この研究は、ドイツの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Nutrients
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
注意欠如・多動症(ADHD)は、食行動や食事のパターン、体重の調節に変化がみられることが知られています。また、ADHDの薬物治療には食欲を抑える作用があることも以前から指摘されてきました。しかし研究チームは、食欲の抑制以外に、栄養に関わる幅広い側面へどのような影響が及ぶのかは、まだはっきりしていないと述べています。
そこで著者らは、薬物治療を受けているADHDの人において、食事の摂取量や食行動、栄養状態、成長、骨の健康について、これまでにどのような研究報告があるのかを地図のように描き出すことを目的としました。こうした「どんな証拠がどれだけ存在するかを見渡す」タイプの文献調査は、スコーピングレビューと呼ばれます。
調べ方と対象となった研究
著者らは、ジョアンナ・ブリッグス研究所の方法論と、スコーピングレビュー向けの報告指針であるPRISMA-ScRに沿って調査を行いました。文献データベースのPubMedとScopusを用い、2010年1月から2026年6月までの範囲で検索しています。薬物治療を受けているADHDの人について、栄養に関連する結果を一つ以上報告している研究を対象としました。
集めた研究の情報を整理したうえで、報告されていた結果は四つの領域に分類されています。食事摂取量と食行動、栄養状態と代謝のバイオマーカー(血液検査などで測る指標)、成長と身体計測に関する結果、そして骨の健康です。
条件を満たしたのは27件の研究でした。その多くは観察研究であり、小児、あるいは年齢層が混在した集団を対象としていたと報告されています。
報告された主な結果
四つの領域のうち、最も多く調べられていたのは成長と身体計測に関する項目でした。中枢刺激薬による治療については、食欲の低下、治療を続けている期間中のエネルギー摂取量の減少、そして体重・BMI・成長速度の一時的な低下との関連が報告されています。
食行動の変化を報告した研究も複数ありました。その内容は一方向ではなく、食行動の乱れ(摂食の問題)のリスクが高まるという報告と、食事の組み立てが改善したという報告の両方が含まれていたとされています。
一方で、栄養に関するバイオマーカーや代謝の指標、骨の健康についての証拠は限られており、研究ごとのばらつきも大きかったと著者らは述べています。
この研究が示すこと
著者らは、ADHDの薬物治療に伴う栄養面の影響は、単なる食欲の抑制にとどまらず幅広い範囲に及ぶと結論づけています。そして、そこで観察される栄養面の結果は、生物学的な仕組みと行動面の要因が複雑に絡み合って形づくられていると考えられる、としています。
同時に、証拠が足りていない部分もはっきりと示されました。成人を対象とした研究、長期にわたる栄養面への影響、そして栄養バイオマーカーに関する知見は、いずれも今後埋められるべき空白として残されています。ADHDの治療を栄養という視点から見渡したとき、分かっていることと分かっていないことの境界を整理した点に、この調査の意義があります。
著者:Jens-Mirco Engbrink(Center for Nutrition and Therapy (NuT), University of Applied Sciences Muenster, Corrensstraße 25, 48149 Muenster, Germany)、Janina Dapprich(Center for Nutrition and Therapy (NuT), University of Applied Sciences Muenster, Corrensstraße 25, 48149 Muenster, Germany)、Tobias Fischer(Center for Nutrition and Therapy (NuT), University of Applied Sciences Muenster, Corrensstraße 25, 48149 Muenster, Germany)、Anja Markant(Center for Nutrition and Therapy (NuT), University of Applied Sciences Muenster, Corrensstraße 25, 48149 Muenster, Germany)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Jens-Mirco Engbrink, Janina Dapprich, Tobias Fischer, et al. Dual Effects of ADHD Pharmacotherapy on Nutrition: A Scoping Review of Appetite, Eating Behavior, and Growth Across the Lifespan. Nutrients 2026-09-17. DOI: 10.3390/nu18183039. 原著ライセンス:CC BY.