この研究は、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

果物は収穫後の保存中に、水分が失われたり、呼吸による代謝が進んだり、微生物が繁殖したりすることで、食感や栄養価が落ちていきます。研究チームは、こうした品質の低下を抑えるために、化学保存料に頼らず、自然由来で環境にも負担の少ない包装材を作ることを目指しました。

着目したのは、魚皮由来のゼラチンとキトサン(カニやエビの殻に含まれるキチンから作られる成分)を組み合わせたフィルムです。これらは生分解性があり、フィルムを作る性質にも優れていますが、論文によれば、それだけでは抗酸化作用や抗菌作用が十分ではないという課題がありました。

そこで研究チームは、スピルリナという藻類から採れる青い天然色素フィコシアニンに注目しました。フィコシアニンは抗酸化作用を持つ一方で不安定で分解しやすいため、著者らは以前の研究で、銅イオンと結び付けた複合体(Cu@PC)にすることで安定性が高まることを報告しています。この複合体をゼラチン・キトサンのフィルムに加えれば、機能を補えるのではないかというのが本研究の出発点です。

何をどのように調べたか

研究チームは、ゼラチンとグリセロール(フィルムをしなやかにする成分)にキトサンを0.1%、0.5%、1%、5%と量を変えて加え、そこにフィコシアニン-銅複合体を混ぜた4種類のフィルムを作りました。比較のために、銅を含まないフィルム(フィコシアニンのみ)と、フィコシアニンも銅も含まないフィルムも用意しています。

できあがったフィルムについて、電子顕微鏡による表面と断面の構造の観察、水滴の接触角(水をはじきやすさの指標で、角度が大きいほど水をはじく)の測定、紫外線をどれだけ遮るかの測定、そして抗酸化能を調べる2種類の試験(DPPH法とABTS法)を行いました。抗菌性については、大腸菌と黄色ブドウ球菌を使い、菌がどれだけ増えるかの推移と、フィルム溶液の周囲に菌が生えない領域(阻止円)の大きさで評価しました。

さらに実際の保存試験として、市販の「遼峰」ブドウを使い、包まないもの、3種類のフィルムでそれぞれ覆ったものの4群に分け、25℃で保存しながら、見た目の変化、重量の減少、硬さ、可溶性固形分(主に糖分で、甘みや内部品質の目安)、総抗酸化能を追跡しました。

報告された主な結果

キトサンの量によってフィルムの性質は大きく変わりました。0.1%と0.5%では表面が滑らかで割れや穴のない連続した膜になりましたが、5%まで増やすと表面にも断面にもはっきりした亀裂が現れ、構造が損なわれたと報告されています。水のはじきやすさでは0.5%のフィルムが最も高い接触角(約101度)を示し、紫外線を遮る性能も0.1%より優れていました。

抗酸化能はキトサンが多いほど高くなる傾向があり、DPPH法ではキトサン5%で約85%と最も高い値でした。ただし研究チームは、構造の整い方や水のはじきやすさ、紫外線遮蔽なども含めた総合的な性能から、キトサン0.5%のフィルム(Gel/Cu@PC/Ch0.5)を最適な配合として選び、以降の実験に用いています。

抗菌試験では、大腸菌の増殖を抑えられたのは銅を含むフィルムだけでした。黄色ブドウ球菌に対してはフィコシアニンのみのフィルムにも抑制効果が見られましたが、銅を含むフィルムのほうが明らかに強く、阻止円の直径も大きくなりました。これらの結果から、著者らは抗菌作用が主に銅イオンによるものだと述べています。

ブドウの保存試験では、包まなかったものは8日目に乾燥と軟化が目立ち、10日目には表面に微生物の発生や変色が見られました。一方、銅を含むフィルムで覆ったブドウはしぼみがほとんどなく、微生物による傷みも目に見える形では現れませんでした。12日目の重量減少率は、包まなかった群の約16%に対し、このフィルムの群は約3.6%にとどまりました。硬さも、包まなかった群が初期の約367gから約176gまで落ちたのに対し、フィルム群は約316gを保っています。可溶性固形分と総抗酸化能についても、このフィルムの群が保存期間を通じて他の群より高い値を維持したと報告されています。

この研究が示すこと

この研究は、ゼラチンとキトサンという生分解性の素材に、藻類由来の色素と銅イオンの複合体を組み合わせることで、紫外線を遮り、酸化を抑え、細菌の増殖も抑えるフィルムが作れることを示しました。キトサンの配合量ひとつで構造も機能も変わるという点は、こうした複合材料の設計で配合の調整が重要であることを具体的に示しています。

著者らはこれを、ブドウの収穫後の品質保持に向けた予備的な応用の可能性を示すものと位置づけ、ゼラチン・キトサン・フィコシアニンといった天然素材を、活性のある食品包装材として活かす一つの道筋として提示しています。

著者:Zhicong Wang(SKL of Marine Food Processing & Safety Control, National Engineering Research Center of Seafood, Collaborative Innovation Center of Seafood Deep Processing, Dalian Polytechnic University, Dalian 116034, China)、Shanshan Ding(SKL of Marine Food Processing & Safety Control, National Engineering Research Center of Seafood, Collaborative Innovation Center of Seafood Deep Processing, Dalian Polytechnic University, Dalian 116034, China)、Yixu Wang(SKL of Marine Food Processing & Safety Control, National Engineering Research Center of Seafood, Collaborative Innovation Center of Seafood Deep Processing, Dalian Polytechnic University, Dalian 116034, China)、Wenhui Deng(School of Food Science and Technology, Dalian Polytechnic University, Dalian 116034, China)、Yinan Du(SKL of Marine Food Processing & Safety Control, National Engineering Research Center of Seafood, Collaborative Innovation Center of Seafood Deep Processing, Dalian Polytechnic University, Dalian 116034, China)、Wentao Su(SKL of Marine Food Processing & Safety Control, National Engineering Research Center of Seafood, Collaborative Innovation Center of Seafood Deep Processing, Dalian Polytechnic University, Dalian 116034, China)、Di Wu(SKL of Marine Food Processing & Safety Control, National Engineering Research Center of Seafood, Collaborative Innovation Center of Seafood Deep Processing, Dalian Polytechnic University, Dalian 116034, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Zhicong Wang, Shanshan Ding, Yixu Wang, et al. Development of a Phycocyanin–Copper-Loaded Gelatin–Chitosan Active Forming Film Solution and Its Application in Fruit Quality Preservation. Foods 2026-08-28. DOI: 10.3390/foods15173039. 原著ライセンス:CC BY.