著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Journal of Future Foods
ライセンス: CC BY-NC-ND 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
玄米は白米に比べて食物繊維や栄養素を多く含む一方、食感や消化のされやすさの面で加工の工夫が求められてきました。近年は発芽玄米のように、発芽という生物学的なプロセスを利用してデンプンの性質を変える研究が注目されています。今回紹介する研究は、発芽の過程に中程度の電場(moderate electric field、MEF)を組み合わせることで、玄米デンプンの構造や消化されやすさがどのように変わるのかを調べたものです。中国・南京農業大学食品科学技術学院の全粒穀物食品工学研究センターなどに所属する研究者らによって行われ、ジャーナル・オブ・フューチャー・フーズに2026年8月に掲載予定です。
電場を加えながら発芽させると何が起こるのか
研究チームは、玄米を発芽させる際に中程度の電場を併用する処理(MEF処理)を行い、通常の発芽(対照群)と比較しました。その結果、発芽5日目の時点でMEF処理群のデンプン含有量は対照群より12.81%低くなっており、電場を加えることでデンプンの分解が速まっていることが示されました。
興味深いのは、この変化が発芽の進み具合によって性質が異なっていた点です。発芽初期(1日目)では、MEF処理を行ったデンプインの結晶化度は24.64%となり、対照群の24.02%よりわずかに高くなりました。これは構造がより秩序立った状態になったことを意味し、あわせてアミロペクチンの短い鎖が増え、デンプン分子の短距離での規則性も高まっていたということです。ところが発芽が進んだ3〜5日目になると一転し、MEF処理は結晶構造の崩壊を早め、デンプン分子内の二重らせん構造の乱れやデンプン粒子の断片化が進んでいました。
水への溶けやすさや消化性にも段階的な変化
こうした構造の変化は、デンプンの機能的な性質とも関係していました。水溶性や膨潤力(水を吸って膨らむ性質)は、発芽初期にはMEF処理によって低下しましたが、発芽後期には逆に大きく上昇するという、構造変化と対応する二段階のパターンが見られました。
消化されやすさについても同様の傾向が確認されています。発芽1日目では、MEF処理によって消化の速い「速消化性デンプン(RDS)」が3.41%減少する一方、消化がゆっくり進む「緩消化性デンプン(SDS)」が2.76%、消化されにくい「難消化性デンプン(RS)」が0.64%、それぞれ増加しました。しかし発芽後期にはこれと反対の傾向が現れたとのことです。
さらに研究チームは、発芽させずに取り出したデンプインへ直接MEFを加える実験も行っています。この場合は構造にほとんど変化が見られなかった一方、MEFを併用した発芽の過程ではデンプンを分解する酵素であるα-アミラーゼの活性が高まっていました。この結果から、MEFによるデンプンの変化は電場そのものが直接デンプンに作用したというよりも、発芽中の酵素の働きが強められたことを介して起きている可能性が示唆されています。
この研究をどう読むか
この研究は、玄米デンプインの構造や消化性を、添加物を使わない「クリーンラベル」的な手法で調整できる可能性を示すものとして位置づけられています。ただし、これは一つの研究で得られた知見であり、発芽の日数や電場の条件が異なればどう変わるのか、実際の食品加工や人の消化管の中でも同様の効果が得られるのかについては、この要旨の範囲では明らかにされていません。今回の結果を人の健康効果と直接結びつけて解釈することは避け、今後の研究の積み重ねを待つ必要があります。
まとめ
この研究では、玄米の発芽に中程度の電場処理を組み合わせることで、デンプンの結晶構造や水溶性、消化されやすさが発芽の初期と後期で異なる方向に変化することが報告されました。変化の背景には、電場処理によって高まったα-アミラーゼという酵素の働きが関わっている可能性が示唆されています。今後、全粒穀物を使った食品の設計にこうした知見がどう活かされていくのか、続報が注目されます。
著者:Xuejiao Zhang(College of Food Science and Technology, Whole Grain Food Engineering Research Center, Nanjing Agricultural University, Nanjing, Jiangsu Province 210095, China)、Xiaoyuan Zheng(Research Center for Natural Medicine and Chemical Metrology, Lanzhou Institute of Chemical Physics, Chinese Academy of Sciences (CAS), Lanzhou, Gansu Province 730000, China)、Kexin Wang(College of Food Science and Technology, Whole Grain Food Engineering Research Center, Nanjing Agricultural University, Nanjing, Jiangsu Province 210095, China)、Yuxin Wen(College of Food Science and Technology, Whole Grain Food Engineering Research Center, Nanjing Agricultural University, Nanjing, Jiangsu Province 210095, China)、Chong Xie(College of Food Science and Technology, Whole Grain Food Engineering Research Center, Nanjing Agricultural University, Nanjing, Jiangsu Province 210095, China)、Yang Tao(College of Food Science and Technology, Whole Grain Food Engineering Research Center, Nanjing Agricultural University, Nanjing, Jiangsu Province 210095, China)、Pei Wang(College of Food Science and Technology, Whole Grain Food Engineering Research Center, Nanjing Agricultural University, Nanjing, Jiangsu Province 210095, China)、Yongbin Han(College of Food Science and Technology, Whole Grain Food Engineering Research Center, Nanjing Agricultural University, Nanjing, Jiangsu Province 210095, China)、Dandan Li(College of Food Science and Technology, Whole Grain Food Engineering Research Center, Nanjing Agricultural University, Nanjing, Jiangsu Province 210095, China)
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Xuejiao Zhang, Xiaoyuan Zheng, Kexin Wang, et al. Moderate electric field-assisted germination shapes brown rice starch: Structure, physicochemical properties, and digestibility. ジャーナル・オブ・フューチャー・フーズ (2026). DOI: 10.1016/j.jfutfo.2026.08.011. 原著ライセンス: cc-by-nc-nd.