この研究は、ブルキナファソ、アメリカ、パキスタンの研究機関の研究論文です。

掲載誌:BMJ Open

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

妊娠中の栄養補助をめぐる課題

低中所得国の多くでは、妊娠可能年齢の女性の食事に不足する微量栄養素が多く、妊娠中は胎児の成長に伴う需要の増加によって不足がさらに強まると著者らは説明しています。WHOは妊娠中に鉄と葉酸のサプリメント(IFA)を毎日摂取することを推奨していますが、近年は15種類の微量栄養素を含む「複合微量栄養素サプリメント(MMS)」へ切り替える国も増えてきました。論文は、MMSがIFAと比べて母体の微量栄養素の状態を改善し、胎児への移行を増やすこと、また低出生体重が15%、妊娠週数に対して小さい出生(SGA)が7%、死産が9%、34週未満の早産が19%減ったとする先行研究の報告を紹介しています。

もう一つの論点がカルシウムです。食事からのカルシウム摂取が少ないことは妊娠高血圧症候群や妊娠高血圧腎症(preeclampsia)と関連し、著者らは後者が世界で年間4万人の妊産婦死亡の原因になっていると記しています。27件の試験をまとめた2018年のコクラン・レビューでは、カルシウム摂取量の少ない女性で1g以上のカルシウム補給により高血圧が35%、preeclampsiaが半分以上、死亡や重い合併症が20%、早産が24%減ったと報告されました(SGAへの効果はなし)。ただし現行のMMSにはカルシウムが含まれていません。

ここで障害になるのが、WHOがカルシウムのサプリメントを鉄を含むサプリメントとは時間をずらして飲むよう勧めている点です。同時に飲むと鉄の吸収が下がるおそれがあるためですが、著者らは、この想定が主に単回の試験食による鉄吸収や短期の生物学的利用能の研究に基づくものであり、2021年のメタ解析ではカルシウムのサプリメント使用が血清フェリチン濃度の低さと関連する一方、ヘモグロビン濃度の差には結びつかなかったと指摘します。しかもそれらの研究は妊婦を除外しているものが多く、主に高所得国で行われていました。妊娠中に鉄とカルシウムを同時に補給した場合の影響を確かめることが、両方の介入を1つのサプリメントにまとめるための次の一歩だというのが、この試験の出発点です。

試験の設計——「同時」と「別々」を比べる

CaMMS試験と名付けられたこの研究の目的は、カルシウム(500mg)とMMSを同時に摂取した場合が、別々に摂取した場合に比べて、妊婦と乳児のヘモグロビン濃度および鉄の状態において劣らないかを評価することです。こうした「新しい方法が既存の方法より明らかに劣らない」ことを確かめる設計を非劣性試験と呼びます。参加者は1対1の割合で無作為に2群へ振り分けられ、一方は朝に両方の錠剤をまとめて飲み(「同時」群)、もう一方は朝にMMS、夕方にカルシウムを飲みます(「別々」群)。カウンセリングの内容や包装の違いから参加者と現場スタッフには割り付けを隠せませんが、検査値を測定する検査室スタッフと現場業務に直接関わらない研究者には隠されます。

実施地は2か所です。ブルキナファソではワガドゥグの北東約100kmのサンボンテンガ州で、マラリアの伝播が非常に多い地域にあたります。パキスタンではカラチの南東約103km、シンド州のタッタ県の農村部で、同州で最もマラリア疑い例の年間発生率が高い地域とされています。対象は妊娠6週以上20週未満で、ヘモグロビン濃度が70g/L以上、研究対象の施設で妊婦健診を受けることとIFAをやめて試験のサプリメントを受け取ることに同意した女性です。年齢の条件は国ごとに異なり、鉄やカルシウムを含むサプリメントに禁忌がある場合などは除外されます。

「別々」群は飲み方が複雑になるため、服薬の複雑さが遵守率を下げるという知見を踏まえ、著者らは複数の工夫を組み合わせています。カレンダー型のブリスター包装に「太陽」または「太陽と月・星」の印をつけて飲むタイミングを示し、カウンセリングカードで飲み方や障壁への対処を伝え、家族などの「服薬パートナー」を活用します。さらに毎月の受け渡し時と家庭訪問で遵守を確認し、予告なしの日中の家庭訪問によって実際の服用の様子をとらえる計画です。

