キャッサバ(タピオカの原料となるイモ)から作られるデンプンは、小麦粉の代替やグルテンフリー食品の材料として世界各地で利用されています。中でも「サワーキャッサバデンプン」と呼ばれるものは、自然発酵によってデンプンの分子構造が変化し、パンにしたときに独特のふくらみを生み出すことが知られています。しかし、この自然発酵の過程を人工的に再現し、コントロールする技術はこれまであまり確立されていませんでした。今回紹介する研究は、発酵の代わりに「α-アミラーゼ」という酵素を使うことで、この効果を再現・調整できないかを調べたものです。

研究でわかったこと

研究チームは、INIAP 651という品種のキャッサバから得たデンプンに対して、α-アミラーゼという酵素を異なる量(0、2、4、6、8、9 U/gという単位)で20分間反応させ、その後デンプンを水と混ぜて加熱処理(プレゲル化)してからパンを焼くという実験を行いました。焼き上がったパンについては比容積(パンがどれだけふくらんだかを示す指標)を、生地についてはミキソラブという機器を使った特性評価や粘度の変化を、さらに栄養面の特性も測定しています。

その結果、酵素を6 U/g加えた条件が、パンのふくらみやすさや生地のこね上がりの良さといった「機能特性」において最も優れた結果を示したと報告されています。具体的には、比容積は4.28 mL/gと最も高く、生地の粘弾性に関わる数値(C3が1.67 Nm、C4が1.11 Nm)や、デンプン糊化時のピーク粘度(6550 mPa・s)も最も高い一方、冷却時に粘度が戻る度合いを示す「セットバック」の値は最も低い(1526 mPa・s)という結果になりました。

一方で、栄養面に着目すると異なる傾向が見られました。α-アミラーゼを9 U/gと最も多く加えた条件では、食後の血糖値上昇のしやすさを示す推定血糖指数(eGI)が51.25と最も低く、消化されやすいデンプン(急速消化性デンプン)の量も100gあたり15.85gと最も少なかったと報告されています。つまり、パンの膨らみやすさを重視するなら6 U/g、血糖値への影響を抑えることを重視するなら9 U/gの添加が、それぞれ最も良い結果につながったということです。

これらの結果から、研究チームはα-アミラーゼの添加量を調整することで、キャッサバデンプンの機能性(パン作りへの適性)と栄養特性(血糖コントロールとの関連が示唆される特性)の両方をコントロールできる可能性があるとまとめています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究は、特定の条件下での実験によって得られた結果であり、パンのふくらみやすさを最も高める添加量(6 U/g)と、栄養面で最も良い結果を示した添加量(9 U/g)が異なっていた点は重要です。つまり、両方の良さを同時に最大化する単一の条件が見つかったわけではありません。また、ここで示された血糖指数はあくまで実験室内での推定値であり、実際に人がこのパンを食べた場合の血糖値への影響を直接測定したものではない点にも留意が必要です。一つの研究による知見であり、今後さらなる検証が重ねられていく段階にあると考えられます。

まとめ

この研究では、キャッサバデンプンにα-アミラーゼという酵素を加える量を変えることで、パンのふくらみやすさと、消化・血糖に関わる特性の両方が変化することが示されました。伝統的な発酵によるサワーキャッサバデンプンの特性を、酵素処理という形でコントロールできる可能性を示した基礎研究として位置づけられます。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:パン製造におけるα-アミラーゼ修飾キャッサバデンプンの機能特性と栄養特性の評価(フーズ・2026年06月)