SNSで健康的なレシピの投稿を見かけたとき、思わずクリックしたり、実際に作ってみたり、友人にシェアしたりしたくなる投稿と、スルーされてしまう投稿の違いは何でしょうか。米ミシシッピ州立大学のRachel Adair氏、Andrew B. Cole氏、Holli H. Seitz氏による研究チームは、こうした健康レシピ投稿へのエンゲージメント(反応行動)を予測する要因を、「イノベーション普及理論」という枠組みを使って検討しました。
イノベーション普及理論とは、新しい考え方や習慣が人々の間にどのように広まっていくかを説明する理論で、栄養教育や公衆衛生分野のメッセージ作りにも応用されています。この理論では、あるものが新しく取り入れられるかどうかは、受け手がそれをどう「知覚」するかに左右されるとされ、代表的な要素として「相対的優位性(今までのやり方より優れていると感じるか)」「適合性(自分の生活スタイルに合っているか)」「複雑性(試すのが難しく感じるか)」「試行可能性(気軽に試せると感じるか)」などが挙げられます。
どのように調べたのか
研究チームは、参加者にオンライン調査の中で、健康的なレシピを紹介するSNS投稿を1つ見てもらう形式の調査を実施しました。投稿はあらかじめ用意された複数の候補の中からランダムに選ばれるかたちで提示されています。参加者は投稿を見た後、その投稿のリンクをクリックしたいと思うか、実際にレシピを作ってみたいと思うか、投稿を人にシェアしたいと思うか、という3つの「行動意図」を回答しました。あわせて、そのレシピについて先述した4つの理論的要素(相対的優位性・適合性・複雑性・試行可能性)をどの程度感じたかも評価してもらっています。得られたデータは、それぞれの調査ごとに重回帰分析(OLS回帰)という統計手法を用いて、理論的要素と行動意図との関係が調べられました。
わかったこと
複数の調査を通じて一貫して示されたのは、レシピの「相対的優位性」と「適合性」への評価が高いほど、クリック・調理・シェアのいずれの意図についても有意な予測因子になっていたという点です。つまり、そのレシピが今までの食事より優れていると感じられたり、自分の生活に合っていると感じられたりするほど、参加者は行動を起こしたい気持ちを強めていたと報告されています。一方で、「複雑性」や「試行可能性」については、行動意図との間に有意な関連がほとんど見られなかったとされています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
この研究は、SNS上のレシピ投稿という特定の形式・特定の調査参加者を対象にオンライン調査で行われたものであり、実際の食習慣の変化やレシピの継続的な実践までを追跡したものではありません。また、扱われた投稿やレシピの種類にも一定の幅があったと考えられ、あらゆる健康メッセージに同じ結果が当てはまるとは限りません。著者らは、今回の知見が栄養関連キャンペーンにおけるメッセージ作成やメッセージのテスト戦略に活用できる可能性を示しつつ、相対的優位性や適合性が高いと受け止められる栄養介入は、対象となる人々により受け入れられやすいと考えられると述べています。一つの研究であり、これだけで結論が確定したわけではない点には留意が必要です。
まとめ
健康的なレシピをSNSで発信する際、味や見た目の工夫だけでなく、「今までより良さそうだ」「自分の暮らしに合いそうだ」と感じてもらえるかどうかが、クリックや実践、シェアといった反応につながる可能性がこの研究では示唆されています。一方で、作り方の難しさや手軽に試せるかどうかは、今回の調査では反応行動との関連が乏しいとされました。今後の栄養コミュニケーションの設計を考えるうえで、参考になる視点の一つと言えそうです。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Rachel Adair, Andrew B. Cole, Holli H. Seitz. Using Diffusion of Innovations Theory to Predict Engagement with Healthy Recipe Posts in Social Media. ジャーナル・オブ・ヘルス・コミュニケーション (2026). DOI: 10.1080/10810730.2026.2722678.