著者の所属・活動拠点の国は、スウェーデン、オーストリアです。

掲載誌:Critical Care

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:回復が進まない理由を筋肉の中から探る

重い病気で集中治療室(ICU)に入院した人は、退院後も長く筋力低下や体力の衰えに悩まされることが少なくありません。ICUでの治療中は、炎症や寝たきりの状態が続き、筋肉が急速に失われることが知られています。一方で、退院後に筋肉がどのように回復していくのか、その仕組みはまだよく分かっていません。退院後のリハビリテーションの効果が限られているという報告もあり、重い病気が筋肉の性質を長く変えてしまうのではないかという見方もあります。

そこで研究チームは、ICUを退院した人の筋肉が、筋肉を育てる刺激にどの程度反応できるのかを調べました。刺激として用いたのは、強い筋力トレーニングとたんぱく質の摂取の組み合わせです。著者らは当初、ICU退院者では「同化抵抗性」、つまり筋肉を作る刺激に対して反応しにくい状態が残っており、それが回復を妨げているという仮説を立てていました。

どのように調べたか

研究はスウェーデンのカロリンスカ大学病院で行われました。ICUに72時間以上入院した後、退院から3〜6か月の時点にある元患者20人と、性別と年齢(前後5歳以内)をそろえた、重い病気を経験していない対照者20人が全ての手順を終えました。元患者の多くは昇圧薬の投与を受けるなど、入院中は重症でした。

参加者は一晩絶食した後、目印となる物質(安定同位体で標識したアミノ酸の一種、フェニルアラニン)を点滴で投与されました。この目印が筋肉のたんぱく質にどれだけ取り込まれるかを測ることで、筋肉が新しいたんぱく質を作る速さ(筋たんぱく質合成速度)を求めることができます。まず太ももの筋肉から少量の組織を採取し、その後、フライホイール式の装置を使って片脚で膝を伸ばす運動を、限界まで10回×4セット行いました。運動直後に24グラムのホエイ(乳清)たんぱく質を飲み、その150分後に運動した脚から再び筋肉を採取して、運動とたんぱく質摂取の前後で比べました。

あわせて、筋肉の厚さを超音波で、握力を測定器で測り、筋肉を作る方向に働く信号や、筋たんぱく質を分解する仕組み(細胞内の不要物を分解する「オートファジー」や、目印を付けたたんぱく質を分解する「ユビキチン・プロテアソーム系」)の活動も調べました。

主な結果:最終的に到達する合成速度は対照者と同程度

ICU退院者は対照者に比べて、太ももの筋肉が薄く(平均2.99センチ対3.49センチ)、握力も弱い(平均32.9キロ対39.4キロ)状態でした。自己評価による身体面・精神面の健康状態も低いと報告されています。

筋たんぱく質合成速度については、血液中の目印の濃度をもとに計算した場合、運動とたんぱく質摂取の前の時点で、ICU退院者のほうが対照者より高い値でした(1時間あたり0.041%対0.030%)。運動とたんぱく質摂取による上昇幅はICU退院者のほうが小さかったものの(0.031ポイント対0.040ポイント)、介入後の合成速度は両グループでほぼ同じでした(1時間あたり0.071%対0.070%)。つまり、上昇幅の差は、出発点がもともと高かったことを反映したものだと著者らは説明しています。なお、筋肉内の目印の濃度をもとにした別の計算方法では、傾向は同じ方向でしたが、グループ間の差は統計的に意味のある水準には達しませんでした。

筋肉を作る信号は、両グループとも運動とたんぱく質摂取によって同じ程度に強まりました。分解の仕組みについては、ICU退院者では介入前のオートファジー関連の活動が低い傾向が見られました。著者らは、これは筋たんぱく質の入れ替わりが激しいというよりも、合成と分解の収支がプラス寄りであることと矛盾しないと考察しています。

この研究が示すこと

研究チームは当初、ICU退院者では筋肉が刺激に反応しにくくなっていると予想していましたが、今回の結果は、強い運動とたんぱく質摂取という最大限に近い刺激に対しては、筋たんぱく質を作る能力が保たれていることを示しました。著者らは、これを重い病気の後のリハビリテーションで、運動と栄養を組み合わせて筋肉の回復を促す取り組みに、生物学的な根拠を与える結果だと位置づけています。

