近年、微細藻類は栄養価の高い食品素材として注目され、すでにさまざまな加工食品に添加されています。とはいえ、藻類を混ぜることで食品の「食感」や「見た目」がどう変わるのかは、意外と詳しく調べられていません。特にジャガイモデンプンから作られるゲル(とろみのある半固形状の食品)に藻類を加えた場合、その力学的な性質や構造にどのような影響が出るのかは、これまで十分に解明されていなかったとされています。今回紹介する論文は、この点に着目し、スピルリナ(Arthrospira platensis)とクロレラ(Chlorella vulgaris)という2種類の代表的な微細藻類を使って、ジャガイモデンプンゲルの物性がどう変化するかを比較検討したものです。
何を、どうやって調べたのか
研究チームは、ジャガイモデンプンのゲルにスピルリナまたはクロレラを0.5%、1%、2%(重量比)の割合で加え、何も加えていない対照群と比較しました。評価には、力の加わり方に対する流動性を調べる「定常せん断流動試験」、色を数値化する比色測定、近赤外(NIR)分光法、そして顕微鏡による微細構造の観察という、複数の手法が組み合わされました。
研究でわかったこと
結果として、糸状(フィラメント状)の構造を持つスピルリナを加えると、ゲルの「降伏応力」(ゲルが変形し始めるのに必要な力の大きさ)が、対照群の10.2Paから2%添加時には32.4Paへと大きく増加したと報告されています。これは、スピルリナの糸状構造がデンプン粒子を絡めとるように働き、ゲルの構造を補強していると考えられています。
一方、球状の細胞形態を持つクロレラを加えた場合には逆の傾向が見られ、降伏応力は2%添加時に4.8Paまで低下したとされています。顕微鏡観察では、スピルリナの糸状構造がデンプン粒子に絡みつく様子が確認されたのに対し、クロレラの細胞はデンプン粒子の隙間に入り込むように分布していたことが示されており、両者の形状の違いがゲルの構造への影響の違いにつながっていると考察されています。
色に関しては、スピルリナを2%加えると明度(L*値)が31.59から18.54へと有意に低下し、ゲルが有意に暗く、緑がかった色調になることが確認されたとされています。また、近赤外分光法では、5172cm⁻¹および5646cm⁻¹という特定の波数帯において変化が見られ、これはゲル内部の水分子の分布状態が藻類の添加によって変わった可能性を示唆するものと報告されています。
これらの結果から、研究チームは、スピルリナは流動に対する抵抗性と構造の安定性を高める方向に働き、クロレラは流動を妨げる要素を減らし、ゲルの広がりやすさ(スプレッド性)を高める方向に働く、と結論づけています。
この研究の読み方・注意点
この論文は、あくまでジャガイモデンプンゲルという特定の系において、スピルリナとクロレラという2種類の藻類を特定の濃度範囲で添加した場合の物理的・構造的な変化を調べた一つの研究です。ここで示された数値や傾向は、使用したデンプンの種類や藻類の状態、実験条件に基づくものであり、他の食品や配合条件でも同様の結果になるとは限りません。また、この研究は物性面(流動性、色、微細構造)に焦点を当てたものであり、風味や栄養面での評価、あるいは健康への影響を検証したものではない点にも留意が必要です。
まとめ
今回の研究では、形状の異なる2種類の微細藻類—糸状のスピルリナと球状のクロレラ—を同じジャガイモデンプンゲルに添加した際に、それぞれ異なる方向にゲルの物性を変化させることが示されました。スピルリナは構造を補強してゲルを硬くする方向に、クロレラは構造を緩めて広がりやすくする方向に働く可能性が示唆されています。こうした知見は、藻類を使った食品開発において、目的に応じた素材選びや配合設計の参考になる基礎的な情報として位置づけられます。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:微細藻類の添加がジャガイモデンプンゲルのレオロジー特性・微細構造・比色特性に与える比較効果(フーズ・2026年08月)