著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Pakistan Journal of Botany
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
同じ品種でも、育つ場所で収量と品質は変わるのか
中国東北部の吉林省は、良質なジャポニカ米の産地として知られています。ただし省内でも地域によって気温などの気象条件が異なり、同じ品種を植えても収量や米の性質に差が出ることがあります。研究チームは、新しく登録された中晩生のジャポニカ米品種「通禧953」が省内のどの地域に適しているかを確かめるため、地域ごとの収量と品質を比較しました。
この品種は生育期間が143日で、分げつ(株元から新しい茎が増えること)が旺盛です。中国農業部の基準で良質食用米の2等に相当する品質を持つとされています。著者らは、分げつ期と登熟期(穂の中で米粒が充実していく時期)の気温条件から、収量は長春で、品質は通化で最も高くなると予想していました。
4地域・2年間の圃場試験
試験は2023年と2024年の2年間、吉林省中部の長春、吉林、四平と、東部の通化の計4地域で行われました。各地域の農業研究機関の圃場に、1区画200平方メートルの試験区を3つずつ設けました。施肥量などの栽培条件はそろえ、そのほかの管理は各地の慣行に従っています。
収穫時には、穂の数、1穂あたりの籾数、登熟歩合(実った籾の割合)、千粒重(米粒1000粒の重さ)といった収量を決める要素と、実際の収量を調べました。品質については三つの面を評価しています。一つ目は精米したときの歩留まりや整粒歩合(割れずに残る精米の割合)などの加工品質、二つ目は粒の形や白く濁った部分(チョーク質)の多さといった外観品質、三つ目はアミロース含量やゲル硬度、5人の訓練を受けた評価者による食味評価などの食味品質です。あわせて各地域の月平均気温も比較しました。
収量は長春、外観と加工品質は通化が優位
収量は両年とも長春が最も高く、吉林、四平、通化の順でした。2年間の各地域の収量は1ヘクタールあたり約7830〜8900キログラムの範囲にあり、最も高い値は最も低い値をおよそ13.7%上回ったと報告されています。長春では穂の数、1穂あたりの籾数、登熟歩合がいずれも他地域より多い、または高い傾向でした。一方、千粒重には地域や年による有意な差がなく、論文はこの形質が主に遺伝的に決まっていると考えています。
品質では通化が目立ちました。通化産の米は整粒歩合が両年とも最も高く、73.6%に達しました。白く濁った粒の割合は両年とも10%未満で、他地域より有意に低い値でした。他の地域では、2024年にこの割合が増えています。
アミロース含量やゲル硬度には地域や年による差が見られました。それでも、総合的な食味評価の値は全地域・両年とも85.0〜85.3でほぼ一定でした。アルカリ崩壊度や透明度にも地域差はありませんでした。著者らは、この品種の食味は環境の違いの影響を受けにくいとみています。
結果の読み方と、この研究が示すこと
論文は、地域差の背景として気温の違いを考察しています。分げつ期や登熟期の気温条件が収量や白く濁った粒の発生に関わった可能性を挙げています。ただし、月平均気温と収量・品質との相関を調べたところ、統計的に有意な関係は確認されませんでした。また日別の気温データがないため、時期ごとの気温の影響はあくまで仮説として扱うべきだとしています。降水量、日照時間、土壌の肥沃度は体系的に測っていません。試験は2年間・4地域・1品種に限られ、食味評価の評価者も5人と少ない点も、著者らは限界として挙げています。
以上を踏まえ、著者らは収量を重視するなら長春、品質を重視するなら通化が有利だと結論づけています。ただし通化は、穂いもち病にかかりやすいことを理由に、この品種の公式な推奨栽培地域から外されています。論文はこの点に触れ、病害対策が確保されることを前提に、高品質生産の候補になりうると述べています。
この研究は、同じ品種でも栽培地域によって「よく取れる場所」と「品質が良くなる場所」が分かれうることを、具体的な圃場データで示しています。品種の特性と地域の条件を照らし合わせて栽培地を選ぶことの大切さが伝わる結果です。
原著論文の著者・所属:Xiaohang Wang(School of Agriculture , Jilin Agricultural Science and Technology College , Jilin 132101 , China)、Bing He(School of Agriculture , Jilin Agricultural Science and Technology College , Jilin 132101 , China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Xiaohang Wang, Bing He. Effects of different planting regions on yield components and grain quality of rice variety ‘Tongxi 953’. Pakistan Journal of Botany 2026-10-22. DOI: 10.30848/pjb2027-3(14). 原著ライセンス:CC BY.