ただし、今回調べたのは1回の運動直後の短時間の反応であり、筋肉の分解速度そのものは測っていません。また著者らは、刺激がより弱い場合にICU退院者の反応が小さくなる可能性は否定できないとしています。こうした限界はあるものの、重い病気の後でも筋肉が刺激に応える力を失っていないという点は、回復の見通しについて前向きな手がかりを示すものといえます。

原著論文の著者・所属:Arabella Fischer-Hammerschmied(Division of Anaesthesia and Intensive Care, Department of Clinical Science, Intervention and Technology (CLINTEC), Karolinska Institutet, Stockholm, Sweden; Division of Cardiothoracic and Vascular Anaesthesia and Intensive Care Medicine, Department of Anaesthesia, Intensive Care and Pain Medicine, Medical University of Vienna, Vienna, Austria)、Nicolas Tardif(Division of Anaesthesia and Intensive Care, Department of Clinical Science, Intervention and Technology (CLINTEC), Karolinska Institutet, Stockholm, Sweden)、Mirko Mandić(Department of Clinical Physiology, Karolinska University Hospital, Stockholm, Sweden; Department of Laboratory Medicine, Division of Clinical Physiology, Karolinska Institutet, Stockholm, Sweden)、Thomas Gustafsson(Department of Clinical Physiology, Karolinska University Hospital, Stockholm, Sweden; Department of Laboratory Medicine, Division of Clinical Physiology, Karolinska Institutet, Stockholm, Sweden)、William Apro(Department of Physiology, Nutrition and Biomechanics, Swedish School of Sport and Health Sciences, GIH, Stockholm, Sweden)、Johan Helleberg(Department of Perioperative Medicine and Intensive Care (PMI), Karolinska University Hospital Huddinge, K32 Funktion PMI, Hälsovägen 13, Stockholm, 14186, Sweden; Division of Anaesthesia and Intensive Care, Department of Clinical Science, Intervention and Technology (CLINTEC), Karolinska Institutet, Stockholm, Sweden)、Mariam Amouzandeh(Department of Perioperative Medicine and Intensive Care (PMI), Karolinska University Hospital Huddinge, K32 Funktion PMI, Hälsovägen 13, Stockholm, 14186, Sweden; Division of Anaesthesia and Intensive Care, Department of Clinical Science, Intervention and Technology (CLINTEC), Karolinska Institutet, Stockholm, Sweden)、Jonathan Grip(Department of Perioperative Medicine and Intensive Care (PMI), Karolinska University Hospital Huddinge, K32 Funktion PMI, Hälsovägen 13, Stockholm, 14186, Sweden; Division of Anaesthesia and Intensive Care, Department of Clinical Science, Intervention and Technology (CLINTEC), Karolinska Institutet, Stockholm, Sweden)、Dag Seldén(Department of Perioperative Medicine and Intensive Care (PMI), Karolinska University Hospital Huddinge, K32 Funktion PMI, Hälsovägen 13, Stockholm, 14186, Sweden; Division of Anaesthesia and Intensive Care, Department of Clinical Science, Intervention and Technology (CLINTEC), Karolinska Institutet, Stockholm, Sweden)、Olav Rooyackers(Department of Perioperative Medicine and Intensive Care (PMI), Karolinska University Hospital Huddinge, K32 Funktion PMI, Hälsovägen 13, Stockholm, 14186, Sweden; Division of Anaesthesia and Intensive Care, Department of Clinical Science, Intervention and Technology (CLINTEC), Karolinska Institutet, Stockholm, Sweden)、Martin Sundström Rehal(Department of Perioperative Medicine and Intensive Care (PMI), Karolinska University Hospital Huddinge, K32 Funktion PMI, Hälsovägen 13, Stockholm, 14186, Sweden; Division of Anaesthesia and Intensive Care, Department of Clinical Science, Intervention and Technology (CLINTEC), Karolinska Institutet, Stockholm, Sweden)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Arabella Fischer-Hammerschmied, Nicolas Tardif, Mirko Mandić, et al. Preserved anabolic skeletal muscle capacity in response to exercise and protein intake after critical illness. Critical Care 2026-10-24. DOI: 10.1186/s13054-026-06418-7. 原著ライセンス:CC BY.