この研究は、タイ、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Collagen and Leather

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

総説の目的

高血圧は世界的に大きな健康課題です。著者らが引用する推計では、2023年時点で30〜79歳の成人のうち約14億人、この年齢層の33%が高血圧とされています。そのうち診断を受けているのは54%、治療を受けているのは42%、血圧が十分に管理できているのは21%にとどまると紹介されています。著者らは、合成の降圧薬には副作用などによって長期の服用が続きにくいという課題があると指摘しています。そのうえで、軽度の高血圧への対応や既存治療を補う手段が求められていると述べています。

こうした背景から、研究チームはコラーゲンを分解して得られる短いペプチド(数個のアミノ酸がつながった断片)に注目しました。コラーゲンは脊椎動物で最も多いタンパク質で、体内のタンパク質全体の約30%を占めます。食肉加工、皮革製造、水産加工では、コラーゲンを多く含む副産物が大量に出ます。しかしこれまでは廃棄されたり、飼料などに少量使われたりするにとどまっていました。

著者らによると、この分野の研究は食品科学、生化学、薬理学、栄養学、循環器医学に分散しており、知見が断片的なままでした。そこで本論文は、新たな実験を行うのではなく、既存研究を統合する総説として書かれています。原料の違いと製造方法、ペプチドの構造と働きの関係、作用の仕組みを整理することが目的です。さらに、試験管内の実験、動物実験、ヒトを対象とした試験、安全性、吸収のされやすさ、食品への応用までを、一続きの流れとしてまとめることを目指しています。

原料の違いと製造方法

著者らはまず、原料となる動物によってコラーゲンの性質が異なる点を整理しています。ヒドロキシプロリンはコラーゲンに含まれる特徴的なアミノ酸です。その割合は、牛由来で全アミノ酸の10〜14%、豚由来で8〜10%、魚などの海洋由来で7〜9%と紹介されています。こうした組成の違いは、分解によって生じるペプチドの種類や、消化酵素による分解されにくさに影響すると論じられています。

天然のコラーゲンは分子量285〜300 kDaの大きく水に溶けにくい分子で、そのままでは生理的な働きをほとんど示しません。酵素などで分解した後のペプチドは一般に3〜6 kDa程度となり、90%以上が10 kDa未満、約45%が3 kDa未満になると報告されています。分解の方法には、熱水抽出、酸やアルカリによる化学的分解、酵素分解があります。著者らは、酵素分解が主流の方法になっていると整理しています。狙った大きさのペプチドを得やすく、有害な副生成物を生じにくいためです。一方で、酵素分解の限界として次の点も挙げています。苦味が出やすいこと、製造ロットごとにばらつきが生じること、条件を厳密に管理する必要があることです。

新しい技術としては、超音波を使う抽出、高圧処理、パルス電場処理が紹介されています。著者らは、これらを酵素分解の前処理として組み合わせると、酵素がコラーゲンに届きやすくなるという考え方を示しています。

血圧を下げる働きに関わる構造と仕組み

中心的な作用として取り上げられているのは、アンジオテンシン変換酵素(ACE)を阻害する働きです。ACEには二つの働きがあります。一つは、血管を収縮させるアンジオテンシンIIをつくることです。もう一つは、血管を広げるブラジキニンを分解することです。どちらの働きも血圧を上げる方向に作用します。既存の降圧薬であるACE阻害薬は、この酵素を標的にしています。

著者らのまとめでは、コラーゲン由来の強いACE阻害ペプチドの多くはアミノ酸2〜12個の長さで、特に3〜5個程度のものが有利な性質を示すとされています。こうした短いペプチドは腸の輸送体によって吸収されやすいと説明されています。また、ペプチドの末端(C末端)にどのアミノ酸が位置するかも重要とされています。プロリン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファンなど、水になじみにくいアミノ酸や芳香族アミノ酸がここにあると、阻害作用が強まる傾向があると整理されています。例として、ジペプチドのVY、IY、LYでは、酵素の働きを半分に抑えるのに必要な濃度(IC₅₀)が16〜70 µMと紹介されています。さらに、プロリンやヒドロキシプロリンを含むペプチドは分解されにくいとされています。ヒドロキシプロリンを含むペプチドについては、高血圧自然発症ラット(遺伝的に高血圧になるよう系統化された実験用ラット)で収縮期血圧を31〜39 mmHg低下させたという報告も取り上げられています。

