日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。

掲載誌:PLoS ONE

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:仮想空間で「支払意思額」を測れるか

消費者がどのように食品を選ぶのかを調べるため、研究者は現実の売り場に似せた環境で実験を行ってきました。近年使われ始めたのが、ヘッドマウントディスプレイを装着し、周囲360度が仮想空間になる「没入型VR」です。仮想の店舗なら、実際の小売店の協力を得なくても、陳列や価格をさまざまに変えた実験を手軽に行えます。

これまでの研究では、商品棚を見る時間や価格の記憶などについて、没入型VRと現実の売り場で大きな違いは見られないと報告されてきました。一方で、消費者がその商品にいくらまでなら払ってもよいと考えるかを示す「支払意思額」を、金額として没入型VRで求め、現実の売り場と比べた研究はほとんどありませんでした。

そこで研究チームは、没入型VRでの商品選択から支払意思額を金額で算出し、現実の売り場で求めた値と違いがあるかを調べました。著者らは、先行研究から両環境での消費者行動は似ていると考え、「支払意思額に有意な差はない」という仮説を立てました。

方法:3種類のグラノーラを実際に購入する選択実験

対象に選ばれたのは、グラノーラなどのすぐ食べられるシリアル食品です。パッケージや価格、栄養成分表示といった目で見える情報で主に評価できるため、仮想空間と現実で同じように情報を示しやすく、常温で保存でき、実験で実際に購入してもらうのにも向いています。

実験は2024年11月25日から28日に東洋大学朝霞キャンパスで行われ、シリアル食品をときどき食べる学部生・大学院生227人が参加しました。前半2日間は現実の売り場、後半2日間は没入型VRで実施されました。参加者はどちらの環境の日かを知らされないまま都合のよい日時を予約したため、研究チームは環境への振り分けを無作為とみなせると説明しています。

参加者は、カルビーのグラノーラ3商品から買いたいものを一つ選ぶ質問に9回答えました。ドライフルーツを含まない「マイグラ」、ドライフルーツ入りの「フルグラ」、大豆たんぱくを使ってフルグラより糖質を30%抑えた「フルグラ 糖質オフ」の3種類で、質問ごとに価格の組み合わせが変わり、「どれも買わない」も選べました。現実の環境では実験室の棚に実物を並べ、没入型VRでは仮想スーパーの棚から欲しい商品をコントローラーでつかんで買い物カートに入れました。VRでは本番前に3回の練習があり、どちらの環境でも商品の裏面や栄養成分表示を確認できました。

この実験の特徴は、選択が実際の支払いにつながる点です。参加者には謝礼として1,100円相当が用意され、9回の質問から無作為に一つが選ばれ、そこで選んだ商品を謝礼から代金を差し引いて実際に購入しました。仮定の質問だけでは本当の支払意思額からずれやすいため、こうした実際の購入を伴う方法でそのずれを抑えています。得られた選択結果からは、消費者ごとの好みのばらつきを考慮できる統計モデルを用いて支払意思額が推定されました。

主な結果:環境による有意な差は見られなかった

没入型VRの参加者で体調不良や操作ミスを報告した人はおらず、227人全員が有効回答とされました。また、二つの環境の参加者の性別や年齢、好みなどの特徴に偏りは見られなかったと報告されています。

1袋あたりの平均的な支払意思額は、マイグラが約633円、フルグラが約736円、フルグラ 糖質オフが約707円と推定されました。没入型VRでは3商品とも現実の売り場より低めになる傾向がありましたが、その差は統計的に有意ではありませんでした。参加者の特徴を考慮したモデルでも、環境が支払意思額に有意な影響を与えた商品はありませんでした。

あわせて、参加者の特徴との関連も報告されています。年齢が上がるほどマイグラへの支払意思額は低く、女性は男性よりフルグラとフルグラ 糖質オフへの支払意思額が高い結果でした。低価格を重視する人はマイグラに、低カロリー・低糖質を重視する人はフルグラ 糖質オフに、ドライフルーツ入りを重視する人はフルグラとフルグラ 糖質オフに、それぞれ高い金額を示しました。マイグラとフルグラ 糖質オフでは食べたことがある人の支払意思額が高く、多くの参加者がすでに食べていたフルグラではそうした差は見られませんでした。

研究が示す意味

著者らは、今回調べた包装食品については、実際の購入を伴う選択から求めた消費者の金銭的な評価が、没入型VRと現実の売り場とで同程度だったと結論づけています。商品や価格について同等の情報が示される場合、没入型VRは包装食品の支払意思額を測るための代わりの環境になりうる、というのが論文の見方です。

ただし著者らは、没入感や臨場感だけで仮定の質問によるずれが減るわけではなく、今回は実際の支払いという経済的な結果が伴っていた点が重要だとしています。また、選択にかかる時間や購入量といった、今回の分析の範囲外の行動では環境による違いがありうることにも触れています。仮想の店舗で実際の購入を組み合わせる方法は、売り場の表示や価格の変更が消費者の評価にどう影響するかを、現実の店舗を変えずに検討する手段になりうると論文は述べています。

原著論文の著者・所属:Toru Nakajima(Toyo University)、Mizuki Mukai(Mie University)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Toru Nakajima, Mizuki Mukai. Can immersive virtual reality be an alternative world for eliciting consumer willingness to pay for food?. PLoS ONE 2026-10-22. DOI: 10.1371/journal.pone.0361063. 原著ライセンス:CC BY.