この研究は、モロッコの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Scientific Reports
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
なぜ調べたのか
スポーツの現場では、パフォーマンスの向上や疲労からの回復、栄養の不足を補う目的で、いわゆる栄養補助食品(サプリメント)が広く使われています。研究チームによれば、これらの製品は健康面と倫理面の双方で懸念を伴い、とりわけ「意図しないドーピング」のリスクが問題になります。論文は先行研究を引きながら、スポーツ向けに販売されている製品のうち一定の割合に、ラベルに表示されないまま世界アンチ・ドーピング規程で禁止された物質が含まれていたとの報告があることを紹介しています。
著者らは、モロッコではスポーツ人口とサプリメント消費がともに増えている一方で、この分野を直接規制する法制度がなく、2023年の省庁通達が唯一の参照枠にとどまっていると述べています。こうした状況にもかかわらず、モロッコの競技者に関するデータは乏しいままでした。そこで本研究は、競技者がサプリメントについて何を知り、どう考え、実際にどう使っているのか(知識・態度・実践、いわゆるKAP)を把握し、利用に関連する要因を探ることを目的としました。
どのように調べたか
調査は2023年12月から2024年10月にかけて行われた横断研究です。横断研究とは、ある期間に集めた情報から状況の断面をとらえる手法で、原因と結果の順序までは示せません。モロッコの14の競技連盟を通じて協力の得られた競技者に声をかける便宜的な募集方法がとられ、キックボクシングやテコンドー、柔道、空手、サッカー、ホッケー、eスポーツ、ボート、バレーボール、ボクシング、陸上、レスリング、視覚障害者スポーツ、トライアスロンといった幅広い種目が対象となりました。
アラビア語とフランス語で用意された質問票に、オンラインまたは競技イベントや啓発セッションの場で回答してもらう形式です。回収された1,149件のうち、条件を満たさないものなどを除いた1,094件が分析に用いられました。対象は18歳以上でモロッコ国籍を持つ、連盟に所属する競技者です。集計に加えて、サプリメント利用と関連する要因を探るためのロジスティック回帰分析も行われましたが、この多変量解析はすべての項目に回答のあった366人(全体の33.5%)に限って実施されており、著者ら自身が探索的な分析と位置づけています。
主な報告結果
サプリメントを使っていると答えた人の割合は38.1%でした。男女で利用率に統計的に意味のある差は見られませんでした。利用者417人のうち、使う理由として最も多かったのはパフォーマンスの向上で52%を占め、次いで活力の増進、筋力の強化、回復の促進が挙げられています。使われている製品としてはタンパク質・アミノ酸が最も多く(利用者の50.8%)、ミネラルや微量元素、ビタミンが続きました。
一方で、知識と管理の面では手薄さが目立ちます。潜在的なリスクを認識していると答えた人は51.4%で、著者らは競技者のおよそ半数がリスクを把握していなかったと報告しています。サプリメントに禁止物質が含まれうることを知っていたのは24.1%にとどまりました。情報の入手先としては、チームメイトや家族といった身近な人間関係が最も多く挙げられ、医療従事者への相談経験があると答えたのは16%でした。利用者のうち、医学的あるいは栄養学的な指導のもとで使っているのは27.3%で、定期的な医学的フォローアップを受けているのは25.9%でした。
探索的な多変量解析では、28〜32歳の競技者(オッズ比2.75、95%信頼区間1.34〜5.67)と、医療従事者に相談したことのある競技者(オッズ比3.38、同1.92〜5.94)で利用の報告が多い傾向が示されました。逆に、週の練習時間が5時間未満の人(オッズ比0.48)や、サプリメントがパフォーマンス向上に不可欠とは考えていない人(オッズ比0.43)では利用が少なくなっていました。オッズ比は、ある特徴を持つ群と基準となる群とで利用の起こりやすさを比べた指標で、1より大きければ多く、小さければ少ないことを意味します。なお、これらは関連を示すものであり、どちらが先かという因果の向きを示すものではありません。モデルの識別能はAUC 0.77と許容できる水準で、説明変数どうしの強い重複(多重共線性)は認められなかったと報告されています。
この報告が示すもの
著者らは、この38.1%という利用率が国際的にみて平均的な範囲に収まり、ヨーロッパで報告されている37〜60%と比べうる一方、サウジアラビアの93%といった数値よりは低いと位置づけています。こうした差は、競技の職業化の程度や製品の入手しやすさ、医学的な意識、各国のアンチ・ドーピング政策の違いを反映していると述べられています。
本研究で描き出されたのは、サプリメント利用が珍しくない一方で、その多くが専門家の管理を離れたところで行われているという像です。著者らは、知識の限られていること、医療従事者との接点が少ないこと、そして意図しないドーピングのリスクが小さくないことを指摘し、教育面と規制面の取り組みを組み立てるための予備的な根拠になると述べています。ただし、参加者が便宜的に募られていること、多変量解析が全回答者の一部に基づくことから、著者ら自身がこれらを探索的な知見と位置づけ、全国を代表する形の調査による確認が必要だとしています。
著者:Ilham Oufkir(Laboratory of Drug Sciences Research, Mohammed VI Faculty of Pharmacy, Mohammed VI University of Sciences and Health – UM6SS, Casablanca, Morocco)、Naima Rhalem(Moroccan Anti-Doping Agency, Rabat, Morocco)、Moulay Ahmed Bellimam(Moroccan Anti-Doping Agency, Rabat, Morocco)、Abdelghani Asraoui(Laboratory of Biology and Health, Faculty of Science, Ibn Tofail University, Kénitra, Morocco)、Arij El Haddouchi(Interdisciplinary Laboratory of Biotechnology and Health, Mohammed VI Higher Institute of Biosciences and Biotechnology, Mohammed VI University of Sciences and Health (UM6SS), Casablanca, Morocco)、Amina Marrouh(Laboratory of Drug Sciences Research, Mohammed VI Faculty of Pharmacy, Mohammed VI University of Sciences and Health – UM6SS, Casablanca, Morocco)、Rachid Eljaoudi(Medical Biotechnology Laboratory, Rabat Medical and Pharmacy School, Mohammed V University, Rabat, Morocco)、Fatima Abouali(Moroccan Anti-Doping Agency, Rabat, Morocco)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ilham Oufkir, Naima Rhalem, Moulay Ahmed Bellimam, et al. Knowledge, attitudes, and practices regarding dietary supplements among athletes in Morocco: a national cross-sectional exploratory study. Scientific Reports 2026-09-19. DOI: 10.1038/s41598-026-69912-6. 原著ライセンス:CC BY.