刺身や干物、塩辛など、魚介類を使った食品は日本の食卓に欠かせない存在です。しかし魚介類は傷みやすく、保存や加工の過程で「生体アミン」と呼ばれる物質が生成されることが知られています。ジャーナル・オブ・フード・プロテクション誌に2026年10月に掲載予定のレビュー論文は、水産食品における生体アミンの生成を抑えるための技術を整理し、安全性と品質の両立に向けた研究動向をまとめています。
この論文はイランの研究者らによってまとめられました。著者らはHalal Research Center of IRI(イラン食品医薬品局)や、シャヒード・ベヘシュティ医科大学、テヘラン医科大学、ウルミア医科大学、ザンジャン医科大学、ヤースージ医科大学など、イラン国内の複数の研究機関に所属しています。
生体アミンとは何か
生体アミンとは、分子量の小さい有機塩基の一種で、発酵食品や腐敗しやすい食品を中心に、さまざまな食品中に自然に存在する物質だと説明されています。人の体内では本来、生理的に重要な役割を担っている一方で、食品を通じて過剰に摂取すると健康に悪影響を及ぼす可能性があるとされています。魚やチーズ、発酵食品などに蓄積することがあり、食品安全上の化学的ハザード(危害要因)として位置づけられ、毒性学的な影響を引き起こしうる物質だと論文では述べられています。
特に水産物において生体アミンのレベルが高くなった食品を摂取した場合、頭痛や高血圧から、重篤なアレルギー反応まで、幅広い症状が生じる可能性があるとされています。これらの症状の出方は、個人の感受性や、実際に含まれているアミンの種類によって異なるとも説明されています。魚介類は良質なタンパク質、必須脂肪酸、微量栄養素を含み、人の栄養にとって重要な食品である一方、傷みやすく生体アミンが生成されやすいという性質が、食品の安全性と品質にとって大きな課題になっていると論文は指摘しています。
生体アミンを抑える3つのアプローチ
この論文は、水産食品における生体アミンの生成を抑える新しい戦略について、詳しく概観するレビューです。論文では、こうした対策技術を大きく3つに分類しています。
- 物理的な方法:高静水圧処理、ガス置換包装(気体組成を調整した包装)、照射処理など
- 化学的な方法:天然抽出物、精油(エッセンシャルオイル)など
- 微生物学的な方法:プロバイオティクス菌株、スターター培養(発酵に用いる微生物の種菌)など
論文では、これらの方法を組み合わせて使うことで、相乗的な効果が得られる場合が多いと述べられています。単独で使うよりも組み合わせて用いるほうが、風味や香り、食感、色といった水産食品の望ましい品質特性を保ちながら、生体アミンをより効率的に抑えられるとされています。こうした技術を統合的に取り入れることで、水産食品の安全性を大きく高め、保存期間を延ばし、消費者からの受け入れやすさも向上させられる可能性があると論文はまとめています。
この研究を読むうえでの注意点
この論文は、実験によって新しいデータを得た研究ではなく、既存の研究をまとめて整理したレビュー論文です。そのため、ここで紹介されている物理的・化学的・微生物学的な各手法の効果は、これまでに行われた研究の知見を総括したものであり、この論文自体が新たな実験によって効果を検証したわけではない点に留意が必要です。また、生体アミンによる健康影響の程度は個人の感受性やアミンの種類によって異なるとされており、一律に危険性を断定できるものではないことも述べられています。
まとめ
今回紹介したレビュー論文は、水産食品において生成される生体アミンという物質に着目し、それを物理的・化学的・微生物学的な手法によって抑える技術動向を整理したものです。魚介類の安全性と品質をどう両立させるかという課題に対し、複数の技術を組み合わせるアプローチが有効である可能性が示唆されています。今後、こうした知見が実際の食品加工や保存の現場でどのように活用されていくのか、引き続き注目される分野だといえそうです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:水産食品における生体アミン生成の制御方法:安全性と品質の確保(ジャーナル・オブ・フード・プロテクション・2026年10月掲載予定)