著者の所属・活動拠点の国は、ハンガリーです。
掲載誌:npj Science of Food
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
加工度の高い食品、いわゆる「超加工食品」は便利でおいしい一方、繊維や微量栄養素が少なく、心血管疾患や2型糖尿病、肥満といった生活習慣病との関連が指摘されています。こうした食品を見分ける手がかりとして、原材料の加工度合いを4段階に分ける「NOVA分類」や、栄養価をA〜Eで色分けする「ニュートリスコア」などのラベル表示が各国で使われていますが、消費者がこれらの情報をどう受け止め、実際の食行動にどう結びつけているのかはまだよくわかっていません。ハンガリー農業生命科学大学(MATE)の研究グループは、こうした表示情報が消費者の好みや「食べたい」という気持ちにどう影響するのかを、拡張バーチャリティ(AV)と呼ばれる技術を使った官能評価の中で検証しました。
ゆで・揚げ・マッシュのジャガイモ3種で比較
実験にはMATEの学生ら50人(男性15人、女性35人)が参加しました。用いられた試料はいずれもジャガイモ由来の3品で、塩5gを加えたゆでジャガイモ(1kgの原料に対して)、ハンガリーで市販されている冷凍フライドポテト(Farm Frites社製、エアフライヤーで200度・15分調理)、そして牛乳250mL・バター30g・クエン酸1g・塩5gを加えて作り一晩冷蔵したマッシュポテトです。研究チームはこれらに実験用のラベルとして、ゆでジャガイモにNOVA2・ニュートリスコアB、フライドポテトにNOVA4・ニュートリスコアD、マッシュポテトにNOVA3・ニュートリスコアCを割り当てました。著者らは、ゆでジャガイモ自体はほぼ未加工の食品だが、塩を加えたことで「加工」の情報条件に位置づけたと説明しており、これらのラベル付けは標準化された公式のNOVA分類そのものではなく、あくまで実験用の加工度情報として扱うべきだと注意を促しています。
参加者はMeta Quest 3SというVRヘッドセットを装着し、Unityで開発された仮想の「ダイニングキッチン」環境の中で、実物の3種のジャガイモ料理を評価しました。現実の食品を仮想空間に取り込んで評価するこの手法はAV(拡張バーチャリティ)と呼ばれ、AR(拡張現実)とは逆に、実物を主に仮想の環境に組み込む点が特徴です。参加者はまず好みの評価と健康度のランキングを行い、続いてNOVA表示のみ、ニュートリスコア表示のみ、両方を組み合わせた表示という3つの情報条件のもとで、それぞれの試料への「食べたい度合い(willingness to consume, WTC)」を回答しました。
好みは3品で差がなかったが、健康イメージとWTCには一貫した順位
結果、3種の試料に対する好み評価そのものには統計的な差は見られませんでした(分散分析でF=1.263、P=0.287)。数値としてはマッシュポテトが最も高い評価(最小二乗平均6.58)で、次いでゆでジャガイモ(6.10)、フライドポテト(5.94)の順でしたが、いずれも有意差とは言えないレベルでした。
一方で、「どれが健康的だと感じるか」というランキングでは、はっきりとした違いが出ました。フリードマン検定の結果、ゆでジャガイモが最も健康的と評価され、次いでマッシュポテト、最も低く評価されたのがフライドポテトで、この順位はすべての組み合わせで統計的に有意でした(ゆでジャガイモ対フライドポテトP<0.0001など)。さらに「食べたい度合い(WTC)」についても、NOVA・ニュートリスコア・両方併記のいずれの情報条件下でも、ゆでジャガイモが最も高く(最小二乗平均6.88〜6.94)、フライドポテトが最も低く(5.54〜5.98)、マッシュポテトが中間(6.20〜6.40)という同じ順位が一貫して見られました。ただし、情報の見せ方(NOVAのみ・ニュートリスコアのみ・両方)と食品の種類との間の交互作用は統計的に有意ではなく(P=0.646)、どの表示形式を見せても、この順位そのものは大きくは変わらなかったとされています。
興味深いのは、好み評価と健康イメージのランキングとの間に、統計的に意味のある相関が見られなかった点です(すべてP>0.05)。つまり「おいしそう・好き」という感覚と「健康的だと感じる」という判断は、この実験ではおおむね独立した別の軸として働いていたことになります。主成分分析でも、好みや食べたい度合いのばらつきは、情報の提示形式よりも「どの料理か(ゆで・揚げ・マッシュ)」という食品の種類によって強く説明される構造が確認されました。
この研究の位置づけと限界
