養殖業では魚の病気を防ぐために抗生物質が使われてきましたが、その使用は薬剤耐性菌(AMR)の発生につながる可能性があり、公衆衛生上の懸念とされています。この課題への対応策として近年注目されているのが、細菌に感染するウイルスの一種であるバクテリオファージを使った病気対策です。バクテリオファージは抗生物質の代替として、耐性菌を生み出しにくい形で魚の細菌性疾患を予防・治療できる可能性があるとされています。ただし、こうした方法で育てられた魚介類を消費者がどう受け止めるかについては、これまであまりわかっていませんでした。

この研究では、デンマークの消費者1918人とドイツの消費者1914人を対象に、離散選択実験という手法を用いて、バクテリオファージ処理されたニジマスに対する支払意思額(WTP)が調べられました。離散選択実験とは、価格や処理方法などの条件が異なる複数の選択肢を提示し、回答者にどれを選ぶかを答えてもらうことで、各要素にどれだけの価値を感じているかを推定する調査手法です。分析では、ワクチン処理された魚を基準として、バクテリオファージ処理や抗生物質処理された魚への支払意思額が比較されました。

研究でわかったこと

結果として、ワクチン処理された魚と比べて、バクテリオファージ処理されたニジマス250グラムの切り身に対して、デンマークの消費者は平均で3.03ユーロ、ドイツの消費者は平均で3.76ユーロ多く支払ってもよいと考えていることが示されました。一方、抗生物質処理された魚に対する支払意思額は、これらと比べて有意に低いという結果でした。

ただし、消費者全員が同じように感じているわけではなく、健康管理の方法に対する支払意思額には消費者間で大きなばらつきがあることも確認されました(推定された標準偏差が統計的に有意であったことから示されています)。それでも、バクテリオファージ処理された魚に対してプラスの支払意思額を示した回答者は、デンマークで少なくとも75.6%、ドイツで少なくとも64.2%にのぼったと報告されています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究は、デンマークとドイツという二つの国の消費者を対象にした調査に基づくものであり、示された支払意思額の数値や消費者の受け止め方が、他の国や地域、あるいは異なる魚種にもそのまま当てはまるとは限りません。また、離散選択実験は仮想的な選択場面での回答をもとにしており、実際の購買行動と完全に一致するとは限らない点にも留意が必要です。バクテリオファージによる病気対策そのものの効果や安全性を検証した研究ではなく、あくまで消費者の意識・受容性を調べた研究であることも押さえておきたいポイントです。

まとめ

この研究では、抗生物質に代わる養殖魚の病気対策としてバクテリオファージを用いる方法について、デンマークとドイツの消費者が前向きな支払意思を示す傾向にあることが報告されました。研究チームは、これらの結果が、政策立案者や養殖業界がより持続可能で健康に配慮した抗生物質代替策へ移行していくうえでの参考情報になりうるとしています。一つの研究であり、消費者受容の実態や結論が確定したわけではない点には留意が必要です。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Miho Maezono, Julia Bronnmann, Rasmus Nielsen, et al. Willingness-to-pay for bacteriophage-treated rainbow trout: A comparative study of Denmark and Germany. エコロジカル・エコノミクス (2026). DOI: 10.1016/j.ecolecon.2026.109191. 原著ライセンス: cc-by.