この研究は、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:International Journal of Molecular Sciences

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

何を明らかにしようとしたのか

リンゴの果皮の色は、果実の品質を左右し、消費者が手に取るかどうかを決める重要な要素です。同じ系統でありながら色の濃さが異なる品種が存在することは、色づきを決める仕組みを探るうえで格好の手がかりになります。

研究チームが取り上げたのは、「金紅(Jinhong、JH)」というリンゴと、その枝変わり(芽条変異、bud sport)として生まれた濃い赤色の「紅金紅(Hongjinhong、HJH)」です。枝変わりとは、木の一部の枝に突然変異が起こり、元の品種とは異なる性質の果実がつく現象を指します。遺伝的にほぼ同じ背景をもちながら色だけが大きく違うこの組み合わせを比べることで、果皮の色の差を生む分子レベルの基盤を解き明かすことが、この研究の目的とされています。

どのように調べたか

研究チームは、果実が育っていく過程を追いながら、複数の手法を組み合わせて両品種の果皮を分析したと報告しています。具体的には、色素の量を測る生理学的な測定、果皮に含まれる多様な代謝物を幅広く網羅的に調べる「ワイドターゲット・メタボロミクス」、どの遺伝子がどれだけ働いているかを読み取る「トランスクリプトミクス」、そして特定の遺伝子の発現量を精密に確認する定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR)です。

代謝物とは、植物の体内でつくられたり変化したりする化学物質のことで、色素もその一種です。遺伝子の発現とは、遺伝子の情報が実際に読み出されて働いている状態を指します。つまり、「果皮に何が溜まっているか」と「どの遺伝子が働いているか」を、果実の発育段階ごとに並べて比較したことになります。

報告された主な結果

まず、HJHの果皮が濃い赤色になる主な理由は、クロロフィル(葉緑素)の量の変化ではなく、アントシアニンの蓄積が増えたことにあると報告されています。アントシアニンは植物がつくる赤や紫の色素で、リンゴの赤さを担う成分です。

代謝物の解析では、両品種のあいだで蓄積量に差のある代謝物が418種類見つかりました。そのうち、シアニジン系と呼ばれるアントシアニン3種——シアニジン-3-O-(6″-O-マロニル)グルコシド、シアニジン-3-O-(2″-O-キシロシル)ガラクトシド、シアニジン-3-O-グルコシド——が、HJHの果皮で顕著に増えており、濃い赤色をもたらす中心的な色素だと位置づけられています。

遺伝子側の解析では、発現量に差のある遺伝子が533個特定されました。qRT-PCRによる確認と合わせると、アントシアニンの合成にかかわる遺伝子MdDFR(ジヒドロフラボノール還元酵素)が、HJHの果実の重要な発育段階を通じて一貫して高く発現しており、その変化の推移がアントシアニンの蓄積のパターンとよく一致していたと述べられています。

これらを総合して研究チームは、MdDFRの発現が高まることがシアニジン系アントシアニンの特異的な蓄積を促し、それがHJHの濃い赤い果皮を生み出す中心的な分子レベルの出来事である、と結論づけています。

この報告が示すもの

同じ系統から生まれた二つのリンゴを比べるという設計によって、色の違いという目に見える差が、特定の色素の増加と、その合成を担う一つの遺伝子の働きへとたどられました。研究チームは、この成果がリンゴの着色を制御するネットワークの理解に新たな視点を与え、果実品質の遺伝的改良に向けた候補遺伝子を提示するものだとしています。

果皮の赤さという身近な性質の背後に、代謝物と遺伝子発現が結びついた具体的な道筋があることを示した報告だと言えます。

著者:Haidong Bu(Key Laboratory of Cold Region Fruit Breeding and Cultivation (Heilongjiang Province), Mudanjiang Branch of Heilongjiang Academy of Agricultural Sciences, Mudanjiang 157000, China)、Junling Qiao(Key Laboratory of Fruit Postharvest Biology (Liaoning Province), College of Horticulture, Shenyang Agricultural University, Shenyang 110866, China)、Yige Jiang(Key Laboratory of Fruit Postharvest Biology (Liaoning Province), College of Horticulture, Shenyang Agricultural University, Shenyang 110866, China)、Wenquan Yu(Key Laboratory of Cold Region Fruit Breeding and Cultivation (Heilongjiang Province), Mudanjiang Branch of Heilongjiang Academy of Agricultural Sciences, Mudanjiang 157000, China)、Hui Yuan(Key Laboratory of Fruit Postharvest Biology (Liaoning Province), College of Horticulture, Shenyang Agricultural University, Shenyang 110866, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Haidong Bu, Junling Qiao, Yige Jiang, et al. Mechanism Underlying the Color Differences in Apples Based on Metabolomic and Transcriptomic Analyses. International Journal of Molecular Sciences 2026-09-07. DOI: 10.3390/ijms27177954. 原著ライセンス:CC BY.