夏になると食卓でおなじみの麦茶は、大麦を焙煎して煮出すことで独特の香ばしい風味が生まれます。この香りは焙煎の過程で起こる化学反応によって作られますが、原料となる大麦そのものの性質が香りにどう影響するのかは、あまり詳しく分かっていませんでした。今回紹介する研究は、原料の大麦に含まれるタンパク質の量に着目し、それが麦茶の香気成分にどのような影響を与えるのかを科学的に調べたものです。

どのように調べたのか

研究チームは、六条大麦の品種「カシマムギ」と「カシマゴール」を対象に、2年度にわたって4つの異なる施肥条件のもとで、それぞれ3反復ずつ栽培しました。施肥条件を変えることで、同じ品種でもタンパク質含量が異なる原麦を意図的に作り出し、その原麦を焙煎して麦茶を抽出しています。できあがった麦茶液についてはGC-MS(ガスクロマトグラフ質量分析計)という機器を用いて香気成分を分析し、21種類の成分の含量を測定しました。

タンパク質含量が多い麦ほど「香ばしさ」が強くなる

分析の結果、麦茶液に含まれるピラジン類やチアゾール類、furanylmethylpyrroleという成分の濃度は、原麦のタンパク質含量と正の相関を示しました。つまり、タンパク質を多く含む大麦から作った麦茶ほど、これらの成分が多く生成される傾向が見られたということです。一方で、furfuralという成分の濃度は逆にタンパク質含量と負の相関を示し、タンパク質が少ない原麦ほど多く生成される傾向がありました。これらの成分はいずれも、加熱によって糖とアミノ酸が反応する「メイラード反応」を経て生成されるものです。研究チームは、ピラジン類やチアゾール類が香ばしくナッツのような香りに関わり、furfuralはアーモンドのような甘い香りに関わることから、タンパク質含量が高いほど香ばしい香りが、低いほど甘い香りが強くなることが示唆されるとしています。なお、2-methylbutanalや3-methylbutanal、hexanal、4-ethyl-2-methoxyphenol、2-methoxy-4-vinylphenolといった成分については、タンパク質含量の違いによる明確な差は見られなかったと報告されています。

この研究を読むうえで知っておきたいこと

この研究は、日本の農業・食品分野の研究機関に所属する研究者らによって行われ、日本で栽培される六条大麦の品種を用いて実施されています。今回の結果は、特定の2品種・特定の施肥条件のもとで得られたものであり、麦茶の香りの好みは香気成分の量だけでなく、抽出条件や他の要因にも左右されうる点に留意する必要があります。あくまで一つの研究であり、麦茶の香りとタンパク質含量の関係について結論が確定したというより、今後の研究の土台となる知見として位置づけるのが妥当でしょう。

まとめ

今回の研究では、原麦のタンパク質含量が麦茶の香気成分の種類や量に影響し、メイラード反応を通じて香ばしさや甘い香りのバランスが変わりうることが示されました。普段何気なく飲んでいる麦茶も、原料となる大麦の育て方によって香りの個性が変わる可能性があるという点で、身近な飲み物への見方が少し広がる研究といえそうです。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Noriko Kohyama, Hiromi Matsuyama, Hisayo Kojima, et al. 原麦のタンパク質含量が麦茶の香気成分に及ぼす影響. 日本食品科学工学会誌 (2026). DOI: 10.3136/nskkk.nskkk-d-26-00004. 原著ライセンス: cc-by-nc-sa.