日本関連:この研究は海外機関を中心とする国際共同研究で、日本の研究機関に所属する共著者が参加しています。参加国は中国、日本です。

掲載誌:Frontiers in Nutrition

ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文掲載ページ

総説の目的

パーキンソン病は、脳内で神経伝達物質ドーパミンをつくる神経細胞が徐々に失われ、手足のふるえ、筋肉のこわばり、動作の遅さなどが現れる進行性の病気です。治療の中心は薬で、とくに脳内でドーパミンに変わる「レボドパ」が最も効果の高い標準薬とされています。

一方で、長く薬を使い続けると、薬の効き目が切れて症状が戻る「ウェアリング・オフ」や、意図しない体の動き(ジスキネジア)などの問題が起こりやすくなります。著者らは、レボドパの長期使用により5〜10年のうちに40〜80%の患者さんがこうした運動合併症を経験するという報告を紹介しています。

研究チームはこの総説で、食習慣、食事に含まれる栄養素の構成、地域ごとの食事パターン、食べ方の習慣が、パーキンソン病の薬の吸収や効き方にどのように影響しうるかを、既存の研究をもとに整理することを目的としました。

薬の種類ごとに異なる食事との関係

著者らによると、口から飲むレボドパは、腸での吸収が遅れたりばらついたりしやすく、血液中から消える速さを示す半減期も約2時間と短いため、血中濃度が上下しやすいという特徴があります。さらに、食事のたんぱく質に由来する「大型中性アミノ酸」と呼ばれる成分が、腸や脳への入り口(血液脳関門)でレボドパと同じ運び役を取り合うため、吸収や脳への移行が妨げられることがあります。

ドーパミンの受容体を直接刺激する「ドーパミン受容体作動薬」は、このアミノ酸との取り合いを起こしません。ただし飲み薬では、大量の食事や不規則な食事で胃の中身が腸へ送られるのが遅れると、吸収にばらつきが出る可能性があると論文は述べています。また、この種類の薬の副作用として、過食を含む衝動を抑えにくくなる症状が挙げられており、それが食事のリズムを乱すこともありえます。

ドーパミンの分解を抑えるMAO-B阻害薬では、古いタイプの薬について、熟成チーズやワインなどチラミンという成分を多く含む食品への注意が必要とされています。新しい作用の仕組みをもつアデノシンA2A受容体拮抗薬については、コーヒーなどに含まれるカフェインとの関係が考えられるものの、臨床で役立つほど確かな相互作用は示されていないと、著者らは慎重な立場をとっています。

食事パターンと食事のタイミングについての主な整理

研究チームは、西洋型、地中海型、東アジア型、アフリカ型、中南米型などの食事パターンについても検討しました。その結果、こうした食事パターン全体が薬の効き方を変えることを直接示した研究は限られていると結論づけています。たとえば西洋型の食事は、腸内細菌のバランスや炎症を通じて影響する可能性が考えられるものの、その道筋は間接的な証拠にとどまるとしています。地中海型の食事も、パーキンソン病のなりにくさなどとの関連は報告されていますが、薬の効き目や体内での動きを良くすることは確立していないと述べています。東アジアの食品成分の多くについても、根拠は主に動物実験などの基礎研究段階のものだと整理されています。

これに対して、人を対象とした研究で比較的はっきりした根拠があるのは、たんぱく質の量や1日の中での配分、そして薬と食事のタイミングだと著者らは指摘しています。影響を受けやすい患者さんでは、たんぱく質を多くとると運動症状の改善が弱まり、たんぱく質を控えたり1日の中での配分を工夫したりすると改善した、という研究が紹介されています。また、徐放型(ゆっくり溶ける)のレボドパ・カルビドパ製剤を食後に飲んだ場合、食前に飲んだ場合と比べて、レボドパが血液中に現れるのが遅れ、6時間の薬の総量(体内に取り込まれた量の目安)が減り、症状が改善し始めるのも遅れたという報告も取り上げられています。

なお、吸入薬や腸・皮下への持続注入など、飲み薬以外の投与方法では、消化管での吸収にまつわる問題の一部を避けられることも整理されていますが、すべての課題が解決するわけではないとされています。

この総説が示すこと

著者らは、パーキンソン病の薬物療法で食事に配慮する際には、「地中海型」「西洋型」といった大まかな食事の分類よりも、たんぱく質のとり方や、薬と食事の時間の関係といった具体的な要素に注目すべきだとまとめています。そのうえで、薬の種類や剤形、たんぱく質への感受性、栄養状態、消化管の働き、実際の症状の変化に応じて、一人ひとりに合わせた食事の工夫が求められるとしています。

同時に、精密な栄養管理の枠組みや多職種による栄養支援が十分に整っていないことが、薬と食事に関する基礎的な知見を実際の診療に生かすうえでの障壁になっていると論文は指摘しています。この総説は、確かな根拠のある食事の要素と、まだ仮説の段階にある要素を区別して示した点に意味があるといえます。

原著論文の著者・所属:Jingyi Ye(Department of Cardiovascular Surgery, Shandong Medical and Pharmaceutical University Hospital, Binzhou, China)、Jingyi Ye(School of Clinic Medicine, Xiamen Medical College, Xiamen, China)、Sarena Jiayao Zhang(School of Clinic Medicine, Xiamen Medical College, Xiamen, China)、Jinzhe Guan(Department of Cardiovascular Surgery, Shandong Medical and Pharmaceutical University Hospital, Binzhou, China)、Jinzhe Guan(The 1st Medical College of Shandong Medical and Pharmaceutical University, Binzhou, China)、Zi-han Shen(International Institute for Integrative Sleep Medicine (WPI-IIIS), University of Tsukuba, Tsukuba, Japan)、Jin Wang(Department of Cardiovascular Surgery, Shandong Medical and Pharmaceutical University Hospital, Binzhou, China)、Jin Wang(School of Stomatology, Shandong Medical and Pharmaceutical University, Yantai, China)、Ruilin Yang(Department of Cardiovascular Surgery, Shandong Medical and Pharmaceutical University Hospital, Binzhou, China)、Ruilin Yang(School of Special Education and Rehabilitation, Shandong Medical and Pharmaceutical University, Yantai, China)、Muze Huang(School of Basic Medicine, Fujian Medical University, Fuzhou, China)、Zi-mo Li(School of Clinic Medicine, Xiamen Medical College, Xiamen, China)、Yue Lin(School of Clinic Medicine, Xiamen Medical College, Xiamen, China)、Hengning Gan(School of Dentistry, Xiamen Medical College, Xiamen, China)、Shiyuan Wu(School of Dentistry, Xiamen Medical College, Xiamen, China)、Yujiu Wang(Department of Cardiovascular Surgery, Shandong Medical and Pharmaceutical University Hospital, Binzhou, China)、Kaiqiang Yang(Department of Cardiovascular Surgery, Shandong Medical and Pharmaceutical University Hospital, Binzhou, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Jingyi Ye, Jingyi Ye, Sarena Jiayao Zhang, et al. Effects of eating behavior patterns and dietary habits on the therapeutic efficacy of Parkinson’s disease medications: from phenomena, mechanisms to clinical applications. Frontiers in Nutrition 2026-10-01. DOI: 10.3389/fnut.2026.1969279. 原著ライセンス:CC BY.