インドネシアを代表するコーヒーの産地のひとつに、スマトラ島アチェ州の高原地帯「ガヨ」がある。ここで栽培されるアラビカ種のスペシャルティコーヒーは、独特の香りや酸味、余韻の複雑さで知られ、国内外で評価が高まっている。こうした人気の高まりを受けて、コーヒー豆の焙煎から提供まで自前で行う「コーヒーショップ・ロースタリー」という業態が各地で増えているが、来店客がコーヒーのどの特徴を重視し、実際にどれだけ満足しているのかを詳しく調べた研究は限られていた。今回紹介する研究は、インドネシア・メダン市のコーヒーショップ・ロースタリーを対象に、この点を検証したものだ。

研究チームは、ガヨ・アラビカ・スペシャルティコーヒーを主力商品として提供し、手動抽出(マニュアルブリュー)の器具と焙煎機を備え、開業から2年以上営業実績のあるメダン市内の店舗3カ所を選定した。2026年3月から4月にかけて、実際に来店してこのコーヒーを飲んだ消費者120人を対象に、1〜5段階のリッカート尺度を用いたアンケート調査を実施している。分析対象とした特徴は、香り(アロマ)、価格、酸味、苦味、後味(アフターテイスト)、そして風味(フレーバー)の6項目で、これらについて「フィッシュベイン多属性態度モデル」「顧客満足度指数(CSI)」「重要度・満足度分析(IPA)」という3つの手法を組み合わせて評価した。回答者の内訳を見ると、30歳超の年齢層が全体の半数(50.83%)を占め、性別では男性が69.17%、職業では民間企業勤務者が39.17%で最も多かった。抽出方法としては、ペーパードリップで淹れる「V60」が60.00%と最も好まれていた。

好まれる特徴として「後味」が最上位に

フィッシュベインモデルによる分析では、6つの特徴すべてが消費者の評価においてプラスの態度スコアを示した中で、「後味(アフターテイスト)」が18.40点で最も高く、消費者の好みを形づくるうえで最も重視される特徴だという結果になった。次いで風味(フレーバー、18.23点)、酸味(17.68点)、香り(17.30点)、苦味(16.89点)と続き、価格は14.59点で最下位だった。研究チームは、価格が最も重視されない特徴だったことについて、消費者が品質を優先し、良い品質であれば相応の対価を払う傾向がある「価値志向型」の消費行動を示していると説明している。また苦味の評価が低めだった点については、アラビカ種はカフェイン含有量が比較的少なく苦味が控えめであることが、飲みやすさにつながっている可能性があるとされた。

満足度を数値化する顧客満足度指数(CSI)の算出では、重要度評価(MIS)と実際の満足度評価(MPS)を組み合わせた加重計算の結果、CSI値は82.48%となり、あらかじめ設定された5段階の評価区分(81〜100%を「非常に満足」とする区分)の中で最上位の「非常に満足」に該当した。特に後味・風味・酸味は、重要度・満足度の両方の評価で高い値を得ており、店舗側がこれらの特徴の品質を安定して提供できていることがうかがえるとされている。

「香り」は今後の改善優先度が高いと分析

一方、重要度と満足度を軸にした四象限マトリクスで整理する重要度・満足度分析(IPA)では、香り(アロマ)が「優先的に改善すべき」象限に位置づけられた。全体の満足度は高水準だったものの、香りについては重要度に見合うだけの満足度がまだ十分に得られていないことを示す結果だ。これを踏まえて研究チームは、コーヒー豆の品質管理、焙煎工程の一貫性、抽出技術の標準化を通じて香りの質を高めることが今後の課題であり、同時に風味・後味・酸味といった評価の高い特徴の品質は維持していく必要があると論じている。

この研究の位置づけと読むうえでの注意

この研究は、メダン市内の3店舗・消費者120人という特定の対象・地域を対象にした調査であり、得られた結果がすべてのコーヒーショップや他都市の消費者にそのまま当てはまるとは限らない点に留意したい。実際、著者は本文中で、今回の回答者属性(30歳超の年齢層や男性の多さ、民間企業勤務者の多さなど)が、同種の先行研究とは異なる傾向を示したことに触れ、コーヒーの好みや消費行動は地域の消費文化や店舗の立地といった条件によって左右される「文脈依存的」なものであり、画一的な戦略化はできないと述べている。今回の結果は、あくまでメダン市の特定店舗を利用した消費者を対象とした一つの調査結果であり、結論が広く確定したものではない点を踏まえて読む必要がある。

まとめ

この研究では、メダン市のコーヒーショップ・ロースタリーを利用する消費者120人を対象にした調査から、ガヨ・アラビカ・スペシャルティコーヒーの好みを形づくる特徴として「後味」が最も重視されており、全体的な満足度は「非常に満足」の水準にあると報告された。その一方で、香りについては重要度に見合う満足度がまだ発展途上にあり、豆の品質管理や焙煎、抽出技術の面で改善余地があると位置づけられている。今後、他の地域や店舗を対象にした調査が積み重なることで、スペシャルティコーヒーに対する消費者の好みの理解がさらに深まることが期待される。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Sylvia Gara Dhita. Evaluasi Preferensi Konsumen Kopi Arabika Gayo Specialty pada Coffee Shop and Roastery di Kota Medan. アグロコンプレックス学生学術誌 (2026). DOI: 10.29303/5q5qkk03. 原著ライセンス: cc-by.