掲載誌:Asian Journal of Dairy and Food Research

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究のねらい

インド北東部は、アッサム、アルナーチャル・プラデーシュ、ナガランド、マニプル、メガラヤ、ミゾラム、トリプラ、シッキムの8州からなる地域です。生物多様性が豊かで、多くの民族がそれぞれの食文化を受け継いでいます。著者らが引用する先行研究によると、この地域の先住の人々がつくる発酵食品や発酵飲料は250種類を超えるとされています。

発酵大豆、タケノコ、葉物野菜、魚、米などの穀物から造る酒類は、季節の収穫物を保存し、味をよくするために使われてきました。同時に、地域の社会や文化のあり方とも深く結びついています。一方で著者らは、こうした食品の多くが世界の有名な発酵食品に比べて科学的にまだ十分調べられていないと指摘しています。

このレビュー論文の目的は、既存の研究をまとめ直すことです。北東部の発酵食品の多様性、そこに関わる微生物、発酵中に起こる成分の変化、健康に関わる機能、そして腸内細菌叢(腸にすむ細菌の集まり)への影響を整理しています。

どのように文献を集めたか

この論文は新たな実験を行ったものではありません。すでに発表された研究を集めて整理する文献レビューです。研究チームは、ScopusやWeb of Science、Google Scholarなど複数の学術データベースを使いました。2000年1月から2026年3月までに出版された文献を対象とし、最終検索は2026年3月15日に行っています。

検索語には、「北東インド」「発酵食品」のほか、キネマ、ハワイジャル、ンガリ、シダル、米の酒アポンといった個々の食品名、さらに「腸内細菌叢」「乳酸菌」などを組み合わせて用いました。

対象に含めたのは、査読を受けた原著論文、系統的レビュー、民族誌的研究(地域の暮らしや慣習を記録する研究)、メタゲノム研究(食品中の微生物の遺伝子をまとめて調べる研究)などです。学会抄録や未発表の報告、食品と関係のない工業的な発酵の研究は除外しました。

集めた知見は、発酵大豆、発酵魚、発酵タケノコ、発酵野菜、穀物の発酵飲料という種類ごとに分類されています。そのうえで、微生物、成分変化、健康機能、安全性、腸内細菌叢といったテーマに沿って記述的にまとめられています。

報告された主な内容

論文によると、タケノコや野菜、飲料の発酵では乳酸菌が最も多く見られ、魚や大豆の発酵では枯草菌の仲間であるバチルス属の細菌が大きな役割を果たしています。著者らは、バチルス属が主体のアルカリ性の発酵と、乳酸菌が主体の酸性の発酵がともに盛んな点で、北東部は発酵を比べて研究するうえで興味深い場所だと述べています。

アルカリ性の発酵の例として挙げられているのが、キネマ、トゥンリンバイ、ハワイジャルといった発酵大豆で、日本の納豆や韓国のチョングクチャンに似ています。これらの食品では、たんぱく質が分解されて遊離アミノ酸やペプチド(アミノ酸が短くつながったもの)が増えます。また、大豆イソフラボンがより吸収されやすい形に変わることが紹介されています。

ンガリやヘンタク、シダルなどの発酵魚では、たんぱく質を分解するバチルス属の細菌がよく見つかり、うま味成分のもとになるアミノ酸を生み出すとされます。乳酸菌も見つかっており、酸性化や風味づけ、病原菌の抑制に関わると紹介されています。

米の酒づくりでは、カビ、酵母、乳酸菌が混ざった乾燥スターター(種菌)が使われます。アッサムの米の酒のスターターをメタゲノムで調べた研究では、でんぷんの分解やアルコール発酵、ビタミンB群の合成などに関わる遺伝子をもつ複雑な微生物群集が確認されたといいます。

成分の変化としては、次のような点がまとめられています。たんぱく質の分解によってうま味成分が増えること。発酵大豆でたんぱく質の消化を妨げるトリプシン阻害物質やフィチン酸、タンニンが減ること。タケノコにもともと含まれる青酸配糖体(シアン化合物のもとになる物質)が乳酸菌発酵によって大きく減ること。

健康に関わる機能としては、抗酸化作用をもつフェノール類やペプチドの増加が挙げられています。腸内細菌叢については、これらの食品から分離された乳酸菌やバチルス属の菌株が、酸や胆汁に耐えるなど、プロバイオティクス(体によい働きが期待される生きた微生物)に似た性質を示したという報告が紹介されています。腸内細菌がつくる短鎖脂肪酸が腸のバリア機能や炎症の調節に関わるという知見も取り上げられています。

この研究が示すこと

著者らは、インド北東部の発酵食品を、伝統的な知恵と微生物による化学変化が結びついた多様な食の資源として位置づけています。

ただし論文は、健康効果に関する根拠の多くが試験管内の実験や動物実験にとどまっていることも明記しています。人を対象とした研究では一部に支持的な関連がみられるだけで、しっかり設計された臨床試験はまだ不足しているということです。

また、家庭での発酵は方法にばらつきがあり、微生物の構成や品質が一定しません。病原菌の混入や、ヒスタミンなどの生体アミンが生じる問題も報告されています。

このレビューは、地域ごとに受け継がれてきた発酵食品について、何が分かっていて何がまだ確かめられていないのかを一つに見渡せる形で示したものだといえます。

著者:Dipasri Sarma、Jasmin Islam、Daisy Sharma

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Dipasri Sarma, Jasmin Islam, Daisy Sharma. Various Fermented Foods of Northeastern Region and Their Functional Roles and Impact on Gut Microbiota: A Review. Asian Journal of Dairy and Food Research 2026-10-15. DOI: 10.18805/ajdfr.dr-2498. 原著ライセンス:CC BY.