中国北方で親しまれている雑穀パンケーキは、生地を自然に発酵させてから焼くのが伝統的な作り方です。しかし自然発酵は発酵に関わる微生物の種類や量が安定せず、出来上がりの風味にばらつきが出やすいうえ、発酵に時間がかかり、衛生面のリスクも指摘されてきました。こうした課題に対し、発酵の進み方をコントロールできる発酵剤(スターター)を使う方法が注目されています。

今回紹介する研究では、雑穀パンケーキの生地を、何も発酵させない生地(無発酵)、昔ながらのやり方で自然に発酵させた生地(自然発酵)、そして「YL-7」という制御された共発酵システムを使って発酵させた生地の三種類で比較しています。共発酵とは、複数の微生物を組み合わせて計画的に発酵を進める方法を指します。

何をどう調べたのか

研究チームは、電子的に匂いを検知する装置(電子鼻)や味を数値化する装置(電子舌)、揮発性の香り成分を詳しく分離・検出できるガスクロマトグラフィー・イオン移動度分析(GC-IMS)という手法を使い、三種類のパンケーキの香りや味の違いを機器で測定しました。あわせて栄養成分の分析と、実際に人が食べて評価する官能評価も行い、機器のデータと人の感じ方の両方から違いを検証しています。

発酵剤を使うと何が変わったのか

分析の結果、YL-7による発酵では、バターのような香りを持つ「3-ヒドロキシ-2-ブタノン」という成分やエステル類が多く検出されたと報告されています。一方で、青臭さの原因となるアルデヒド類の量は少なくなっていたとされています。また、遊離アミノ酸の総量はYL-7発酵で減少していたことも示されています。これは発酵の過程でアミノ酸が別の香り成分などに変化していった可能性を示すものと考えられます。

官能評価においても、香り・味・総合的な好ましさのいずれの項目でも、YL-7発酵のパンケーキが三種類の中で最も高い評価を得たとされています。研究チームは、この共発酵システムによって発酵にかかる時間が短縮され、香りの複雑さや栄養成分の使われ方(利用効率)も向上したとまとめています。

この研究を読むうえで気をつけたいこと

この研究は、特定の共発酵システムを使った一つの実験結果であり、雑穀パンケーキの発酵方法として絶対的な結論が出たわけではありません。使用した原料や配合、発酵条件が異なれば結果も変わりうる点には留意が必要です。また、この記事で触れた香り成分や栄養面の変化は、あくまで研究報告に基づく傾向であり、健康への効果を保証するものではありません。

なお、著者らの所属機関を見ると、山東省の大学や食品企業に加えて、江蘇省の大学など中国国内の複数の研究・企業機関が名を連ねており、日本の研究機関や日本の食習慣への言及は要旨・所属情報の中には見当たりません。

まとめ

雑穀パンケーキの発酵という身近なテーマを通じて、発酵剤を使った制御発酵が、自然発酵に比べて香りや味の評価を高めうる可能性が示された研究といえます。今後、実際の製造現場でどこまで再現性を持って活用できるかは、さらなる検証が待たれるところです。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Xiaoyue Ma, Xijie Zhang, Yanhua Du, et al. Analysis of nutritional components and flavor compounds in naturally fermented, fermentation agent-fermented, and unfermented multi-grain pancakes. フード・ケミストリー:エックス (2026). DOI: 10.1016/j.fochx.2026.104206. 原著ライセンス: cc-by-nc-nd.