近年、遺伝子の一部を狙って書き換える「ゲノム編集」技術が作物育種にも使われるようになってきました。従来の遺伝子組換え(GMO)とは異なる手法として注目される一方、消費者がこうした新技術をどう受け止めるかは国や制度によって温度差があるとされています。今回紹介する研究は、スイカを題材に、ゲノム編集技術と農薬の使い方に対する欧州消費者の「リスクの感じ方」を調べたものです。
何を、どうやって調べたのか
研究チームは、スペイン・ドイツ・英国の消費者1,218人を対象に「離散選択実験」と呼ばれる調査手法を用いました。これは、複数の選択肢(例えば、通常のスイカかゲノム編集スイカか、農薬の種類が異なるものかなど)を提示し、消費者がどれを選ぶかを繰り返し尋ねることで、何を重視して選んでいるかを統計的に推定する手法です。今回は、ゲノム編集(プレシジョンブリーディング)で作られたスイカに対する受け入れ度合いと、従来型農薬・有機認証農薬・残留ゼロ農薬という異なる農薬戦略に対する消費者の選好が調べられました。
研究でわかったこと
調査の結果、3カ国を通じて22〜27%の消費者がゲノム編集スイカを拒否するという回答が示されました。つまり、多くの消費者はゲノム編集自体を強く拒む立場ではないものの、一定数は明確に受け入れないという構図が見えてきます。
興味深いのは、ゲノム編集への懸念と従来型農薬の使用への懸念が、消費者の中でしばしば重なり合っている点です。これは、個々の技術そのものへの反応というよりも、食品の生産プロセス全般に対するリスク意識の広がりを反映している可能性があると report されています。
また、全体としては従来型農薬の方がゲノム編集技術よりもリスクが高いと認識される傾向が示されました。農薬の種類別に見ると、消費者は有機認証農薬よりも「残留ゼロ農薬」をより強く選好する傾向があり、農薬の「残留」に対する懸念が選好を左右する重要な要素であることが示唆されています。
さらに、ゲノム編集作物の受け入れ度合いは、スペイン・ドイツ・英国という規制の枠組みが異なる国々の間でも、比較的似通った水準であったことも報告されています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
この研究は、あくまでスイカという一つの作物を対象に、3カ国の消費者を対象とした選択実験に基づく知見です。実際の購買行動や、他の作物・他の地域における消費者意識まで一般化できるかどうかは、この要旨だけからは判断できません。また、離散選択実験は仮想的な選択場面での回答をもとにしており、実店舗での実際の購買とは異なる可能性がある点にも留意が必要です。一つの研究であり、結論が確定したものではないことを念頭に置いて読むとよいでしょう。
まとめ
この研究では、欧州の消費者がゲノム編集技術そのものよりも、従来型農薬の使用に対してより強いリスク意識を持っている可能性が示されました。また、農薬の「残留」への懸念が消費者の選好形成において鍵となることも示唆されています。著者らは、こうした消費者のリスク認識を踏まえ、残留ゼロ農薬の普及や、EUを中心としたゲノム編集技術に関する規制のあり方を見直すことが、消費者の選好と持続可能な食料生産の両立につながる可能性があると論じています。今後、より幅広い作物や地域を対象とした研究の蓄積が期待されるところです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:イノベーションとリスクの狭間で:スイカ生産におけるゲノム編集と農薬使用に対する欧州消費者の認識評価(アグリカルチャー・アンド・フード・セキュリティ・2026年08月)