日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。

掲載誌:Thin Solid Films

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

飲料の成分や品質を電気的に調べる方法のひとつに、ボルタンメトリーと呼ばれる測定があります。溶液に浸した電極にかける電圧を少しずつ変えながら流れる電流を記録すると、その液体に固有の波形(パターン)が得られます。ただし、繰り返し使える単一の作用電極(測定の中心となる電極)を用いて飲料を分析する仕組みは、まだ十分に検討されていないと著者らは述べています。

この研究で著者らが着目したのが、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜です。DLC膜は炭素を主成分とする薄い膜で、成膜時に流す原料ガスの組成を変えることで、電気的・光学的・表面的・電気化学的な性質を調整できるという特徴があります。著者らは、この調整可能性を利用して日本酒の測定に適した電極をつくれるかどうかを調べました。

何を調べたか

著者らは、低周波プラズマCVD(プラズマを使って気体から薄膜を析出させる成膜法)により、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)基板の上にDLC膜を成膜しました。原料ガスにはメタンと水素の混合ガスを用い、水素の割合を0%にしたものと40%にしたものの2種類を作製し、それぞれDLC(H₂:0%)、DLC(H₂:40%)と呼んでいます。

作製した膜の性質は複数の分析手法で調べられました。赤外分光法では炭素と水素の結合の状態を、ラマン分光法では炭素原子のつながり方を、X線光電子分光法では炭素結合の種類の割合を評価しています。あわせて、膜の光学的な性質(屈折率と消衰係数)と、日本酒に対する接触角(液滴が表面でどれだけ広がるかを示す、ぬれやすさの指標)も測定しました。

電気化学的な評価では、DLC膜を成膜したFTOを作用電極とする三電極系を組み、サイクリックボルタンメトリーを行いました。さらに5種類の日本酒を測定し、得られた電流波形(ボルタンメトリック・フィンガープリント)をユークリッド距離解析と主成分分析という2つの統計的手法で比較しています。

報告された主な結果

水素を40%加えた膜では、赤外分光法で炭素-水素結合に由来する信号の強度が低くなり、結合の状態が変化していることが示されました。ラマン分光法ではGバンドと呼ばれるピークが低波数側へ移動し、sp²炭素(平面的につながった炭素)の状態に変化があることが示されています。X線光電子分光法では、水素40%の膜のほうがsp²炭素どうしの結合の相対的な割合が低く、sp³炭素(立体的につながった炭素)どうしの結合の相対的な割合が高いという結果が報告されました。

屈折率と消衰係数はDLC(H₂:40%)のほうが高い値を示しました。また、日本酒に対する接触角は、どちらのDLC膜も膜を付けていないFTOより小さく、日本酒がなじみやすい表面になっていました。電気化学測定では、DLC(H₂:40%)が調べた電極のなかで最も広い電位窓(測定に使える電圧の範囲)を示しています。

5種類の日本酒の測定結果について、ユークリッド距離解析と主成分分析を行ったところ、応答には再現性があり、試料ごとに分かれたまとまり(クラスター)が現れたと報告されています。

この研究が示すこと

著者らは、原料ガスへの水素添加がDLC膜の結合状態と界面の性質を変えること、そしてDLC(H₂:40%)を用いると日本酒を再現性よくボルタンメトリーで区別できることを、これらの結果が示していると述べています。単一の作用電極で複数の日本酒を見分けられたという点は、食品分析や品質モニタリングへの可能性を示すものとして位置づけられています。

成膜条件という比較的扱いやすい要素を変えるだけで電極の性質を調整できることは、目的に合わせた測定用電極を設計するうえでの手がかりになります。この研究は、材料の作り方と電気化学的なふるまい、そして実際の飲料の識別とを一つながりに結んで示した報告といえます。

著者:H. Moide(Tokyo Denki University, Saitama Hatoyama Campus, Ishizaka, Hatoyama-machi, Hiki-gun, Saitama 350-0394, Japan)、H. Akasaka(Institute of Science Tokyo, Ookayama Campus, 2-12-1 Ookayama, Meguro-ku, Tokyo 152-8550, Japan)、M. Aono(Kagoshima University, Korimoto Campus, 1-21-24 Korimoto, Kagoshima 890-8580, Japan)、T. Harigai(Gifu University, 1-1 Yanagido, Gifu 501-1193, Japan)、Yoshiharu Mukouyama(Tokyo Denki University, Saitama Hatoyama Campus, Ishizaka, Hatoyama-machi, Hiki-gun, Saitama 350-0394, Japan)、Kenji Hirakuri(Tokyo Denki University, Tokyo Senju Campus, 5 Senju Asahi-cho, Adachi-ku, Tokyo 120-8551, Japan)、Yasuharu Ohgoe(Tokyo Denki University, Saitama Hatoyama Campus, Ishizaka, Hatoyama-machi, Hiki-gun, Saitama 350-0394, Japan)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):H. Moide, H. Akasaka, M. Aono, et al. Electrochemical properties of diamond-like carbon film electrodes for Japanese sake sensing using cyclic voltammetry. Thin Solid Films 2026-09-01. DOI: 10.1016/j.tsf.2026.141033. 原著ライセンス:CC BY.