健康診断で複数の生活習慣病を同時に指摘される人は少なくありません。高血圧に加えて糖尿病や脂質異常症も抱える、といったケースです。こうした「複数の慢性疾患を同時に持つ状態」は「多疾患併存(マルチモビディティ)」と呼ばれ、高齢化が進む社会では公衆衛生上の重要な課題とされています。どの病気とどの病気が組み合わさりやすいのか、そしてどのような人がそのパターンに当てはまりやすいのかを理解することは、予防や医療計画を考えるうえで役立つと考えられています。今回紹介する研究は、タイの全国健康調査データを用いて、この多疾患併存のパターンを統計的な手法で分類し、年齢・性別・体格(BMI)・喫煙・食習慣・都市部/農村部の居住地といった要因との関連を調べたものです。
研究でわかったこと
この研究では、タイの全国健康調査(National Health Survey)に参加した142,753人分のデータが分析されました。研究チームは、高血圧や糖尿病などを含む9種類の非感染性疾患(生活習慣病)の有無について、「潜在クラス分析」という統計手法を用いて、似た疾患パターンを持つ人々をグループ(クラス)に分類しました。さらに、「多項ロジスティック回帰分析」という手法を使い、どのような特徴を持つ人がどのクラスに属しやすいかも調べられています。
その結果、4つの異なるクラスが識別されました。具体的には、疾患を抱えるリスクが低い「低負担」クラス、高血圧と代謝関連の問題(糖尿病や脂質異常症など)を併せ持つ傾向がある「高血圧代謝型」クラス、高血圧が目立つ「高血圧優位型」クラス、そして複数の疾患を広く抱える「多疾患高負担型」クラスです。
年齢が上がるほど、低負担クラス以外のいずれの多疾患併存クラスに属する確率も高くなることが示されました。また、女性は男性と比べて「高血圧代謝型」および「高血圧優位型」クラスに属する傾向が高いことが報告されています。都市部に住んでいることは、「高血圧代謝型」および「多疾患高負担型」クラスに属する確率の高さと関連していました。
体格(BMI)についても、クラスごとに顕著な違いが見られました。過体重や肥満は「高血圧代謝型」および「高血圧優位型」クラスとの関連が示され、肥満はさらに「多疾患高負担型」クラスとも関連していました。一方、痩せ型(低体重)の人は「高血圧代謝型」クラスに属する可能性が低い一方で、「高血圧優位型」クラスに属する可能性は高いという、対照的な結果が示されています。
喫煙については、喫煙者であること全般が各クラスへの所属確率の高さと関連しており、特に現在喫煙している人でその傾向が顕著だったとされています。食習慣に関しても、クラスごとに異なる関連が見られました。高脂肪食品やインスタント食品を頻繁に摂取することは「高血圧代謝型」クラスと関連し、インスタント食品の摂取は「高血圧優位型」クラスとも関連していました。果物の摂取は「高血圧代謝型」クラスへの所属確率の高さと関連する一方、野菜の摂取は「高血圧優位型」クラスへの所属確率の低さと関連していたと報告されています。また、非アルコール性の甘味飲料を適度に摂取することは、「高血圧代謝型」クラスへの所属確率の低さと関連していたとされています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、タイという特定の国の全国調査データに基づく分析であり、得られたパターンや関連がそのまま他の国や地域の集団に当てはまるとは限りません。また、潜在クラス分析や多項ロジスティック回帰分析は、あくまで統計的な「関連」を示すものであり、食習慣や喫煙、居住地といった要因が特定の疾患パターンを「引き起こす」という因果関係を直接証明するものではない点にも注意が必要です。この記事で紹介した内容は一つの研究の結果であり、結論が確定したわけではありません。
まとめ
今回の研究では、タイの大規模な健康調査データをもとに、非感染性疾患の組み合わせ方によって人々が4つのクラスに分類できることが示されました。そして、年齢、性別、BMI、喫煙、食習慣、都市部か農村部かといった要因が、それぞれのクラスへの所属しやすさと関連していることが報告されています。多疾患併存は一様ではなく、人によって異なるパターンを取りうるという視点は、今後の予防や健康づくりを考えるうえでの一つの手がかりになりそうです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:タイ人集団における多疾患併存パターンとその人口統計学的特性、行動要因、都市・農村居住との関連:潜在クラス分析(プロスワン・2026年07月)