotional eating. Frontiers in Psychology(出版社:Frontiers Media) 2026-11-06. DOI: 10.3389/fpsyg.2026.1955982. 原著ライセンス:CC BY.