近年、「免疫機能の維持に役立つ」ことをうたう機能性表示食品が登場し、食品を通じて免疫の状態を保ちたいという消費者の関心が高まっています。その中で注目されているのが、難消化性オリゴ糖や食物繊維といった「プレバイオティクス」です。これらはヒトの消化酵素では分解されず、腸内細菌のはたらきを介して宿主の健康に良い影響を与えるとされる食品成分で、感染防御を高める作用やアレルギー反応を和らげる作用なども期待され、研究が進められています。
プレバイオティクスの免疫調節作用を考えるうえで重要なのが、その作用がどこで起きているかという点です。腸内細菌の多くは大腸に存在するため、プレバイオティクスの効果も大腸で主に発揮されると考えられます。しかし、これまでの免疫研究は全身の免疫系や、小腸にあるパイエル板といったリンパ組織を対象にしたものが中心でした。日本大学に所属する津田真人氏らの研究グループは、プレバイオティクスによる免疫調節の出発点になり得る大腸の免疫組織そのものに着目し、そこでの抗体産生のしくみを調べてきました。
大腸のリンパ組織で見つかった特徴的な抗体産生
小腸のパイエル板は、腸管の免疫を語るうえでよく知られた組織で、IgA抗体という種類の抗体を主に作り出す場として知られています。これに対し研究グループは、BALB/cマウスの盲腸粘膜に存在する「Cecal patches(CeP)」というリンパ組織に注目しました。CePを調べたところ、IgAとは異なる「IgG2b」という種類の抗体を作るB細胞が豊富に存在することが明らかになりました。
さらに、無菌状態で育てたマウスや、抗生物質を投与して腸内細菌の種類や数を制限したマウスを用いた実験から、CePでこのIgG2b陽性B細胞が作られるためには腸内細菌の存在が必要であることが示されました。加えて、Cep由来のB細胞が産生するIgG2b抗体は、腸内細菌に対して強く結合する性質を持つことも確認されています。こうした知見は、Tsuda氏らによる2022年のJ Immunol Res誌の報告や、2025年のBiosci Microbiota Food Health誌の報告としてすでに発表されています。研究グループは、健常なヒトやマウスの血液中に腸内細菌に反応するIgG抗体が存在し、全身性の細菌感染に対する防御にはたらくとの報告があることから、CePがこうした抗体の供給源の一つとなっている可能性を推察しています。
プレバイオティクス摂取によって抗体産生が変化するか
この大腸の免疫システムを、食品成分によって調節できるのかどうかについても検討が進められています。代表的なプレバイオティクスであるフラクトオリゴ糖(FOS)を含む飼料をマウスに摂取させた実験では、腸管や血液中のIgAおよびIgG2b抗体の量が増加することが示されました。また、CePの内部で抗体産生に関わる細胞の応答が促進されることも確認されたとしています。現在、研究グループはFOSによってこうした抗体産生応答が促進される背景にある腸内細菌叢の変化や、その腸内細菌が免疫をどのように調節しているのかについて、さらに解析を進めているとのことです。
この研究を読むうえで押さえておきたいこと
今回紹介した内容は、日本食品科学工学会大会の講演要旨としてまとめられたものであり、マウスを用いた動物実験に基づく知見です。ヒトにおいても同様の反応が起きるかどうかは、この要旨の範囲では示されていません。また、FOS摂取によって抗体産生に関わる腸内細菌叢の変化やその作用機序については、現在も解析が続けられている段階とされており、詳しいメカニズムはまだ研究途上にあります。一つの研究グループによる知見であり、免疫機能への効果を断定するものではない点に留意する必要があります。
まとめ
この研究は、大腸に存在するCecal patchesというリンパ組織が、腸内細菌の存在を前提としてIgG2b抗体を作り出す独自の場であることを示し、フラクトオリゴ糖のようなプレバイオティクスの摂取がこの大腸免疫系を介した抗体産生に影響を与える可能性を報告しています。全身免疫やパイエル板を中心に語られてきた腸管免疫の理解に、大腸という新たな視点を加える研究として位置づけられます。今後、腸内細菌叢の変化や作用機序の解明が進むことで、プレバイオティクスと免疫の関係についてより詳しい知見が得られることが期待されます。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Masato Tsuda. プレバイオティクスによる大腸免疫系を介した抗体産生調節作用. 日本食品科学工学会大会講演要旨集 (2026). DOI: 10.3136/aamjsfst.72.0_36.