主要評価項目は、妊娠30週以上34週未満の時点で血球計算によって測る平均ヘモグロビン濃度です。非劣性の判定基準(非劣性マージン)は−3g/Lに設定されました。著者らは、鉄を含むサプリメントの20件の試験から得られた満期近くのヘモグロビン濃度の効果量(8.88g/L)を出発点に、慣例に従えばマージンは−3.5g/Lになるものの、INTERGROWTH-21stの基準値に照らしてより保守的な−3.0g/Lを選んだと説明しています。必要な人数は各国1600人、合計3200人です。副次評価項目には、妊娠後期の女性のフェリチン、可溶性トランスフェリン受容体、ヘプシジン、エリスロポエチンといった鉄の状態の指標や血液学的指標、そして出生後72時間以内の乳児のヘモグロビン濃度と鉄の状態が含まれます。貧血や鉄欠乏、出生時体重などは探索的な項目とされ、この試験はそれらの差を検出できる規模では設計されていないと明記されています。

この研究計画が持つ意味

この論文は試験の計画(プロトコル)を公表したもので、結果はまだ報告されていません。登録はパキスタンで2025年8月25日、ブルキナファソで2025年9月12日に始まり、現地での作業は2027年5月までに終わる見込みとされています。

著者らは、サハラ以南アフリカと南アジアの双方に実施地を置くことで、貧血の原因や普段のカルシウム摂取量が異なる環境を含められ、結果の適用範囲が広がる点を強みに挙げています。一方で、「別々」群の複雑さが遵守に影響しうること、副次的な項目を検出する規模ではないことを限界として自ら示しています。

妊娠中のカルシウム補給は、費用や1日複数回に分けて飲む難しさから広くは実施されていません。カルシウムとMMSを1回にまとめて飲んでも血液や鉄の状態が損なわれないと示せれば、2つの介入を1つの妊婦用サプリメントに統合する道筋に関わる根拠が得られます。逆に差が確認されれば、時間をずらす現行の勧めを支える根拠となります。いずれの結果であっても、妊婦への栄養補助をどう設計するかという政策判断に直結する問いに、この試験は正面から取り組んでいます。

著者:Adama Baguiya(Institut Africain de Santé Publique, Ouagadougou, Centre Region, Burkina Faso)、Amanda Palmer(Department of International Health, Johns Hopkins Bloomberg School of Public Health, Baltimore, Maryland, USA)、Saleem Jessani(Department of Community Health Sciences, Aga Khan University, Karachi, Pakistan)、Kerry Jean Schulze(Department of International Health, Johns Hopkins Bloomberg School of Public Health, Baltimore, Maryland, USA)、Melinda Kay Munos(Department of International Health, Johns Hopkins Bloomberg School of Public Health, Baltimore, Maryland, USA)、Monica M. Pasqualino(Department of International Health, Johns Hopkins Bloomberg School of Public Health, Baltimore, Maryland, USA)、Ethan K. Gough(Department of International Health, Johns Hopkins Bloomberg School of Public Health, Baltimore, Maryland, USA)、Amanda Palmer(Department of International Health, Johns Hopkins Bloomberg School of Public Health, Baltimore, Maryland, USA)、Fred Van Dyk(Department of International Health, Johns Hopkins Bloomberg School of Public Health, Baltimore, Maryland, USA)、Sarah Saleem(Department of Community Health Sciences, Aga Khan University, Karachi, Pakistan)、Séni Kouanda(Institut Africain de Santé Publique, Ouagadougou, Centre Region, Burkina Faso)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Adama Baguiya, Amanda Palmer, Saleem Jessani, et al. Co-administration of calcium and multiple micronutrient supplements for maternal and newborn haemoglobin and iron status: protocol for a randomised non-inferiority trial in Burkina Faso and Pakistan. BMJ Open 2026-09-01. DOI: 10.1136/bmjopen-2026-121658. 原著ライセンス:CC BY.