著者の所属・活動拠点の国は、フィリピンです。
掲載誌:International Journal of Research on Multidisciplinary Studies
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
中国発の屋台料理「マーラータン」は、辛味のあるスープに好きな具材を選んで組み合わせられる仕組みが特徴で、近年フィリピンでも人気が広がっています。手頃な価格や利便性に加え、自分好みに具材を選べる「健康志向の食事」としても注目される一方、こうした食の受け入れられ方を発展途上国の文脈で調べた研究はこれまで限られていました。今回、フィリピンのナショナル大学ダスマリニャス校の研究者らが、学生を対象とした聞き取り調査により、マーラータンが消費者にどう受け止められているかを詳しく調べました。
どのように調べたのか
研究チームは、マーラータンを食べた経験のあるナショナル大学ダスマリニャス校の学生10人を対象に、詳細な個別インタビューを実施しました。対象者は「関連する知識や経験を持つ人」を意図的に選ぶ手法(purposive sampling)で選定されています。インタビューは、行動の意図を説明する心理学の枠組みである「計画的行動理論(Theory of Planned Behavior、TPB)」に基づいて設計された6つの質問項目に沿って行われ、態度・動機・知覚された価値、周囲からの社会的圧力(主観的規範)、行動のしやすさの認識(知覚行動制御)、そして味・健康効果・価格・文化的な親しみやすさについての受け止め方を尋ねました。得られた回答は、繰り返し現れるパターンを抽出する「テーマ分析」という手法で整理されています。また、マーラータンのカスタマイズ性が、国連の持続可能な開発目標(SDGs)のうち目標12「つくる責任 つかう責任」にどうつながるかという観点からも分析されました。
調べてわかったこと
まず、マーラータンを最初に試すきっかけについては、10人中7人が「新しい体験への好奇心」を挙げた一方、3人は見慣れない具材や辛いスープに対して軽い抵抗感(食物新奇性恐怖と呼ばれる、未知の食べ物への警戒心)を示していました。ただし、完全に拒否した人はいなかったといいます。実際に試す決め手となったのは、9人が挙げた「自分好みに具材を選べる目新しさ」で、次いで8人が「多様な味付けや、非日常的な食体験としての楽しさ」を、7人が「利便性」を理由に挙げました。健康面への配慮を動機とした人は5人で、相対的に優先順位は低めでした。
味そのものについては、6人がフィリピンの伝統的な火鍋料理と同等かそれ以上と評価する一方、7人は依然として「外国の料理」という認識を持っていました。購入を続けるかどうかを左右する要素としては、7人が健康効果よりも味や香りといった感覚的な満足感を優先すると答えており、8人が「学生の財布にも優しい価格」と感じている一方で、6人は値上げがあれば購入をためらうと回答しています。
周囲からの影響も無視できない要素でした。フードコートや配達サービスなど、気軽に利用できる環境があることで8人が購入意欲が高まったと答え、7人は友人や交流サイト(SNS)での口コミが購入の意思決定に影響したと述べています。清潔さや店の雰囲気、スタッフの対応への満足感を重視する回答も7人にのぼった一方、政府など公的機関による推奨の影響を挙げたのはわずか3人にとどまりました。
特に研究チームが強調しているのが、カスタマイズが持つ二つの役割です。9人が「具材を自分で選べること」を最大の利点として挙げ、これは食べ物選びに対する自分自身のコントロール感(知覚行動制御)を高める要素として位置づけられています。さらに8人が、自分の食べきれる分だけを選ぶことで食品廃棄の削減につながると考えていました。ただし、具材選びの決め手は9人が「純粋な好み」と答えており、環境負荷の低い植物由来の具材などを意識的に選んでいたのはわずか3人でした。それでも、廃棄削減や地産地消、環境に配慮した包装といった取り組みを前面に打ち出したマーケティングがあれば、8割の回答者が購入頻度を増やすと答えています。
一方で、研究では「態度と行動のずれ」も確認されました。8人が全体として好意的な印象を持ちながらも、7人はフィリピンの伝統料理を完全に置き換えることには抵抗を示し、6人は継続的な利用の決め手を「安定した味・品質・価格」だと答えています。つまり、持続可能性への理解はあっても、実際の購買行動を最終的に左右するのは、味の好みや価格という、より身近な要因だということが見えてきます。
この研究を読むうえでの注意
この調査は、フィリピンの一大学に通う学生10人への聞き取りに基づく質的研究であり、対象者数は限られています。著者らも、今後はより大規模で多様な集団を対象とした研究によって、今回の知見を検証する必要があると述べています。特定の食品が健康や環境に良いと断定するものではなく、あくまで消費者がどう受け止め、どう行動するかを探索的に捉えた一つの研究である点に留意が必要です。
まとめ
今回の調査は、マーラータンという海外発の屋台料理がフィリピンの消費者にどう受け入れられているかを、心理学的な枠組みを使って丁寧に描き出したものです。好奇心やカスタマイズの楽しさが最初のきっかけとなり、その後の継続利用を決めるのは味と価格、そして口コミという、多くの食品に共通する現実的な要因であることがうかがえます。持続可能性への意識は購買の後押しにはなり得るものの、それ単独で消費行動を変える力は限定的だという指摘は、食のサステナビリティを考えるうえで示唆に富む結果と言えそうです。
著者:Ace N. Bombaes(National University Dasmariñas National University Philippines School of Business, Management, and Accountancy, Dasmariñas City, Cavite, Philippines)、Jesielitlyn B. Gloria(National University Dasmariñas National University Philippines School of Business, Management, and Accountancy, Dasmariñas City, Cavite, Philippines)、Ana Celine G. Esquierdo(National University Dasmariñas National University Philippines School of Business, Management, and Accountancy, Dasmariñas City, Cavite, Philippines)、Jeferson C. Mojica(National University Dasmariñas National University Philippines School of Business, Management, and Accountancy, Dasmariñas City, Cavite, Philippines)、Jemima Noree S. David(National University Dasmariñas National University Philippines School of Business, Management, and Accountancy, Dasmariñas City, Cavite, Philippines)、Carl Ericson D. Arangusti(National University Dasmariñas National University Philippines School of Business, Management, and Accountancy, Dasmariñas City, Cavite, Philippines)、Laila D. Malabanan(National University Dasmariñas National University Philippines School of Business, Management, and Accountancy, Dasmariñas City, Cavite, Philippines)、Miguel Angelo Perez(National University Philippines School of Business, Management, and Accountancy, Sampaloc, Manila, Philippines)
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Ace N. Bombaes, Jesielitlyn B. Gloria, Ana Celine G. Esquierdo, et al. Consumer Acceptance and Sustainability of Malatang in the Philippines. インターナショナル・ジャーナル・オブ・リサーチ・オン・マルチディシプリナリー・スタディーズ (2026). DOI: 10.67903/ijroms0243.