この研究は、オランダ、スイスの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Materials & Design
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
空から物資を届けるときの課題
災害時などに物資を空から投下する方法は、地上へ素早く支援を届ける手段として有効です。しかし研究チームは、自由落下する物体が地面に衝突するときの衝撃が大きくなりうる点を問題として挙げています。落下物の衝撃は、人にとっても物資そのものにとっても危険になりうるためです。
この課題への対応として、著者らはカエデの種が回転しながらゆっくり降りていく性質に着想を得ました。カエデの種は、風を受けて自ら回りながら降下することで落下の速度を抑えます。この「自己回転による降下」を、食べられる素材でつくった飛行体で再現しようというのが今回の提案です。ここでいう食べられる飛行体とは、翼を含む機体そのものが食品素材でできており、届いた先でそのまま食べられるものを指します。
どのようにつくり、何を調べたか
研究チームは、複数の食用部品を組み合わせて飛行体を製作したと報告しています。製作には、加熱しながら圧力をかけて成形する熱圧縮成形、食品を材料として立体的に造形する3Dフードプリンティング、そして乾燥という三つの工程が用いられました。
素材については、さまざまな食用材料が検討されました。着目されたのは、実際につくりやすいかという製造上の扱いやすさと、飛行体として必要な強度などの機械的性能とのバランスです。著者らは、この両者を両立させる組成を探ったと述べています。また、翼の材料構成と搭載する積載物の重さを調整することで、飛行体の栄養面の内容を調整できるとしています。
飛行性能の確認には二種類の実験が行われました。一つは垂直方向の風洞を使った実験で、空気の流れに対する飛行体の性質が評価されました。もう一つは屋内での落下試験で、飛行体が自ら回転する動きによって降下速度を下げられることが確かめられたと報告されています。
この研究が示すもの
この研究は、生き物の仕組みに学んだ形と、食品を素材とするものづくりの技術を組み合わせることで、機体そのものが中身になるという発想を形にした点に特徴があります。落下速度を抑える働きを、装置ではなく食べられる構造そのものが担っています。
著者らは、こうした食べられる飛行体を空から配る方法が、人や動物へ命をつなぐ栄養を素早く届ける緊急対応の手段になりうると位置づけています。今回報告されているのは、素材の選定と製作方法、そして風洞実験と屋内落下試験による飛行特性の確認までの段階です。
著者:Ruihao Zhu(Laboratory of Food Process Engineering, Wageningen University and Research, P.O. Box 17, 6700 AA Wageningen, the Netherlands)、Bokeon Kwak(Laboratory of Intelligent Systems, Institute of Mechanical Engineering, École Polytechnique Fédérale de Lausanne (EPFL), Lausanne, Switzerland)、Maarten A.I. Schutyser(Laboratory of Food Process Engineering, Wageningen University and Research, P.O. Box 17, 6700 AA Wageningen, the Netherlands)、Remko M. Boom(Laboratory of Food Process Engineering, Wageningen University and Research, P.O. Box 17, 6700 AA Wageningen, the Netherlands)、Dario Floreano(Laboratory of Intelligent Systems, Institute of Mechanical Engineering, École Polytechnique Fédérale de Lausanne (EPFL), Lausanne, Switzerland)、Lu Zhang(Laboratory of Food Process Engineering, Wageningen University and Research, P.O. Box 17, 6700 AA Wageningen, the Netherlands)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ruihao Zhu, Bokeon Kwak, Maarten A.I. Schutyser, et al. Bio-inspired edible self-spinning flyers. Materials & Design 2026-09-01. DOI: 10.1016/j.matdes.2026.117038. 原著ライセンス:CC BY.