むし歯や歯周炎は世界で35億人以上が抱えているとされ、その治療にかかる費用は年間4420億米ドルを超えるといわれています。フッ素塗布やシーラント(歯の溝を樹脂で埋める処置)といった専門的な予防法は効果が知られている一方、実際に受けている子どもの割合は必ずしも高くなく、誰でも手軽に取り入れられる予防策の必要性が指摘されてきました。そこで注目されてきたのが、毎日の食卓に並ぶ牛乳やヨーグルト、チーズといった乳製品です。中国・遵義医科大学口腔医学院のグループが、乳製品と口の健康に関するこれまでの研究を幅広く集めて整理した論文を、フロンティアーズ・イン・パブリックヘルス誌に発表しました。

どのように調べたのか

研究チームは、PubMed、Cochrane Library、中国の学術データベースCNKIを対象に、データベース開設時から2026年4月15日までに発表された論文を検索しました。最終的に1547件の候補から重複や関連性の低いものを除き、79件の研究(無作為化比較試験52件、口腔内で直接材料を試す試験や臨床介入研究12件、コホート研究・横断研究10件、症例対照研究など5件)を分析対象としました。対象者の57%は18歳未満の子ども・青少年で、43%が18〜65歳の成人。研究の実施国は中国、タイ、インド、オーストラリア、アメリカ、イタリアなどでした。研究の数値が多岐にわたり測定方法もばらばらだったため、数値を統合するメタ解析ではなく、テーマ別に整理して読み解く手法(ナラティブ・シンセシス)がとられています。

乳製品にはどんな成分があり、何をしているのか

論文では乳製品を、液体の牛乳(普通牛乳、低脂肪乳、フッ素添加牛乳など)、ヨーグルトなどの発酵乳製品、チーズ、その他(粉ミルク、乳清たんぱく質、乳由来成分を使った口腔ケア製品)の4つに分類し、それぞれの成分の違いに応じた役割を整理しています。たとえばチーズは硬いチーズ100gあたり約25gのたんぱく質と700mg以上のカルシウムを含み、噛むこと自体が唾液の分泌を促すとされます。発酵乳製品には1g中に100万個(10の6乗個)以上の生きた乳酸菌などが含まれ、口の中の細菌バランスに働きかけるとされています。なお、植物性の「ミルク代替品」は、牛乳に比べて口腔に対する保護作用が弱いと報告されています。

成分面では、カゼインというたんぱく質から作られる「カゼインホスホペプチド(CPP)」がカルシウムイオンと結びついて複合体を作り、歯の再石灰化(溶け始めた歯の表面を修復する働き)を促すとされます。また、鉄分を奪う性質を持つ「ラクトフェリン」は細菌の膜を壊す作用や炎症を抑える働きが報告されており、ラクダの乳由来のラクトフェリンはむし歯菌(ミュータンス菌)やカンジダ菌への抑制力が特に強いとする研究も紹介されています。乳酸菌の仲間(ラクトバチルス属やビフィズス菌属など)は、それ自体が善玉菌として働くほか、代謝物がむし歯菌の膜を壊したり、バイオフィルム(歯垢)を崩したりする働きも報告されています。

実際に報告されている効果の中身

論文がまとめた79件の研究データによると、プロバイオティクス入りの乳製品を長期間とった臨床試験では、唾液中のミュータンス菌数が30%以上減少したという報告があり、32件のランダム化比較試験を通じてみると減少幅は18〜78%(中央値42%)とばらつきがあったとされています。子どもを対象とした試験では、乳酸菌の摂取をやめた後も2〜4週間ほど抗う蝕効果が続いたとの報告もあります。むし歯の新規発生(DMFT/dmft指数)を6カ月以上追跡した8件の長期試験では、12〜52%(中央値28%)の減少が見られたものの、効果の持続には摂取の継続が必要だったとされています。

歯周組織への影響については、プロバイオティクス入りヨーグルトを42日間継続して摂取した試験で、歯肉出血指数が32%、歯肉炎指数が40%低下し、炎症に関わる酵素(MMP-8)の濃度も41.7%下がったと報告されています。また、乳製品を多く摂る食習慣は歯周炎のリスクを24%下げるとの関連(オッズ比0.76)を示したメタ解析も紹介されています。カンジダ菌による口腔カンジダ症については、ラクトフェリンを含むうがい薬がHIV患者の慢性口腔カンジダ症で80%の症状改善率を示した試験が挙げられています。ブルガリアで行われた地域プログラムでは、フッ素添加牛乳(1日200mL)を摂取した3〜10歳の子どもでむし歯の発生率が40%下がったとする報告もありました。高齢者では、チーズを週5回以上食べる人は根面う蝕(歯の根元のむし歯)のリスクが50%低いという関連も紹介されています。応用としては、こうした知見をもとに、日常の食事としての摂取、CPP-ACP入り歯磨き粉やラクトフェリン配合うがい薬などの口腔ケア製品の開発、歯周治療後の補助療法としての活用という3段階の応用モデルが見えてきているとまとめられています。

読むうえで気をつけたいこと

この論文はあくまで既存研究を集めて整理したレビューであり、著者ら自身がいくつかの限界を挙げています。まず、分析対象とした52件の無作為化比較試験のうち、バイアスのリスクが低いと判定されたのは23%にとどまり、23%は高リスクと判定されました。プロバイオティクスの菌株や摂取量、CPP-ACPの投与量(0.19mgから56.4mgまで)にはかなりのばらつきがあり、約43%の研究は細菌数のような代用指標のみを報告し、実際のむし歯発生といった臨床的な結果を報告していたのは22%にとどまるとされています。追跡期間も70%の研究が3カ月以内と短く、1年以上追跡した研究はわずか8件(9%)でした。また、参加者が日常的にどの程度フッ素にさらされていたかを報告していない研究が多く、結果に影響した可能性も指摘されています。特にCPP-ACPに関する研究は特定の研究グループに集中しており、含まれた研究のうち12件は関連企業(Recaldentの製造元など)からの資金提供を明らかにしていました。実際、独立した研究の一つはCPP-ACPに追加的な効果が見られなかったと報告しており、著者らはこの分野の効果の大きさが実際より高めに見積もられている可能性があるとして、慎重な解釈を求めています。なお本論文は中国・貴州省の遵義医科大学に所属する研究者らによってまとめられたもので、対象研究の実施国は中国、タイ、インドなど複数国にわたりますが、日本国内の食品や研究機関への言及は本文中に見当たりませんでした。

まとめ

今回のレビューは、牛乳やヨーグルト、チーズに含まれるカゼインホスホペプチドやラクトフェリン、乳酸菌、カルシウム・リンといった成分が、歯の再石灰化やむし歯菌の抑制、歯周組織の炎症緩和、カンジダ菌の抑制、粘膜保護など複数の経路を通じて口の健康に関わりうることを、既存の79件の研究から整理したものです。著者らは今後、プロバイオティクスの菌株ごとの違いや複数成分の相乗効果、長期的な臨床効果を明らかにする研究が必要だとしています。あくまで一つの分野を横断的に整理したレビューであり、特定の乳製品や成分がむし歯や歯周炎を予防・治療すると断定するものではない点には留意が必要です。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Miao Wang, Miao Wang, Qian Wang, et al. Functional mechanisms, current applications, and future perspectives of dairy products in oral health. フロンティアーズ・イン・パブリックヘルス (2026). DOI: 10.3389/fpubh.2026.1898007.