研究チームは、AV環境そのものの使い勝手についても参加者にアンケートを取っています。9点満点の評価で、AV体験全体の総合評価は平均7.88、AV技術の質は7.66、仮想空間内で実物を見られたことへの評価は7.42と、いずれも高めの評価でした。一方で「没入感」の評価は6.78とやや低めで、参加者からは画像がぼやける、ラベルの文字が小さくて読みにくい、コントローラー操作が難しい、ヘッドセット装着による頭痛や重さといった不快感の報告もあったといいます。著者らはこれを踏まえ、視覚的な見やすさや操作性、装着の快適さ、説明文の分かりやすさ(より平易な英語表記など)に改善の余地があるとしています。
また著者ら自身が述べている限界として、今回のNOVA表示は塩やクエン酸、冷蔵保存といった調理上の工程をもとに実験的に割り当てたものであり、独立に検証された公式のNOVA分類そのものではない点が挙げられています。今後の研究では、より幅広い食品を対象に、公式に検証されたNOVA分類や、加工度と栄養価の情報が一致する場合・矛盾する場合を組み合わせて検証することが必要だとしています。この研究はハンガリーで行われた50人規模の一施設での実験であり、対象もジャガイモ由来の3品目に限られるため、他の食品や文化圏でも同じ傾向が見られるかどうかは、この一つの研究だけでは結論づけられません。
まとめ
この研究では、VR技術を使った官能評価という新しい手法のもとで、NOVA分類やニュートリスコアといったラベル情報を見せても、参加者が抱く「好き嫌い」や「食べたい度合い」の食品ごとの順位そのものは大きくは変わらなかったと報告されています。むしろ、ゆでる・揚げる・マッシュにするといった調理法や食品の種類そのものが、健康イメージや食べたい気持ちを左右する強い要因として働いていたことが示唆されました。同時に、AV技術を使った官能評価という手法自体は、参加者からおおむね好意的に受け止められ、今後の食品研究や消費者教育のツールとして活用できる可能性があるとされています。
原著論文の著者・所属:Chengfang Tao(Department of Postharvest Science, Trade, Supply Chain and Sensory Science, Institute of Food Science and Technology, Hungarian University of Agriculture and Life Sciences, Budapest, Hungary)、Aznor Qistina Mastura Azri(Department of Postharvest Science, Trade, Supply Chain and Sensory Science, Institute of Food Science and Technology, Hungarian University of Agriculture and Life Sciences, Budapest, Hungary)、Abdul Hannan Zulkarnain(Department of Postharvest Science, Trade, Supply Chain and Sensory Science, Institute of Food Science and Technology, Hungarian University of Agriculture and Life Sciences, Budapest, Hungary)、Balázs Boncsarovszki(Department of Postharvest Science, Trade, Supply Chain and Sensory Science, Institute of Food Science and Technology, Hungarian University of Agriculture and Life Sciences, Budapest, Hungary)、Attila Gere(Department of Postharvest Science, Trade, Supply Chain and Sensory Science, Institute of Food Science and Technology, Hungarian University of Agriculture and Life Sciences, Budapest, Hungary)
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Chengfang Tao, Aznor Qistina Mastura Azri, Abdul Hannan Zulkarnain, et al. Informed questioning on NOVA and Nutri-Score interpretation in augmented virtuality sensory evaluation. エヌピージェイ・サイエンス・オブ・フード (2026). DOI: 10.1038/s41538-026-01122-w. 原著ライセンス: cc-by.