この研究は、インドネシアの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Agricultural Power Journal

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

インドネシアは世界有数のコーヒー生産国として知られ、ガヨ、マンデリン、トラジャ、ジャワ、キンタマーニ、フローレス、バジャワなど各地の産地が、それぞれ独特の風味で国際的な評価を得てきました。一方で、ブラジル、ベトナム、コロンビア、エチオピア、ホンジュラスといった主要輸出国との競争は激しく、世界需要の変動や貿易構造の変化もあって、輸出の競争力を保ち続けることは簡単ではありません。

この論文の著者らは、インドネシアのスペシャルティコーヒー(品質や産地の個性を重視した高付加価値のコーヒー)の国際貿易の動きと比較優位について、これまでに発表された研究の知見を整理し、まとめて示すことを目的としています。著者らによれば、輸出競争力や比較優位、国際市場の動きはこれまで別々に扱われることが多く、二つの分析枠組みを組み合わせて総合的に評価した研究は限られていた、という問題意識が出発点になっています。

何を、どのように調べたか

著者らは新たに貿易統計を集計するのではなく、系統的文献レビューという方法をとりました。これは、あらかじめ決めた条件に従って過去の研究論文を探し出し、選び、その内容を突き合わせて共通の傾向を読み取る手法です。ScopusやWeb of Scienceなどの国際的な学術データベースと、インドネシア国内の学術誌を対象に検索を行い、2015年から2026年に公表された査読付き論文のうち条件を満たした25本を選んで分析しました。対象にはインドネシアだけでなく、ブラジル、ベトナム、コロンビア、エチオピア、ホンジュラス、ペルーといった輸出国を扱った研究や、EU、アメリカ、日本、韓国、アジアの新興市場といった輸入側に関する研究も含まれています。

分析の軸となったのが、二つの枠組みです。一つは「顕示比較優位(RCA)」で、ある国の輸出全体に占めるコーヒーの割合を、世界全体の輸出に占める割合と比べる指標です。値が1を超えていれば、その国は世界平均より強くその品目に特化していると読み取れます。もう一つは「一定市場占有率(CMS)」で、輸出の伸びを、世界需要そのものの拡大、商品構成、輸出先の分布、そして競争力といった要素に分解して考える枠組みです。RCAが「今どれだけ特化しているか」を測るのに対し、CMSは「輸出の伸びが市場の追い風によるものか、それとも自国の競争力向上によるものか」を区別できる、と著者らは説明しています。

報告された主な結果

著者らによれば、レビューした研究の多くがインドネシアのコーヒーについてRCAの値が1を超えると報告しており、国際競争が強まるなかでも世界平均を上回る輸出特化を保っていると整理されています。その強みの源泉は生産量の多さよりも、産地ごとの個性や地理的表示、スペシャルティ市場での位置づけといった差別化にあると、レビューされた文献では結びつけられています。

ただし著者らは、比較優位があることが輸出の持続的な成長を保証するわけではない、とも述べています。取り上げられた研究では、小規模農家の生産性が競合国に比べて低いこと、収穫や収穫後の加工、品質管理にばらつきがあって製品の均質性が保ちにくいこと、認証の取得範囲が限られていることなどが、プレミアム市場の要求に応え切れない要因として繰り返し指摘されています。

CMSの枠組みからは、スペシャルティコーヒーへの世界的な需要の高まりがインドネシアの輸出の伸びを後押ししてきた一方で、競争力の効果は輸出先によってかなり異なると報告されています。品質や産地の由来が重視される市場では比較的強い競争力を示すのに対し、価格競争が中心の市場ではそうではない、という整理です。また、輸出先が一部の国に集中していると、景気変動や貿易政策の変更、消費者の好みの変化に対して弱くなるため、新興市場への多角化が輸出の安定につながるとする研究や、生豆のまま輸出するのではなく焙煎やブレンドなど国内での加工を増やすことで、バリューチェーンのなかでより多くの価値を得られるとする研究も紹介されています。

著者らは自ら限界も挙げています。この研究は既存の文献のみに基づいており、一次的な輸出統計や企業単位のデータを扱っていないこと、レビュー対象の研究間で方法が異なるため結果の比較可能性に影響しうること、そして個々の競争力要因の寄与を統計的に測ってはいないことです。

この研究が伝えていること

この論文が示しているのは、輸出の強さを一つの指標だけで語ることの難しさです。RCAは「今どこに特化しているか」を映す鏡ですが、それは将来の競争力そのものではありません。CMSと組み合わせることで、追い風で伸びたのか、自らの力で伸びたのかを切り分けて考えられるようになります。

著者らの整理によれば、インドネシアのスペシャルティコーヒーは豊かな産地の多様性という有利な条件を持ちながら、その優位を持続させられるかどうかは、生産性や品質の安定、認証、加工、物流、市場の多角化といった要素をどう積み上げていくかにかかっています。競争力とは固定された資産ではなく、国内の生産の力と変わり続ける国際市場の条件の双方に左右される動的な過程である——それが、25本の研究を読み通した先に浮かび上がる見方です。

著者:Muhammad Rizal Taufikurahman(Universitas Trilogi)、Sari Novida(Universitas Islam Al-Azhar)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Muhammad Rizal Taufikurahman, Sari Novida. International Trade Dynamics and Comparative Advantage of Indonesian Specialty Coffee Using Revealed Comparative Advantage and Constant Market Share Frameworks. Agricultural Power Journal 2026-08-26. DOI: 10.70076/apj.v3i3.205. 原著ライセンス:CC BY.