作用の仕組みについては、分子ドッキング(コンピューター上で分子の結合の様子を予測する手法)と酵素反応の解析が用いられています。その結果から、多くのコラーゲン由来ペプチドは「競合阻害」を示すと整理されています。これは、ACEの活性部位をめぐって本来の基質と競り合う形の阻害です。一方で、活性部位とは別の場所に作用するとみられるペプチドもあると紹介されています。

著者らは、ACE阻害以外の経路も論じています。一つは、ペプチドが活性酸素を消去したり、細胞の抗酸化酵素の働きを高めたりする作用です。もう一つは、血管内皮の機能を回復させる作用です。血管内皮では一酸化窒素(血管を広げる物質)がつくられており、ペプチドはそれをつくる酵素の働きを高めるとされています。例として、鶏コラーゲンの分解物を高血圧自然発症ラットに与えた報告が挙げられています。この報告では、血圧が下がると同時に、血漿中の脂質過酸化の指標も低下していました。

この総説が示すこと

この総説は、食品産業の副産物であるコラーゲンが、分解の仕方次第で血圧に関わる酵素に働きかけるペプチドの供給源になりうることを示しています。原料、製造、構造、作用の仕組みにまたがる知見を、一つの見取り図としてまとめた点が特徴です。紹介されている知見のうち、試験管内の実験で示されているのはIC₅₀で表されるACE阻害の強さです。血圧低下の数値は、高血圧自然発症ラットを用いた動物実験で報告されたものです。著者ら自身も、試験管内での阻害の強さが体内やヒトでの血圧への効果にどうつながるかは、複雑な過程を経るものだと位置づけています。散らばっていた知見を結びつけ、根拠に基づいてペプチドを開発するための土台を整えようとした点に、この論文の意義があります。

著者:Phanthipha Laosam(Postharvest Technology and Innovation in Animal Unit, Institute of Agricultural Technology, Suranaree University of Technology, Nakhon Ratchasima, 30000, Thailand)、Rayudika Aprilia Patindra Purba(Postharvest Technology and Innovation in Animal Unit, Institute of Agricultural Technology, Suranaree University of Technology, Nakhon Ratchasima, 30000, Thailand)、Sasikan Katemala(Faculty of Agriculture at Kamphaeng Saen, Kasetsart University, Kamphaeng Saen Campus, Nakhon Pathom, 73140, Thailand)、Saranya Suwanangul(Program in Food Science and Technology, Faculty of Engineering and Agro-industry, Maejo University, Chiang Mai, 50290, Thailand)、Chakkapat Aenglong(Department of Agro-Industrial, Food and Environmental Technology, Faculty of Applied Science, King Mongkut’s University of Technology North Bangkok, Bangkok, 10800, Thailand)、Nattapol Pongsamai(Suranaree University of Technology Hospital, Nakhon Ratchasima, 30000, Thailand)、Yong Yue(Key Laboratory of Animal Genetics, Breeding and Reproduction in the Plateau Mountainous Region, Ministry of Education, Guizhou University, Guiyang, 550025, China)、Jukkrapong Pinyo(Faculty of Agriculture at Kamphaeng Saen, Kasetsart University, Kamphaeng Saen Campus, Nakhon Pathom, 73140, Thailand)、Papungkorn Sangsawad(Postharvest Technology and Innovation in Animal Unit, Institute of Agricultural Technology, Suranaree University of Technology, Nakhon Ratchasima, 30000, Thailand)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Phanthipha Laosam, Rayudika Aprilia Patindra Purba, Sasikan Katemala, et al. Animal collagen as a source of antihypertensive bioactive peptides: production technologies, structural characteristics, and molecular mechanisms. Collagen and Leather 2026-10-01. DOI: 10.1186/s42825-026-00265-6. 原著ライセンス:CC BY.