中国貴州省などで作られる娘娘茶(ニャンニャンちゃ)は、黄茶(きちゃ)に分類されるお茶の一種です。黄茶づくりの工程には「黄変(おうへん)」と呼ばれる、茶葉を軽く発酵させて寝かせる特有のステップがあり、この時間の長さが香りや味の仕上がりを大きく左右すると考えられています。しかし、黄変の間に茶葉の中でどのような化学成分の変化が起きているのかは、これまで詳しく分かっていませんでした。中国・貴州大学茶学院などの研究グループは、この黄変時間と風味の関係を成分レベルで明らかにするための分析を行いました。
どのように調べたのか
研究チームは、黄変時間を0時間・16時間・24時間・32時間を含む5段階に分けて娘娘茶を作り分け、それぞれの茶葉に含まれる成分を「広域ターゲットメタボロミクス」という手法で網羅的に分析しました。これは、香り成分(揮発性代謝物)と、味に関わる成分(非揮発性代謝物)の両方を一度に測定できる分析方法です。あわせて人による官能評価(実際に飲んで香りや味を評価する方法)も実施し、成分データと感じ方の対応を確認しています。
黄変時間によって何が変わったのか
分析の結果、全サンプルを通じて111種類の香り成分と、65種類の味に関わる差異成分が確認されました。これらの成分は、黄変が進む段階によって異なる動きを見せています。黄変の初期段階ではアミノ酸類が主に増加し、続く中間段階では、可溶性の糖類に加えて、花のような甘い香りに関わる成分(ネラール、イオノン、α-イオノンなど)が豊富になることが分かりました。一方で、黄変の終盤(32時間)になると多くの成分がかえって減少し、全体として風味が弱まる傾向が見られました。官能評価とあわせて見ると、黄変16〜24時間の中間段階が、味と香りのバランスが最も取れた状態だったとされています。これより短い黄変(16時間未満)では、青くささや苦みのもとになる前駆物質の変化が十分に進んでおらず、青臭さや苦味が残りやすいこと、逆に32時間まで長く黄変させると、望ましくない風味成分が増え、官能評価が低下する傾向にあったことも報告されています。
この研究の位置づけ
この研究は、特定の産地・条件で作られた娘娘茶を対象に、黄変時間という一つの工程条件に注目して成分変化を追跡したものです。茶の品質は品種や気候、その他の製茶工程など多くの要因の影響を受けるため、ここで示された16〜24時間という目安がすべての黄茶・条件にそのまま当てはまるとは限りません。あくまで一つの研究による知見であり、今後さらに検証が重ねられていく性質のものと捉えるのが妥当です。
まとめ
今回の研究では、黄茶づくりの要である黄変工程について、時間の経過とともに茶葉の中のアミノ酸・糖類・香り成分がどのように増減するかが、成分分析によって具体的に示されました。黄変16〜24時間前後が風味のバランスという点で優れていた一方、短すぎても長すぎても風味に影響が出ることが示唆されています。今後、こうした知見が茶の製造工程を見直す際の参考情報の一つになっていくことが期待されます。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Yanxia Wang, Xia Lv, Hao Guan, et al. Metabolomic profiling reveals the impact of yellowing duration on the flavor of Niangniang tea. エルダブリューティー(LWT) (2026). DOI: 10.1016/j.lwt.2026.119795. 原著ライセンス: cc-by-nc.